第30話 妖精さんと殿下の脅し文句

「あ、あなた様がなぜこのような場所に……」



元婚約者様はそう言ってたじろぎます。

流石に一目見てわかったみたいですね、相手が一国のトップだってことが。


まぁ、だから余計にここにいることに驚いたのでしょうね。


それでも周りのパニックを抑えるために、彼が殿下だということを発言するのは控えようと考える頭は働いたようですが……



「……どこかで会ったことがあったか?」



あーあ、残念でしたね。

元婚約者様、殿下に顔覚えられてなかったみたいですね。


見てください、元婚約者様の鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情。


デビューしてから数年は経っているのに、覚えてもらえていないだなんて……


パーティーだって何回か出て、顔も合わせてるでしょうにね、哀れ。


まぁ、とはいえ、流石に身なりで貴族だということはわかったようでした。



「貴族ともあろう人間が、このような店で騒ぎを起こすのは、あまりにも上品さに欠けるのではないか?」



元婚約者様の悔しそうな顔……まぁ、貴族という立場である以上、皇子に気品の有無を問われることほど、屈辱的なことはありませんよね。


でも、殿下のいうことももっともです、お客様方はこのやりとりを見て唖然として動きを止めています、まずこの時点でお待たせしているお客様にご迷惑をおかけしています。



「お言葉ですが、このような人間が何食わぬ顔で店を構えていることの方が問題なのではありませんか!?」



改めて自分の意見を主張する元婚約者様。



「それが君の言いがかりでないと言い切れないように思うが……まぁいい、ひとまず言い分はわかった。」



「当然です!当時の件は、上にも報告が……」



「しかしここでは他の人の迷惑になる。そういう話はエレガントに人様の迷惑にならないように、そういう話は裏でしようじゃないか。そこで、この店のいちごジャムをご馳走しよう」



それ……一緒にいちごジャムを食べようって提案じゃなくて、ドメスティックバイオレンス的な意味ですよね?


店にある商品を隠語に使わないでください。

そして店の裏で血みどろの戦いはしないでいただきたい。


意味は元婚約者様にもしっかり伝わっておりました。


なんでこんな周りくどい脅しが伝わったのか謎でしかありませんが……



「どう?」



「くっ……」



殿下の提案に何もいえないでいる元婚約者様。

殿下の意向でも、血みどろになりたくはないでしょう。


彼確か武闘派じゃなかったですから勝ち目ないですしね。

剣の出来も悪いとか噂で聞きましたし。


しかし、殿下ともあろう方が、権力や口を使わずにバイオレンスで問題解決しようとするのは、いかがなものでしょうか。


まぁ、店を助けてくれるのは助かるので、手段はなんでもいいのですけれど。


そして、さらなる追い討ちは妖精たちがかけました。



「太客太客」



「どうした妖精」



「いちごジャムでもよろしいですが、それ単体では食べにくいのでは?」



「ほう、ならばどうしたらいいと思う?」



「何かに包むとよろしいかと」



「せっかくならイチゴジャムシュークリームをお土産にするのはどないでっか?」



「その心は?」



「修羅場」



訳:血みどろにした上で、彼の家に修羅場を届ける



見た目に反して怖い発想。


どこからその発想を思いついたんでしょうかね。

私はそんな子に育てた覚えはありません。


っていうか、羅場とークリーム

一文字しかかかってないんですけど……



「それいいな」



殿下の判定ではOKみたいです。




「ふん、口ほどにもない。」



こうして、殿下と妖精達のおかげで元婚約者様の撃退には成功いたしました。


これでめでたしめでたし、明日からもまたいつも通り行列のできるお菓子屋さんを運営していきます!




………なんて、ことは終わると思いますか?




それは甘い。甘いです。



元婚約者様は、確かに追い出され、殿下の庇護のおかげで二度と来ることはないのですが……お店というのは人気商売、ケチがつけば客足が遠のくのは必死です。


この手の場合、衛生面の問題勃発が一番ダメージが大きいのですが、その次にダメージが大きいのは、従業員の不祥事・スキャンダルです。


そのオーナーの盗人疑惑、だなんてスキャンダルが広まるとどうなると思いますか?



客足遠のくの待ったなし。



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