制服でスカートを穿く文化が廃れたこの国で、もしも委員長がスカートに着替えたら ~俺と委員長の秘密の放課後~
夜狩仁志
第1話
それは俺が放課後、掃除当番をサボって友人と話している時のことだった。
「これすげーだろ?」
「お前、よく手に入れたな!」
「たまたま見かけた古本屋でさ、発見したんだよ」
「これ、お宝本じゃんか!?」
俺は珍しい古本を手に入れ、自慢していたのだ。
タイトルは、
『18年度版 全国高校女子制服図鑑』
なんと当時の日本全国の公私立高校の女子用の制服を紹介している、今となっては超貴重なお宝図鑑なのだ!!
これは当時を知る大切な資料だ。
俺が生きるこの時代、スカートをはく女子高生など皆無だからだ。
今から数年前の学校は、男女で制服が異なる時代だった。
男子は学ランかズボン。
女子はセーラー服かスカート。
しかしこの時代、男女ともにブレザーにスラックスというのが標準となっていた。
この高校も例外なく、紺のブレザーにネクタイ着用が制服だ。
以前はこの図鑑に載っているように、女子は皆このようなミニスカートを着用して登下校していたらしい。
こんな素足をさらけ出して、しかもちょっと動けば下着が見えそうな、きわどい服装。
逆に犯罪じゃないのか?
校則違反じゃないのか?
そう思えてしまう。
それが俺が生まれる数年前の高校生の日常だったとは。
俺と友人2人の3名しかいないこの教室内で、分厚いカラー本を空想しながら見入るのだった。
「汚さないでくれよ」
「すげーな、これ。本当にこんな子いたんだよな?」
「当時の映像とか見れば、そうみたいだな」
「短すぎんじゃん!」
「だよな。こんなの穿いて、この教室でも授業受けてたんだろ」
「ちょっとでも動いたら見えるだろ?」
「だよな。それでどうやって過ごしてたのか、俺にも分かんねーけど」
「……いや、さすがに何か下に着てるだろ? スパッツとか短パンとか? じゃなきゃ変態だぜ?」
「まーな。さすがにこの本のは、モデルとして盛ってるかもしんねえけど」
もしこの教室内の女子がこのような制服だったら……
と、
時間が過ぎるのを忘れて、夢のような古き良き学生生活の妄想を繰り広げるのだった。
ガラガラッ!!
そこへ教室のドアを開ける音がし、俺たちを現実の世界へと引き戻す!
「あなたたち! また掃除サボって!」
入ってきたのは、よりによってこのクラスの女子学級委員長だった!!
女子なのに物おじしない、真面目で仕事もスポーツもできる秀才。
いかにも優等生っぽい姿勢の良い立ち姿。
黙っていれば可愛らしい整った顔立ちも、いつも不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、目を吊り上げている。
手入れのゆきとどいた肩の下まで伸びる黒い髪を、いつも逆立ててイライラさせてるのが玉にキズの真面目すぎる子。
生徒や教師からも信頼の高い、文字通り才色兼備な委員長だ。
「ヤベぇ! 委員長だ!」
「帰るぞ!」
友人2人は危険を察知し、眺めていた図鑑を放り投げると、そのまま教室から逃げ出してしまった。
「おい! お前ら!」
俺は貴重な図鑑を拾い上げる。
その行動で逃げ出すタイミングが遅れた俺は、委員長に目の前まで接近を許してしまった。
「あなた! また掃除サボって! なにしてたのよ!」
「ちょっと勉強を……」
「なによ、それ!?」
真っ先に見つけられた、俺の宝物……
「ちょ……」
言い訳をする間もなく委員長に奪われてしまった。
「全国……高校女子?制服図鑑!?」
うっ……声に出されると非常に恥ずかしい。
「あなた、これ、なんなの? なんの勉強してたわけ? え!?」
「それは……高校生の……生活の……」
「没収します!」
「委員長! それだけは!」
「いいから早く掃除しなさい!」
こうして俺のお宝本は、あえなく委員長の手によって奪われてしまったのだ。
しかし……
「あのさぁー 委員長さぁー」
「口ではなく、手を動かしなさい!」
この広い教室を俺一人、モップをもって掃除しているのだが……
委員長が教卓の前に座りながら俺を監視するついでに、制服図鑑を熱心に読んでいるのであった。
「それ、返してくれよ」
「掃除が終わるまで預かっておきます」
なんだよ、結局、委員長も興味あるんじゃないか。
「委員長? もしかして……興味あるのか?」
「別に。昔の若者の学生生活の資料として見ているだけよ」
ふぅ~~ん
その割には夢中になってるようですけど?
委員長は、物珍しそうに図鑑を見ながら「まったく! 気が知れない!」やら「なんてハレンチな!」とか呟いている。
……と言いつつ興味津々なご様子。
「あのさぁ~ 委員長さぁ~」
「なによ」
「そのミニスカの制服、着てみたいとか思ってんじゃないの?」
「はあ!? そんなわけないでしょ!!」
「そんなに真剣に見ちゃってさ」
「ちょっと気になっただけでしょうが!」
「委員長もさ、可愛いんだから、そういうの着ればいいのに」
「か! かわぃ……!?」
分厚い図鑑をバチン!と閉じて立ち上がる。
「いつも真面目なのは分かるけどさ。叱ってばかりじゃなくてさ、本来は美人なんだからさ。そういう格好してみれば……」
「う、うるさいわね! こんな恥ずかしい格好して歩けるわけないでしょう!」
怒りのせいか、顔を真っ赤にして必死に否定する。
「いや、でも、数年前はこれが普通だったし……」
「昔の話でしょ! だったら大正時代みたいに着物に袴で登校しろって言うの!?」
「それもいいかも! 委員長なら似合うって!」
「ぅ……うっさいわね!!」
「本当は……」
「もう頭にきた! 私、帰るから!」
「え? っちょ?」
「ちゃんと掃除終わらしてから帰りなさいよ!」
調子にのって、からかいすぎてしまった。
委員長は一方的に怒鳴るだけ怒鳴って、ズカズカと足音を立ててながら出て行ってしまった。
「委員長――!? ちょっと! せめて図鑑、返してくれよ!」
しかも、俺の大事な制服図鑑を持ったまま……
な……なんてことだ。
大切なお宝本が、奪われてしまった。
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