第8話 妖精さん、前世の小説の生き物
思い出すのがあまりにも遅すぎました。
今更思い出したところで、使える知識が何もありません。
原作知識を使おうにも、私が追放された時点で物語は終了なのです。
盗難事件の犯人は本当に私、エクレアがヒーローとくっつく物語なので。
まぁ、前世の記憶がなかった私が、なぜ原作通り動かず濡れ衣で盗人にさせられてるのか謎ですが、今更回避も不可能ですし、どうでもいいです。
お菓子作りの知識にしたって……私が前世の記憶を思い出したのは、物語が終了したきっかり3年の時が経ちました。
プロとして腕も認められていたそんなん時に、素人OLの趣味のお菓子作り知識なんか思い出しても、それ以上の実力を持っている今、なんの役にも立ちません。
せめて追い出された直後に前世のことを思い出していれば、もう少しパティシエの修行を楽にこなせたのでしょうけどね。
まぁ、和菓子を作って商品化すれば、目玉商品になってお客さん増えるかもですが……材料がないので作れませんしね。
あ、でも、そういえば皇宮で修行してた時、1品だけ奇跡的に餅米が手に入って、作った和菓子がありましたっけ。
いえ……結局、醤油も味噌も、あんこもなかったので純和菓子を作ることはできず、いわゆる洋風和菓子になってしまいましたが。
しかもそれ、私自分用の夜食で作ったのに誰かに持ってかれちゃったんですよね……皇族の誰かの口に入ったらしいんですけど……。
「……あれ食べたかったな……まだ皇宮に餅米ありますかね?」
まぁ、あったところで、修行を終えた私が皇宮に行くことはもうないのですけど。
追放されるきっかけから今に至るまでの回想を終えた私は、ふと応急で一度だけ作った前世のお菓子を思い出し、そんなことを呟きました。
妖精たちはそれを聞き逃しません。
「餅米って何?」
「美味しいもの?」
「今日の賄い?」
彼らはお菓子に対して貪欲です。
一言でもそれらしき言葉が聞こえれば、黙ってはいません。
それに閉店後のな賄いの時間は彼らの楽しみな時間、だから閉店作業はあっという間に終わらせてしまいます。
その証拠に、私がぼーっと過去のことを改装している間に店の前の掃除は終わっていました。
であれば、私もいつまでも外で突っ立っている必要もありません。
「餅米のお菓子はありませんが、賄いの準備はできてますよ」
「やったー!」
「今日の賄い何?」
「マドレーヌなんかいかが?」
「マドレーヌ!」
「ばんざーい!」
私がお店の扉を開くと、彼らはそういうとぴょんぴょん跳ねながらお店の中に入っていきました。
しかし一人だけ、看板の上に乗っかって動こうとしない子がいました。
「どうしたの?中入らないの?」
「オーナー、あそこに誰かいる」
「え?」
私は妖精が指差した方角に顔を向けました。
しかし、誰もいません。
「気のせいじゃないですか?ここ街中ですし、人いっぱいいますから」
「そうかなぁ……」
「危なそうな人ならまた教えてください、今日は中に入ってお菓子食べましょう」
私は妖精を呼び一緒に部屋の中に入りました。
それでも、妖精はお店の扉が閉まるまで、その場所から視線を離しませんでした。
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