第二層:フェザーキウイ

太陽が沈みきらない、夕暮れ時。


この階層は、そんな時間で世界が固定されているようだ。


第一層と同じ草原であるはずなのに、草木の間が見通せなくなり、視界が悪くなるだけで随分と受ける印象が変わる。


第二層のモンスターであるフェザーキウイは、羽の生えたキウイだ。翼のない愛らしいフォルムのキウイがモンスターになるとなぜ羽が生えてくるのかはわからないが、一見間抜けな見た目とは裏腹に、油断すれば命を容易く落としうるのがフェザーキウイである。


奴らは薄暗い夕闇に紛れて人間に飛びかかり、鋭いクチバシを突き刺して攻撃する。


僕は右手にホーンラビットの刃角を握りながらも、集めた石を左手で方々の草むらに投げては、様子を伺うという作業を繰り返している。


鋭い嗅覚を持つフェザーキウイは夜行性のモンスターであり、スキルでも持たない限りはこちらが先に発見することは困難である。待ち伏せされてそのクチバシで体に穴をあけられる前に、怪しいところには石でも投げて索敵を行なわなければならない。



「出てこい!どうせその辺にいるんだろう!」



声をあげて威嚇しながら、石を投げて牽制しながらゆっくりと不気味な草原を進んでいると、投げた石の先からピィ!と反応があった。



「かかってこい!」



ホーンラビットに対して抱いていた緊張に対して、フェザーキウイに対するものは大きくない。それは右手に握ったホーンラビットの刃角の慣れ親しんだ感覚によるものだ。


これはつい昨日自らの手で勝ち取ったものだが、同種のナイフは嫌になる程振るってきた。


ダンジョンに人々が囚われ始めて1年、11歳にして母をダンジョンに取り上げられた僕は、父から遊びも勉強も取り上げられ、代わりにホーンラビットの刃角を模したものと、ダンジョン産のロングボウを模したものを与えられた。


警察官だった父は母が目覚めなくなった日に職を辞し、母を取り戻すために狂ったようにダンジョンに挑むようになった。


父は夜、睡眠の中でダンジョンに挑む一方で、昼は僕に修行と称して執拗なまでに厳しい鍛錬を課した。


それを父の愛などと嘯く輩も周囲にはいたが、僕にとっては苦痛でしかなかった。


母を奪ったダンジョンが憎い、父を変えてしまったダンジョンが憎いと、ダンジョンへの憎しみを膨らませる僕が、お前までダンジョンに取られてはかなわぬと、鬼気迫る表情で僕を痛めつける父にも敵愾心を抱くようになるまでそれほど多くの時間は掛からなかった。


しかし、いくら反抗しようとも父の檻から逃げ出すことは叶わなかった。


唯一の親となった父の暴力を前に、ただひたすらに僕は無力だった。


そうやって不本意ではあるものの、血の滲む努力によって磨き上げられた短剣術は、確かな自信となってフェザーキウイとの一戦においてプラスに働いていた。



「ピィ!」



鋭い鳴き声を発しながら、飛び上がって首を伸ばすフェザーキウイを横っ飛びにかわし、その伸び切った首に対して、真上から強かに刃を握った右手を振り下ろした。


刃筋の立った一撃はあっさりとフェザーキウイの首を切り落とし、残った胴体は血飛沫を上げる間もなくシャーンという音と共に光り輝くカケラとなって消えていった。


後に残された茶色のカードには、フェザーキウイの羽を用いた矢と、皮を用いた矢筒が描かれていた。



「コール2」



発声とともにカードは光り輝き、矢筒と36本の矢へと変化した。



「あとはロングボウさえ手に入れれば、クマを殺せる。クマを殺して、スキルを手に入れて、エリクサーも手に入れる。あのクソ親父なんかには頼らない。僕が、僕の手で楓をとりもどすんだ。」



あのクソ親父にできたんだ。僕にできないはずはない。意思に反して震える喉を押さえながら、僕はいつのまにか出現していた出口へと足を進めた。

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