闇堕ち転生~選択肢を間違えまくる原作主人公を無視して、クズキャラがヒロインを救おうとしたら次々と闇堕ちしていくんだが

水都 蓮(みなとれん)

プロローグ

第1話 檻の中の日々

 客観的に見て、僕は社会に適合できなかったゴミだ。

 大学を出て、就職したのはいいものの、職場に馴染めず、人間関係に苦心して、心身を壊してしまった。

 今では仕事を辞めて家に引きこもり、貯金でなんとか食い繋ぐ生活だ。

 再就職もせず、なんの生産性もない、社会のお荷物だ。

 だけど時々こうも思う。


「もっと普通の家に生まれていれば、もう少しマシな人生を歩めたんだろうか」


 今でも子どもの頃を夢に見る。

 毎日のように母親に怒鳴られ、僕は人格を否定される。

 勉強せずにサボってばかりのクズ。親の言いつけに従わず、成績を上げられないゴミ。穀潰し。親不孝もの。

 母はバラエティに富んだ罵声を幼少期の頃から浴びせてきた。


 父が士業というだけあって、我が家は裕福で、外から見ればこの上なく恵まれた一家だった。

 そんな家に生まれた僕が、普通の家に生まれていたらなどと愚痴るのは贅沢かもしれない。

 実際、幼い頃の両親はとても優しく、何一つ不自由のない生活を送っていた。

 だけどそれが一変したのは、小学生に上がった頃だ。


「なにかしら、このゴミみたいな点数は?」


 母が苦々しく吐き捨てると、小学生に上がって初めて受けたテストの答案をくしゃくしゃにして投げ捨てた。

 その日から、僕の人生の歯車は大きく狂い始めた。


 95点――生まれて初めてとったテストの点数。

 式の順番が逆だったとか、そんな些細な理由で減点されてしまったが、点数自体は高かったから、きっと両親も褒めてくれる。

 そう思い、ウキウキしながら両親に見せに行った。

 だが、返ってきたのは賞賛ではなかった。


「母さん、まだ一年生だぞ?」

「だからこそよ! 小学生の……それも一年生のテストなのよ!? それなのに満点が取れないなんて、脳に問題でもあるのかしら?」


 淡い期待に反して、母は失望と怒り、そして侮蔑がないまぜになったかのような表情を浮かべていた。

 地面に放り捨てられた答案用紙を踏みつけ、盛大にため息を吐く母の姿に、僕は涙が込み上げてきた。


 初めて歩けるようになったとか、自転車に乗れるようになったとか、かけっこで一位を取れたとか、今までどんな些細なことでも頭を撫で、屈託のない笑顔で褒めてくれた母が、見たことのない表情をしていた。

 その別人のような豹変ひょうへんぶりに、僕は怯えすくんでしまった。


「お、おい。いくらなんでも、言い過ぎだぞ」


 父が母を諌めようとする。

 直後、バンと机を叩く音が響いた。


「あなたは何の苦労もせずに大学行ったから、気楽に構えていられるのよ!! あなたは知らないだろうけど、近所のご家族では小学校から私立に通わせてるところもあるのよ? うちはその時点で出遅れてるのよッ!!」


 家が貧しく大学に通うことのできなかった母は、その反動で教育に熱心だった。

 高学年になって本格的に受験勉強がスタートしてからは、わずかでも偏差値が下がれば怒鳴られ、頬を叩かれ、友達や近所の子と成績を比較されてネチネチと嫌味を言われ続けた。

 同級生が当たり前のように触れる娯楽も禁止されていて、ダラダラとテレビを見ていたら、怠けるな激しい剣幕で勉強部屋に連れていかれた。

 おかげで有名な私立中学に進学できたが、僕は勉強漬けの日々に疲弊し始めていた。


「アイドルのアイちゃんってマジでエロいよな」


 周りの男子は脳天気に、あのアイドルがいいとか、あの漫画が神だとか、くだらない話題でいつも盛り上がっていた。

 だが進学校の子供だ。毎日馬鹿騒ぎして盛り上がる彼らは、僕なんかよりもずっと優秀だった。


 母はそんな彼らを見下し、日頃の学習が差をつけるんだと、毎日僕を机に向かわせた。

 だけど、入学してすぐに、僕の成績は下から数える方が早いくらいになっていた。

 そうまでして勉強しても、僕は彼らに勝てなかった。


「いい中学に入っても、これじゃ何の意味もないじゃない!!」


 周りに比べて成績の低い僕を見て、母はヒステリックに叫び、物にやつ当たりし、僕の罪悪感を掻き立てた。

 その頃から、どういうわけか父の帰りも遅くなり、僕を庇う者もいなくなった。


 中学生にもなって、僕は勉強ペースを母に監視されていた。

 帰ったら勉強部屋に放り込まれ、その側では母が僕を見守り続けていた。

 少しでも手が止まれば叩かれ、睡眠時間も削らされた。

 一分一秒を無駄にしないように、人生の全てを勉強に費やせと言われた。

 だけど、一日に五時間も眠れないせいで、前よりもぼーっとする時間が増え、学校の授業も頭に入らなくなってしまった。


 そんな日々に僕は苦しみながらも、段々と勉強のコツが掴め、内部進学で高校に上がった頃には、ようやく学年50位以内の成績を維持できるようになった。

 模試でも第一志望でA判定が取れるようになり、これで母も満足してくれると、そう思った。


 しかし……


「たかだか50位で、どうしてそんなに安心していられるの!! 一流の企業に進むなら、こんな成績じゃどうしようもないって、そんな簡単なこともわからないのかしら? 怠けていないで、もっと努力をしなさい!」


 怠けてなどいなかった。母に言われるがまま、人生の全てを勉強に捧げてきたのだ。

 部活に打ち込むとか、友達と旅行だとか、恋人とデートだとか、周りの同級生が当たり前のように過ごす青春の全てを捨ててきた。

 それでも母は満足しなかった。


 息苦しい……

 いくら努力しても親に認められない。

 まるで、いくら泳いでも這い上がれない水の中に閉じ込められているような気分だった。


 どうしてこんな想いをしてまで、勉強しているのだろう。

 一瞬、そんな考えが頭をよぎった。

 ペンを持つ手が、参考書をめくる指が、益々重たくなっていた。


「あなたはその怠惰な性格のせいで、他人よりも劣った結果しか出せないの。そのことを自覚しなさい」

「成果が出せなければ親子の縁を切るわ。あなたには家を出て行ってもらいます」


 母親のプレッシャーは受験本番まで続いた。

 そんな緊張状態の中、受験本番の日を迎えた。

 だが……


「っ……お゛お゛……」


 答案用紙が目に入った瞬間、僕はとてつもない不快感を覚えた。

 そして次の瞬間、答案用紙は吐瀉物に塗れていた。

 受験が失敗すればまた両親に失望され、家を追い出される。

 そう思った瞬間、酸っぱいものが胸に込み上げ、とめどなく溢れたのだ。


「クソッ……なんで俺の隣で吐くんだよ」

「どうせ吐くなら他人に迷惑掛けないように吐けよ」


 周囲の受験者が口々に僕を非難する。

 人生で一番惨めな瞬間だった。




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ご覧いただいてありがとうございます!!

久々の投稿で右も左もよく分かりませんが、面白そうと思っていただけたら、何卒お付き合いください!!

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