第10話 妖精さんの宣伝活動

翌朝



「よし、今日のお菓子の仕込みはOK」



お店に並べる分も完了。

通常通り、営業開始の準備が整いました。


まぁ、妖精だけがいないのでのですが。



「……おかしいですね……誰も来ないなんて。」



いつもなら、私が仕込みを始める前から『お腹すいた』と言ってやってきて、お手伝いしてくれるんですけどね……。


朝ごはん食べに来たり、オーブンの監視したがる子がいたり、遊びたがってる子がいたり……あれ、邪魔しかされてない。


まぁ、妖精は従業員ではありません、自由な存在です。

彼らもお菓子目当てでお店にやってきて、自主的にお手伝いしてくれていただけ。

毎日同じ妖精が来ているわけでもありません。


寂しくはありますが、ここに来ないというのも彼らの自由。

一人でお店を切り盛りできますし、気にせずお仕事しましょう



「お腹が空いたらやってくるでしょう、ひとまずは一人でがんばりましょう。」



ガチャリ


お店の前の掃き掃除をして看板Openにして、業務開始しようと、お店の扉を開いた時のことでした。




「「「「「「「「「いらっしゃいませーーーー!!!」」」」」」」」」




街には溢れんばかりの妖精がいました。それでも至る所に。



「な………なんですかこれはーーーーー!!」



溢れんばかりって、どのくらいって?

意地悪言わないでください。


2桁までだったら私も頑張って数えるんですけど……その数を遥かに超えています……目視では測定不可能。


百……?千……?

下手したらその数を遥かに超えています。


確実に普段店にいる妖精の数を遥かに超えているのは確かです。

こんな大量の妖精は見たことがありません。


あぁ、だってほら、道だけでは飽き足らず、屋根の上や建物の中にまで入り込んでいるのですから。


普妖精は、恥ずかしがり屋で人目を避ける生き物、一生のうちに一度会えれば奇跡と言われた妖精が、一夜にしてこんなに大量発生して、何をしているのかというと……



「もうすぐ開店時間です〜!」



「どうぞおいでましー〜〜!!」



「今日も美味しいお菓子ご提供!」



「妖精のお菓子屋さん開店だよー!!」



うちのお店のチラシを配って宣伝活動をしているのです。


しかも……



「奥さんお急ぎ?お話だけでも聞いてってー」



「旦那様、お仕事へ行く途中ですか?帰りでいいから寄ってって」



「朝ごはんにいかがでっか〜?」



「朝から牛乳配達大変だね、これ試食。美味しかったらここに買いに来てね」



「お子さん育ててて毎日大変だね、少しお菓子でも食べて癒されてって」



手慣れた押し売り営業です。



「ちょ………ちょ、ちょちょっと………!?何やってるの!?どうしたの!?」



突然の妖精の行動に驚いて、私は妖精に声をかけました。



「あ、オーナーおはようございます」



「お客さん呼び込んでるんです」



「売り上げに貢献」



「金平糖稼ぐです」



「え、ええええええ」



なんということでしょう。

昨日の話を間に受けてしまったようです。


その証拠に離れた場所にいる妖精は『潰れそうなお店にご慈悲を〜』なんて宣伝をしている。


だから、まだ潰れる危険はないんですって!

貯金できないから、とか従業員雇えないとか、それは事実だけれども。

これ以上不必要に暴走させてしまうのもまずいので、私は妖精を宥めました。



「まだ生活できるくらいには黒字出してるってば!!だから心配しなくても……」



「あまーーーい!!」



しかし、なぜか私は妖精に喝を入れられました。



「お店は人気商売!!」



「いつ廃れるかわからぬ!」



「稼げる時に稼ぐ!これ鉄則!」



「稼げてる時にギリギリではお話になりませぬ!」



「落ちる時に落ちてまいます!」



「稼ぎと投資はしっかりと!!」



一体どこからその知識は仕入れたのでしょうね……昨日金平糖で儲けの話をちょっとしただけのはずなんですけどね……。


というか、その話をするまで、お金の概念とかあまりないはずなのですが……


まさか、お菓子が欲しいだけで妖精が本気になるなんて……



「オーナー」



「なんですか?」



「開店準備しなくていいですか?」



「準備?」



「お客さんずらり」



「え?」



私は妖精に言われて、指さされた方へと視線を動かしました。

すると……

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