第25話 罠にはまる
三下高原で「虹」を待つダイと沙羅の前に多数のググトが現れた。2人を襲おうと触手を伸ばしている。
「僕が戦ってググトを追い払う間に君は『虹』に飛び込むんだ!」
「でも・・・」
「いいから! 早く!」
ダイは身構えると呪文を唱えた。
「ソニックバスター!」
超音波がググトを切り裂いていく。だが次々にググトがダイに襲い掛かって来た。沙羅は前方を見た。「虹」が口を開け始めている。そこに飛び込めば元いた世界に戻れるのだ。彼女の後ろではダイが多数のググトを相手に懸命に戦っている。
「ダイ!」
「さあ、口は開いた。行くんだ!」
沙羅は背中を押された。後ろ髪引かれる思いはあったが、意を決して「虹」に向かって走った。
(あそこに飛び込めば元の世界に戻れる!)
それはもう手が届くところまで来ていた。だがそうはさせじと1体のググトが沙羅の前に立ちふさがった。そして大きく振り上げた触手を沙羅に振り下ろした。
「バーン!」
気が付くと沙羅は突き飛ばされて地面に転がっていた。そしてその横にはダイも倒れていた。触手にやられそうになった沙羅をかばったのだ。
「ううう・・・」
ダイは苦しげな声を上げていた。腹部をやられたらしく、シャツが赤く染まっていた。その彼に、止めを刺そうとググトが迫って来た。
「ダイ!」
沙羅が叫んだ。ダイは痛みをこらえて立ち上がり、「ソニックソード!」の魔法で右腕を超音波の剣に変えた。そして近づいてくるググトに体ごとぶつかっていった。
「グエー」
ググトはソニックソードに貫かれて断末魔の叫びをあげた。そしてダイが離れるとそのまま倒れて泡になって消えていった。
「向かってくるものはすべて倒す!」
ダイはそう叫んでソニックソードの右腕を振り上げた。それを見て残りのググトたちは恐怖に駆られて触手を引っ込めて逃げて行った。
戦いは終わった。ダイは沙羅に声をかけた。
「さあ、もう大丈夫だ! 帰れるぞ! さあ、行くんだ!」
沙羅は「虹」に飛び込もうとした。だが彼女の後ろで「ドサッ」と倒れる音が聞こえた。振り返るとダイが苦悶の表情で腹を押さえて倒れている。
「ダイ!」
沙羅はダイのそばに駆け寄った。腹の出血がかなり広がっていた。このままでは命が危ない。
(どうにかしないとダイが・・・。でもどうしたら・・・)
混乱する沙羅はポケットに手を入れた。そこにはダイからもらった魔法メダルが入っていた。
「これだ!」
沙羅は魔法メダルを手に取って念じた。
「傷よ! 閉じて! 閉じて!」
それはヒーリング魔法になって傷からの出血を止めようとしていた。
「ダイ。大丈夫よ。大丈夫だからね」
沙羅はダイを励ますように声をかけていた。だがダイは震える右手で「虹」を指さした。
「僕は大丈夫だ。君は帰るんだ! 家族が君を待っているはずだ!」
「そんなことはできない。あなたを放っておいて・・・」
「僕はいいから・・・」
「よくはないわ! あなたを助けたいのよ!」
沙羅はヒーリング魔法をダイにかけ続けた。目の前の「虹」は消えかけている。だが今はそんなことはどうでもよかった。沙羅はダイを助けるために必死だった。
だが出血は少なくなったが、まだ続いている。ダイは苦痛で顔をゆがめ、その顔色は悪くなる一方だった。沙羅の魔法だけではどうにもならないのだ。
「あれなら・・・」
沙羅は胸元からロケットを取り出した。そしてその中から種を取り出すとダイの口に入れた。すると痛みだけは少し取れてきたようだった。だが意識が薄れてきている。
「助けて! 誰か、助けて!」
沙羅は大声で叫んだ。誰かが助けに来てくれないかと・・・。やがてダイはショック状態になってぐったりとなった。
「ダイ! しっかりして! お願い! 返事をして!」
沙羅は泣き叫んでいた。するとその声を聞きつけて誰かが駆けつけてきた。
「あっ! ユリさん! どうしてここに?」
草叢から現れたのはナツカだった。沙羅を見て驚いている。
「どうしてここに?」
「それよりダイが・・・ダイがググトに腹をやられて・・・」
「何ですって! 班長が!」
ナツカはすぐに倒れているダイの状態を確認した。
「これは危険です。すぐに病院に運びます」
ナツカは通信機で連絡をとり、沙羅に変わってヒーリング魔法をかけた。
「ダイは・・・ダイは・・・」
「大丈夫です。班長がこんなことぐらいでやられるわけはありません」
ナツカは額に汗を浮かべながら懸命にヒーリング魔法をかけていた。
◇
ダイはすぐに病院に搬送され、手術室に入った。沙羅はその前の置かれている長椅子に座って祈るしかなかった。
(お願い! どうか神様! ダイを助けて!)
そのそばにはダイの部下が4人、心配そうに手術室を見ていた。やがて時間が過ぎ、手術室のドアが開いた。そして血に染まった手術着を着た医師が出てきた。
「先生! ダイは?」
沙羅は立ち上がって医師のそばに駆け寄った。その医師は疲労した様子を見せながらもはっきり言った。
「大変でしたが、手術は成功です」
「本当に・・・よかった・・・」
沙羅は涙ぐんでいた。
「しばらく入院していただくことになります。それではまた」
「ありがとうございます!」
医師が戻って行った手術室に向かって沙羅は頭を深く下げていた。
◇
その日、カート室長は真夜中にもかかわらず執務室にいた。机の上に両手を組んだ肘をのせて、じっと報告を待っていたのだ。
(遅い! どうしたのだ!)
彼がしびれを切らせた頃、やっと専用回線の電話が鳴った。
「カートだ」
「こちら123号」
「遅いぞ。首尾はどうだった」
「それが・・・仕留めそこなったようです」
「何だと!」
カート室長はおもわず大声を上げた。だがすぐに気を静め、冷静に尋ねた。
「どうしてそんなことになった?」
「ググトたちが襲いかかったのですが、奴の方が1枚も2枚も上だったようで・・・。やられた仲間を見てググトたちは逃げ出してしまいました」
カート室長はダイを甘く見ていたことを痛感した。ググトの一群で十分と考えていたのだ。
「奴は今、どこだ?」
「病院です。入院しています」
「わかった。監視の目を怠るな!」
それで電話を切った。
「まあ、いい。しばらくは奴は動けまい! その間に・・・」
カート室長はまた肘をついて考えていた。
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