第40話 妖精さんと厨房サミット



「いやーノノがいると、厨房が賑やかになるなぁ」



私が厨房に入ると、シェフにそう言われました。


もしそれが私に対していってくれているのであれば、嬉しいことこの上ないのですが、そういう意味ではありません。



「何かお手伝いあるです?」



「調理器具お持ちいたしましたです」



「次の調味料はお塩で?」



「まもなく5分経つんやで」



厨房のあちこちに妖精が溢れています。



「ノノがいる時じゃないと、彼らもきてくれないからね。まぁ一気にこんなにたくさんきてくれることは今までなかったけど。」



カッカと嬉しそうに笑うシェフ。


そう、お店を出す前も、普段人前に出ない妖精たちは厨房に顔を出していたのです。


最初は一人、二人と増えて、最後の方になると5人は常に一緒に厨房入りしていました。


もちろん毎回メンバーはバラバラ、ローテーションでした。


まぁ今回こんな何十人も厨房に妖精がいるのは、世界中のシェフが厨房に集まっていることを知り張り切っているからなのでしょう。


あと、お店の仕事やフェアリーイーツのお仕事で、人慣れしたのかもしれないです。


とはいえ、こんなにいると…



「お邪魔じゃないですか?」



手のひらサイズとはいえこれだけうじゃうじゃいたら、道具を取り出す時大変なのではないでしょうか。



「むしろいつも手伝ってくれるから助かるよ。毒味がてら味見もしてくれるし、アドバイスもくれるし。」



意外と役に立っているようです。


しかし、話を聞いていたアンナは少し疑問に感じたようです。



「妖精ちゃんたちの毒味って、意味あるんですか?その…毒になる成分が人間と違う可能性が…」



まるで小人のようは風貌の妖精。

手足があって二足歩行、そしてしゃべる。


一見人間と同じような構造をしていそうですが、同じならば妖精だって妖精なんてカテゴライズされず、人間の一部に振り分けられるはずです。


そして人体構造は実際違います。



「そうですね…そもそも妖精に毒は効きませんから。」



妖精は植物とお友達。

それゆえ彼らに聞く毒など存在しないのです。

あったとしても自動的に排出できます。



「じゃぁ、味見はともかく、毒味の意味はないのではありませんか?」



「いいえ、毒が効かないだけで、成分はわかるんです。それに、人間にとっての毒が何かは知っているので、分析結果を出してくれるのです。ほら、あのように」



「これうまうまですな」



「炭水化物18g、食物繊維4g、タンパク質8g、糖分はと…」



「毒の成分はありませんので、美味しくいただけるかと」



「だけど塩分高めです」



「旨味は出ますが、健康的なことを考えるなら抑えても良きかと」



そして今言った数値を紙に書いて料理人に見せています。

それを言うと「高度ですね…」と言ってアンナは黙ってしまいました。



「それより彼らはいいのかい?」



「いいというのは?」



「ほら、一応妖精って伝説の生き物だろ?」



「そうですね」



「ノノのおかげで慣れたけど、本当はこの子ら人に隠れて生きてるんだろ?」



「そうですね」



「こんなに色んな人に見られて大丈夫なのかね。」



「そうですね…」



確かに、すでに各国お抱えの料理人は厨房の中に入り、晩餐の準備をしています。


当然ですが、各国の料理人もすでに妖精を目にしています、伝説の存在…とは程遠いのが現状です。


正直、最初は驚いていた各国の料理人たちですが、妖精たちのコミュニケーション術であっという間に打ち解け、さっきのような会話をしたり、味見をしたりしています。


すでにこんだけ厨房でわちゃわちゃ妖精が溢れてたら今更ですが、確かに彼らがこんなに大勢の人に見られていいのか、彼らのルール的に気になります。



「これこれそこの子達」



私は近くにいる妖精を呼び止めました。



「なんじゃらほい」



「今日は外国のお客様もいっぱいいます。姿見られてしまってもいいのですか?」



「見られちゃダメですか?」



「見られたらなんか悪いこと起きる?」



逆に聞かれてしまいました。



「だって、あなた方私がお店やるまで、人から隠れて暮らしてたでしょ?」



「でも今は人様に見られてます」



「押し売りしてます」



「配達もしてます」



「見られたい放題です」



存じてますけど。



「参加は希望者だけですゆえ」



「人に見られちゃいけない規則も特にないですさ」



つまりこういうことでしょうか。

自分たちが見られちゃいけないとかいう規則はないけど、人間が勝手にそう思い込んでいたと。


説明がややこしいので、シェフにはもっと簡単にお伝えしましょう。



「シェフ、まとめると、見られても問題ないそうです。」



「まぁ、本人がいいというならこちらは構わないが。」



あまり納得していないようですが、まぁどのみち妖精たちは姿を表してますしね。


今更です。



「それよりオーナー、そろそろ蒸しあがります」



「あ、そうでしたね。」



アンナにそう声をかけられます。


そういえば、餅米を蒸してる間暇を持て余してたんでしたっけ。

さて、餅米が蒸しあがったとなれば、これ以上雑談している暇はありません。

さっさと餅作りに励まねば。

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