第5話 ベストエンド(白目)
俺とアシュレイの幸せな未来に立ちはだかる、この腐った世界が用意した最大最悪の壁。
それこそが、原作アシュレイルートのベストエンディングの存在である。
なんとこのアシュレイ。
ベストエンドを迎えると……
封印された古代魔法で、男に性転換してしまうのだ。
……。
うん、みなまで言うな。
わかってるから。
さあ、みなさんご一緒に。
な
ん
で
だ
よ
!
?
いやホントなんでだよ!?
おかしいだろ!?
もともと女なんだから、男女で普通に付き合えばいいわけじゃん!?
そこに性別の壁はないはずじゃん!?
なんでそこであえて男になるって発想がでてくるの!?
わけがわからないよ!
エンディングでは「君は私を男として愛してくれた。だから私は君が愛したありのままの私でありたいんだ」とか感動的な雰囲気を装って、なんかほざいてるけどさ。
大事なことだからもう一回言うよ!?
わけがわからないよ!
いますぐ辞書で「ありのまま」の意味を引いてから、顔洗って出直してこいや。
姉曰く、性別すらも超越してお互いの魂のカタチを愛し抜く関係が尊い、とかほざいてるけどやかましいわ。
頼むから、
ちなみにノーマルエンディングだと、アシュレイは女の子のまま。
主人公はアシュレイの婿養子となり、二人で力を合わせて仲良く領地を経営していくんだってさ。
いや、よっぽどこっちのほうがベストエンドじゃねーか!
逆張りってレベルじゃねーぞ!?
とにかく、これでハッキリわかっただろう。
この世界で俺が進むべきは、アシュレイ君ルート!
だけど、好感度を上げ過ぎると、ベストエンドという名の火の七日間に突入し、後に残るのは腐海に沈んだ世界だけ。
そのため、精緻な好感度管理のもと、ノーマルエンドの世界線を目指すことになる。
道は険しい。
だがやるしかない。
この世界で女の子とイチャイチャするために。
例え火の中水の中土の中、BL世界の中。
アシュレイ・アストリッド――キミに決めた!
***
「次、グレイ・ブラッドレイ――」
などなど、課せられた過酷な運命に対して、心の中で、アタシ絶対負けない宣言をしていると、リド先生が俺の名前を呼んだ。
おっと、いつの間にかに俺の番か。
俺は自席から立ち上がる。
途端、クラス全員から視線が注がれた。
あるものは、好奇と軽蔑の視線。
またあるものは、恐れと嫌悪の視線。
それと同時にヒソヒソ話も耳に届く。
「あれが、悪名高い『
「なんであんなのが入学できるんだよ」
「顔が邪悪すぎる」
「どんな地獄をみてきたらあんな目つきになるんだ……?」
……ふん、好きに俺の悪評を垂れ流すがよい。
BLゲー世界のキャラクターにいくら嫌われようが、俺の
「噂だと、好みの男を無理やり手籠めにして、性奴隷にしちまうらしいぜ」
「実家には、男を鎖でつないで飼っている地下室があるって噂だ」
「ひえ……怖……」
いや、しねえから!
なにが悲しくて、男を性奴隷にしなきゃなんねえんだよ!
百歩譲って、性奴隷にするなら美少女だボケ!
別に俺の悪評がタレ流されるのはいいけどさ、そこにBL世界観を混ぜるなよ!
混ぜるな危険だから!
「おい、グレイ。ぼーっと突っ立ってねえで、さっさと自己紹介しろ」
リド先生が気だるげに俺を呼ぶ。
おっといけない。自己紹介が中断していた。
俺は軽く咳払いをした。
「えー、グレイ・ブラッドレイです! 南方領土、ブラッドレイ家出出身!」
まずは爽やかに自己紹介。
「好きな言葉は『ワンフォーオール、オールフォーワン』、モットーは『一日一善』。これから始まる学園生活、早く皆と仲良くなりたいです!」
そして笑顔。
まるで野に咲く一輪の花のような。
自分の中では、そんなイメージで。
「趣味は馬です。馬刺しとか大好きだし、とにかく馬を心から愛しています! 馬術にも興味があるから、誰か得意な人教えてくんないかなー! あと大好物はもちろん紅茶! 紅茶の香りだけでご飯三杯はいけます! あー、どこかに美味しい紅茶を入れてくれる優しいクラスメイトはいないかなー! 親友になれるんだけどなー!!」
もちろんアシュレイにすり寄ることも忘れない。
「とにかくよろしくお願いします! みんな、楽しくやろうぜ!」
どうよこのパーフェクト・コミュニケーション?
極悪非道なクズ野郎が放った、まさかの爽やかで隙のない自己紹介。
さあ、クラスメイト諸君。
俺のことを見直してよいのだよ?
「楽しく殺ろうぜって……? 殺人に俺らを巻き込むなよ……」
「仲良くって性奴隷って意味だろ……?」
「イチニチイチゼンって古代魔導語で、邪魔する奴は皆殺しって意味だぜ……」
「あの猟奇的な笑顔を見たか? 人を殺すときも、あんな感じで笑うんだろうな……」
「完全に目がイッちゃってる……」
おかしーなー。
俺の笑顔ってそんなに邪悪?
泣いていい? ねえ、泣いていい?
とにかくこれで、俺の自己紹介も終了した。
あとは、ひたすら麗しのアシュレイを愛でてこの時間を過ごそう。
そう思った矢先――
「次、リオン」
リド先生が、次の生徒の名前を口にした。
(リオン……?)
俺は、体をひねって、自分の席の後ろの方へ振り返った。
素朴な雰囲気をまとったイケメンが、自己紹介のために立ち上がったところだった。
(こいつ、もしかして……)
リオンと呼ばれた純朴イケメンは、爽やかな笑顔をクラスメイトたちに向ける。
その背景には、黄色いヒマワリの花が咲いた。
「リオン、です――えっと、僕はみんなと違って、貴族の出身じゃありません。だから名字を持っていません」
リオンは、少しだけおっかなびっくりと、だけどハキハキした口調で自己紹介を始めた。
「だけど、ユースティティア様の導きで、こうして、この魔法学院に入学することになりました! これから皆と切磋琢磨しながら、立派な魔法使いになれるよう頑張りたいです。それと趣味は料理で――」
リオンが自己紹介をしている間、俺のときとはまた違ったざわめきがクラス中に広がっていた。
それもそのはず。
なぜなら、このリオンという男は、この学院始まって以来の異端児だからだ。
別に性格にとんでもなく難ありだとか(俺みたいに)、
親のコネを使って強引に裏口入学したとか(俺みたいに)、
そういうんじゃない。
重要なポイントは、リオンがさっき自分で語ったとおり、ヤツが貴族ではなく、平民出身であるというところにある。
この世界では魔法を行使する力――つまり魔力は基本的に血に宿るとされている。
血、つまりその者の血筋や血脈。
はやい話が、魔法を使えるか否かは、ほぼほぼ遺伝で決まるということだ。
そして、はるか昔に、人類が魔法の力を手に入れてから、魔力を持つものは、持たざる者を支配してきた。
そしてその支配の形は時を経るにつれて、必然、差別と特権階級を生み出し、社会制度に組み込まれる。
そうして生まれたものが貴族制度だ。
つまり、ものすごくざっくりいうと、魔力がある連中が貴族で、魔力がない連中が平民というわけ。
そんな中、リオンは、平民出身なのに魔法が使える。
しかも、平民が魔法を使える場合、ほとんどが、実は貴族の隠し子でしたオチなんだけど、リオンの場合は、身元や生い立ちをいくら洗っても、どうもそういうわけじゃないらしい。
しかもしかも、なんか魔力量の底が見えないぞ?
え、これってもしかして、伝説にもうたわれている
……やだ、リオンのポテンシャル、高すぎ!?
ということで、本来は貴族しか入学できないはずのユースティティア魔法学院に、平民出身の生徒が入学するという、前代未聞の珍事が起きた。
そんなこんなで、リオンはおそらくこの学院に入学した者なら知らないものはいないであろう、結構な有名人なのである。
――と、ここまで語った段階で、懸命な諸君はお気づきではないだろうか。
このリオンの生い立ち。
もっというならキャラ設定。
ピンときた貴方は正しい。
どうやら、悪役転生ジャンルのライトノベルについて、結構な知識をお持ちのようだ。
そう、このリオンくん。
この世界の元ネタ、BLゲー『アルカナクラウン』の
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