第1話 現状把握



 「縺オ縺オ縺」縲√?繝槭〒縺吶h縲りオ、縺。繧?s」


 聞き覚えの無い言語で目を覚ますと、そこには女性の顔があった。

 穏やかな表情をした、綺麗な黒い髪が特徴的な女の人だ。

 私の国で黒い髪は極めて稀少なので、その珍しさに少し見惚れてしまう。

 するとこちらの目線に気づいて、彼女も柔らかな笑顔を返してくれた。


 そこで大方、置かれている状況に察しがついた。

 どうやら私は今彼女に抱き抱えられているらしい。

 両の腕で優しく包まれながら体を支えられてる感触がはっきりと理解出来た。

 ただ、それが一体何を意味するのかはよく分からない。

 私はどうなってしまったのだろうか。


 最後に覚えているのは呼吸困難で高熱を出し悶え苦しんでいたこと。

 そしてそのまま絶命したこと。

 けれど今は何ともなく、むしろ体はすこぶる快適なくらいだった。

 まるでに全身が軽い。

 けれど、身動きが全くとれない。


 諸々の要素を踏まえた上で私が導き出した答えは、生まれ変わったのでは?という推察だった。

 むしろそうでなければこの特殊が過ぎる状況に説明がつかない。

 そう、私は転生したのだ。


 飲み込むのに時間は要らなかった。

 それは私の性格上の都合もあるのだろうけれど、何より元々魔法という超常現象が当たり前の世界で生まれ育った身。

 今更これくらいの事態で驚きはしなかった。

 むしろ剣と魔法の乱世で、次はどんな身の振り方をしようかと考えられる余裕があるくらいには至って冷静だった。

 どのみち、今は何も出来ることなどないのだし。


 なんて、吞気に構えていられるのは束の間だった。



 「莉翫°繧峨♀螳カ縺ォ蟶ー繧九h?槭?よ・ス縺励∩?溘→繧ゅ■繧?s」


 三日経ち、私は薄っすらと気付き始めた。

 というより、思い知らされた。


 ──ここ、剣と魔法の世界じゃなくね


 まさかの事態だった。

 生まれ変わったこの世界には、私にとって普遍的であった魔法という概念が存在しない。

 まだほんの一端しか目にしていないにも関わらず、すぐにそう思い至った。


 というのもこの世界、やたらと文明が発展しているのだ。

 外を見渡せば一面鉄で出来た高層の建物群が広がっているし、四角い板のようなもので遠くの人間と話しているし、医療施設も見たことのない機械だらけ。

 そしてそれら全てを、魔力の反応を一切感じさせることなく成立させている。

 要は知識と科学の世界というわけだ。

 そして今私は、大変な速度で走る四輪の得体の知れない乗り物に乗せられ揺られている。

 何もかもが未知数で、はっきり言って恐怖である。


 何より言葉が分からないのが問題だった。

 コミュニケーションは取れないにしても、何を喋っているのかが分かればまだ良かったのだけれど、視覚情報だけとなると得られる情報に限りが出来てしまい中々に難儀である。

 そして辛い、とにかく精神的に辛い。

 根暗引き篭もりにとってこんな状況は地獄でしかない。

 自力で言葉を覚えるのも一つの手だったが、生憎魔法以外はてんで駄目だった出来の悪い私の頭ではそれも期待出来そうにない。

 魔法が使えれば、言語翻訳なんて簡単に出来るんだけどなあ…。


 …そういえば、試してはないな。


 思えば、この世界の一切合切に魔力らしきものを感じなかったがために勝手に決めつけていたけれど、自分自身がどうなのかはまた別問題だ。

 事実、魔法使いの魔力とは肉体ではなく魂魄に宿るもの。

 元の記憶と人格を有する私は、魂はそのままに生まれ変わりをした可能性が極めて高い。

 十分、有り得る話ではなかろうか。

 そう結論づける頃には、私の心は叫んでいた。


 ──『翻訳チェンゲージ


 瞬時の無詠唱魔法。

 それは縋るような思いだった。

 唯一の取り柄であった魔法を失えば、いよいよ私は無価値である。

 すると懐かしさと安堵感を覚えさせるように身体中を熱が巡り、同時に一つのことを改めて私に思い起こさせた。


 「縺?s? ──どうかした?ともり」


 やはり、私は生粋の魔法使いなのだということを。

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