第3話 妖精さんとお客さま



「ごめんね、妖精さんは売り物じゃなくて、お友達なの。だからあげられないな」



「そーなの?」



そいうと女の子はすごく残念そうな表情を浮かべます。


この断り方は、妖精さんを人道的に見る意味での答えですが、まぁ全く利益を考えずに言っているかと言えば嘘になる。


そんな残念な表情を浮かべている彼女に私はこう言いました。



「だから、会いたくなったらまたおいで」



これをいうと、大抵の人はもう一度来たくなります。


リピーター獲得です。


ほら見てください、この女の子、また来たいというような表情をお母様にキラキラとした表情で訴えています。


少し困ったような表情を浮かべてはいましたが、お母様は『また来ます』と言って商品を受け取るとお店を出て行きました。


ちょうどそんな時、時計から鳩のおもちゃが飛び出して、5時になったお知らせをしてくれました。



「さて、今日も終了!みんなーお片付けして!」



「「「「「「「「はあーい」」」」」」」」」



そういうと、妖精たちは閉店の準備を始めました。


私は店の外に出て看板を『close』に変えると、外の軽く掃き掃除を始めました。


いつものように掃除をしていると、いつの間にやらどうやって出てきたのか、3人くらいの妖精が私の体によじ登ってきました。



「すっかり庶民に馴染んだな……」



「え?」



「元令嬢なんて誰も思わないかもです」



突然何故そのようなことを?

と思いましたが、そんなことを考えても仕方がありません。

褒められているのか貶されているのか判断が不明だったので



「まぁ、そんなに貧相な装いになってしまったでしょうか?」



適当に受け流す返事をすることにしました。

しかしそんな私の返事は、何やら妖精さんたちの心に雲を落としてしまったようです。


少しシュンとした表情を浮かべて、静かにこんなことを聞いてきました。



「……戻りたい?」



「後悔してる?」



「貴族として豪華な生活の方が良かった?」



彼らは時々、唐突にこんなことを聞いてきます。

もしかしたら、のことを気にしているのかもしれません。


そんなに気にするようなことじゃないんですけどね……



「いってもデビューもしてなかったですしね。元々、貴族の世界は向いてなかったので。それに、あれのおかげで、皆さんに会えて、今一緒にお仕事するに至ったので後悔もないですよ。」



だから私はそうして、あっけらかんとして返事を返した。


そして掃き掃除に戻りました。


しかしこういうのは、一言声をかけられれば、過去回想の海に簡単にダイブしてしまうもの。


私も例に倣い、掃除をしながら過去回想を始めました。


そう……彼らとの出会いは……皮肉にも濡れ衣を着せられて、婚約破棄をされ、貴族社会を追放されたことにありました。

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