記憶 未来の君へ

Mase. Kaoru

プロローグ

プロローグ

「待って!」


その声を無視し、早足で歩いた。———逃げるように、去った。


もう二度と顔を合わせることがありませんように、と願いながら。


 ◇◇◇◇◇


息苦しさに、はっと目が覚める。颯雅そうやは周囲を確認し、ほっと息をついた。


「……夢か。」


身を起こした彼は、思わずといったように舌打ちをする。未だ息は荒い。


時計の短針はピッタリと4を向いている。昨日からやまない雪が降り積もる窓の外は、都市の明かりで照らされていた。


カーテンの隙間からもれてくる光を颯雅はぼんやりと見つめ、じっとしていた。


 ◇◇◇◇◇


ふわり、とカーテンが風になびく。


窓から吹き込んでくる、微かに海の香のする空気を、雪弦ゆづるは吸い込む。そして、小さく呟いた。


「そろそろ、かな……。」


何を思い浮かべたのか、彼女はゆっくりと目を細めた。少しの間、柔らかく穏やかな時が刻まれる。


海鳥が、鳴く。彼女は夕日に紅く染まった空気に背を向け、部屋の奥に歩いていった。

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