第20話
放課後、俺たちは部室に集まっていた。伊吹と小雪はそれぞれ椅子に座り、黒板の前に立つ俺を見ている。
「とりあえず、これまでお前たちを勝ちヒロインにすべくいろいろやってきたが、成果は上々。お前たちはよくやっていると思う」
俺がそう言うと二人は目を輝かせながら頷いた。
「まず伊吹。お前は湊の趣味に合わせるところからポイントを稼いでいる。課題は素直に自分の気持ちを伝えられるかどうかだ」
「それはわかってる」
「それから小雪。小雪はバイトのおかげか、だんだんと人見知りしなくなってきている。いい傾向だ」
「う、うん。そ、それは自分でも実感してる」
この二人の頑張ろうという気持ちが強く、ここまでいい成果を出せている。
「そこで、今日はさらに上のステージに行こうと思う」
「上のステージ?」
「攻略対象に合わせた攻略会議だ」
誰を落とすかによって作戦は明確に変わってくる。勝ちヒロインとしての基礎力を高めた今の状態なら次のステップに移行しても問題はないだろう。
「まず、伊吹の好きな人は湊だ。湊は俺が情報を知っているからかなり有利だな。力になってやるよ」
「うん、ありがとう」
「小雪に関しては相手がわからないんだが、教えてはもらえないか?」
「そ、それは、む、無理」
「なら、どういうやつかだけでも教えてくれ。対策を立てるのには必要だ」
「わ、わかった」
小雪の了承を得られたことで話を進める。
「湊はモテる。だから中途半端なぶりっこは通用しないだろう」
「そうだよね。まあ私にぶりっこやれって言われてもできないけど」
「だが、湊はこれまで彼女を作ったことがない。モテるのにだ。何か明確な理由があるのかもしれない」
湊の傍であいつを見てきて、思ったことがある。なぜこいつは彼女を作らないのだろうと。あれだけモテるのだ。選び放題のはずだ。それでも特定の相手を選ばないのは何か特別な理由があると考えられる。
「だから湊を攻略するには、まず彼女を作らない理由を知る必要がある。単に好きな相手に出会っていないだけとかなら、いいんだが、ここで好きな相手がいるとかだったら厳しいな」
「それは十分あり得るかも。あの野球部のマネージャーの子とか」
「可能性はあるな。なら、湊を諦めるのか。そうはならない。恋愛は戦争だ。奪って攫っての奪い合い。湊に好きな人がいるのかどうか、俺が探ろう」
「頼りになる。持つべきものは幼馴染だね」
「それで湊に好きな人がいると判明した場合だが、伊吹はそれとなく湊に好意を匂わせろ」
「えっ……そんなの無理なんですけど!」
伊吹は目を見開いて反論してくる。俺はそれを手で制しながら、静かに言う。
「湊に好きな相手がいる場合、十中八九負ける。だが、その限りなく敗北に近い状況から逆転するには好意を匂わせていくほかない」
「そんなのどうやって」
「さりげないボディタッチ。褒める。好きという言葉を使って好意をアピールする」
「それってもう告白じゃん」
「違う。たとえば、野球頑張ってるところが好きだよみたいに、枕詞をつけるんだ」
男は当然好きという言葉に反応する。男である以上、意識してしまう。もしかしたらこいつ俺のこと好きなのかもとかいろいろ考える。そう考えさせることが大事なのだ。男の選択肢の中に自分を浮上させる。これはとても重要なことだ。選択肢の中に自分がいれば、選ばれる可能性が生まれる。選択肢の中にいなければ選ばれる可能性はゼロだ。
「難しいな」
「難しくてもやらなくちゃいけない。ここで重要なのはさりげなく言うことだ。間違っても赤面したり照れたりしてはいけない。男の心を惑わす目的だからな。男に絶対自分のこと好きだろって思わせたら駄目なんだ」
あくまでさりげなく、好意を伝えていく。それが塵となり積もっていけば山となる。
「まあまずは湊が彼女を作らない理由だな。これを探るところから始めよう」
伊吹に関してはこんなところだろう。
「小雪の好きな相手ってどんな奴だ」
そう言うと、小雪は頬を朱に染めながら俯く。
「お、女の子にはあんまり興味無さそうな奴で……だけど、凄く優しい。わ、私が何かを頑張ろうとすると、付き合ってくれる」
「なるほど。面倒見のいいやつなんだな」
俺はメモを取りながら思案する。
「この手のタイプは案外素直に告白するのがいいと思うぞ。女子に興味がないって口ではそう言っても、実際女子からモテれば嬉しいものだ。女子に興味がないということは特定の好きな相手もいないと推測できる。なら、早い者勝ちだな」
「こ、告白はまだ、む、無理」
まあ確かに人見知りが改善されたとはいえ、まだまだ小雪のコミュニケーション能力には不安が残る。この状態で上手く好意を伝えることができるかと言われると確かに疑問が残るな。
「小雪の課題は引き続きコミュニケーション能力の向上だな。その男子と普通に話せるぐらいには成長してもらいたい」
「わ、わかった」
「それじゃそんな感じで頑張ろうか」
俺がそう言って手を叩くと、二人は頷いた。
「あ、あの、椋木!」
「なんだ小雪」
俺がそう聞き返すと、小雪はもじもじしながら俺を見る。
「そ、そうやって付き合ってくれるとこ、わ、私は、す、好きだぞ」
「おう。サンキュ」
俺がそう返事すると小雪は頬を朱に染め、俯いた。
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