第7話 妖精さんを繋ぎ止める方法
「そんな……お父様、私は盗みなど働いていませんわ!」
「そんなことはわかっているんだよ、そうでなければ人目を避ける妖精が、毎日お前の元に遊びに来るわけがないし、お父さんの元に威嚇抗議なんかしに来るハズがないからな。」
父はそう言って私の頭や肩に乗っている妖精を指さします。
確かに、彼らは普段見せない表情で父を威嚇したり、『濡れ衣だ』『冤罪だ』『僕ら証人だ!』なんていうプレートを作って掲げていました。
この子達、私にお菓子をもらいに来るついでに、ずっとそんなことしてたのね。
しかし、だからと言って覆ることではないようです。
「だからと言って、妖精の証言を真に受けてもらえる可能性はないだろ?」
「まぁ……それはそうだと思いますけれど……」
「それに……覆そうにも、家の立場が弱い。そもそも日照り続きで、作物が取れなくてどん詰まり、領地の業績上げようと新事業を立ち上げたが……」
「うまくいってなくて借金残ってるんでしたっけ」
全く……商才がない人間が事業になんか手を出してはいけないのです。
と言っても、もう取り返しがつきません。
「そんな状況では、何を言っても信用を得られなくてな……元々没落候補に上がっていたくらいだし……いっそ爵位を剥奪すると言う話になったのだが……お前を貴族社会から追放するなら、爵位は残すという話が出てな。」
「爵位のために、娘を追い出すのですか?庶民の同い年の子供でも、一人で生きていくには大変だと言うのに、12歳の貴族の娘を追い出してどうやって生きていけと言うのです?」
12歳の女の子を追い出すなんて……血も涙もない。
まぁ、そんなことは言っていますが、自分でもわかっています。
事実ではないとはいえ、立証できない以上、犯罪を起こしたと認識されても文句は言えませんし、牢屋に突っ込まれないだけマシかもしれません。
立証しようにも、証拠もありませんし、証言してくれるのも妖精たちだけでしょう。
許せません。
12歳という年齢で、今後の生き方を決めなければならなくなったのは、罪の覚えのない私としては不服以外の何者でもありませんが。
「……まだ成人にもなっていないのに、自分の人生を決める分岐点に立つとは思いませんでしたよ、お父様。」
「……もちろん、今お前の追放の話をしたのは、隠し事なしで事実を話したかったからというのが理由だ。親としてはお前一人を追い出すのは忍びない。いっそ爵位返上して、家族で庶民になってもいいと思ってる。」
「そう言っていただけて、ありがたい限りです。」
とはいえ、事実はどうあれ、追い詰められているのは私が原因です。
なのに、その責任に家族を巻き込むのはあまりにも申し訳がない。
どうせ私は追い出されるのは決まっていますし、私一人出て行くだけで爵位は残ると言うのであれば、その方が家のためにはなることでしょう。
でも問題は追い出された後のことですよね……私は少しだけ悩みました。
庶民としてどうやって生きていきたいかを。
そして肩にいる妖精に目をやりました。
こんなに悲惨な状況なら、本来であれば今頃私は病んで引きこもっていてもおかしくはない状況でした。
それなのに、図太く平常心で冷静にツッコミを入れられているのは、全て妖精のおかげです。
彼らがいれば、庶民になってもやっていけるような気がします。
つまり、彼らがいることが、今後私が生きる上で重要なことでした
じゃあ、自由気ままな彼らを、今後も繋ぎ止めるにはどうしたらいい?
賄賂があればいいのです。
「わかりましたお父様、私一人でここを出ていきましょう。」
「いいのかノエル」
「えぇ、しかし執行猶予をいただきたく。」
「執行猶予?」
「はい。庶民になるなら、私はお菓子屋さんを営んでみたいのです。そのスキルをウチのパティシエから学びたいのです。1年間、その修行をするためにこの家にとどまることを許可いただけませんでしょうか?」
なお、この申し出は、本当にお菓子作りをしたいとか、喜ぶ顔が見たいとか言うのが理由ではありません。
うちのパティシエのお菓子を大層気に入っている妖精たちは、私が同じ味のものを作れるようになれば、きっと庶民になっても遊びに来てくれることでしょう。
そんな打算的計画だとは知らぬ父は、私の要望を掛け合ってくれました。
結果、私が未成年であったことを理由に、以下の条件の元許可が降りました。
1、執行猶予中、外出は禁止。
2、デビュタントをはじめとする貴族の催し物の参加禁止
3、貴族との関わりは一切禁止。
この約束を守った上で、一年後必ず屋敷を出て行くこと。
これらの条件の元、私は1年我が家のパティシエに弟子入りして修行することが許されました。
最初はお菓子を焦がしたりして、妖精たちには『黒焦げだ〜』なんて不満を言われたり、笑われたりしましたが、一年後には基礎を習得し、一人でも家のパティシエと同じ味のお菓子を作れるようになりました。
家を出て行く日、住む場所がないと言うことで、パティシエの師匠のお店で住み込みで働かさせてもらう話がまとまり、妖精たちと共にそこにお引越し。
そこでパティシエの師匠のもとで一年修行したのち、皇宮のパティシエとして修行してみないかと持ちかけられたので、一年くらいそこで働きました。
その時でした。
私がこの世界に転生したのを思い出したのは。
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