そして僕らは廃墟に逃げる。〜We are Small diary〜

沼津平成

序章 廃墟にて

第1話 廃墟にて

 廃墟の中は、蒸し暑くて空気も古く、煙草のにおいが充満していた。


「……しばらくはこれでいいだろう」


 電池切れ間近の充電器を鞄から取り出しながら、父さんはいった。

 母さんが咳き込みながら父さんに聞いた。


「いったいぜんたい、これで大丈夫なのかしら?」


 声に出されるのはこれが何度目かだが、「大丈夫でない」ことは家族全員が理解していた。

 たぶん美絵子は、そんなつもりでいったのではないと思うが、僕の心にはこの言葉が重くのしかかった。

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