プロローグ 死にたがりの少女
親愛なる私の友人、アンへ
お久しぶりです。
ミレイユ先生が
これで私が生きていく意味がなくなりました。
今まで本当にありがとう。どうかお元気で。
さようなら。
シャルロットより
私の『つがい』のミレイユ先生が、息を引き取った。
春の
「いいかい、シャルロット。私達
私は最後まで先生の
マナは生命の源だ。目には見えず、風のように大気を流れていく。そのマナを
ミレイユ先生は魔法使いの中でも、大魔法使いと呼ばれる人だった。
大魔法使いの真の力、それは自らマナを生み出すことにある。生命の源を生み出せるその力に、人々は
しかしミレイユ先生が亡くなり、大魔法使いの力が失われた今。魔封士である私に残された時間は少ない。
「先生、ごめんなさい……」
大魔法使いが──ミレイユ先生がいなくては、私に生きる価値などないのです。
ミレイユ先生を
先生の墓の前で立ち
ミレイユ先生と最後の別れを済ませた私は、そっとその場を
目指すのは今まで暮らしたお
森の中を足早に進んでいく。自分自身の小さな呼吸と、わずかに残る雪を
早く、早く死ななきゃ。かつて故郷で起こった出来事が
私の魔封士の力のせいで
大魔法使いがマナを生み出し益となる存在なら、魔封士はマナを消し去る害悪だ。
大魔法使いと魔封士、正反対の異なる能力を持つ二つの存在は、強大な力を持つが
力を操るためには大魔法使いと魔封士同士のマナを強く結びつけ、お
ミレイユ先生と私の手の甲にあった、つがいの証の紋章。それは花の形をしていた。
つがいだったミレイユ先生が亡くなった今、私の手に当たり前にあった紋章は今は
大魔法使いだったミレイユ先生がいなくなった今、私が持つ魔封士の力はいずれ暴走してしまうだろう。そうなればこの森を
すぐに
春の
──力が暴走する前に自害する。
そのためにここまで来たのだ。
せめて死に場所くらいは自分で選んだ場所で。森に薬草を取りに入った時、小高い
あそこからならミレイユ先生のお墓が見える。森の奥深くだから人も来ないし、景色も良い。
急ぎ足で森を進んでいると呼吸が乱れて立ち止まりそうになる。その時、
──アン。私の唯一の友達。
幼い頃に魔封士の力が発覚し、故郷で
文字だけのやり取りならと始めたアンとの文通は、簡素な
そんなアンに、あんな手紙を残すことしかできなかった。アンは
けれど最後にお別れを言うことができて、よかった。
気付けば視界が少しだけ開けてきた。
丘の上からわずかに見えるミレイユ先生のお墓を見下ろす。今頃、お屋敷にやってきた研究員達は、私を
この辺りでも
幹に身体を預けようと手を
もしこれが生き物……人間相手だったとしたら……つがいのいない私はほとんど災厄みたいなものだ。やはり、早く死んでしまわなくては。
息を整えながら、まだ昼前だというのに分厚い雲のせいで
もう一度右手の甲を見る。やはり、何も無い。
紋章は、私につがいがいることの証だった。つがいがいれば力を制御できる。普通の人間みたいになれる──だから私は
私は
王立魔法研究院に連れて行かれたところで、力が暴走する前に新たな大魔法使いが見つからなければ私はどうせ殺される。つがいのいない魔封士は、存在するだけで罪なのだから。
すうと息を吸い込んで、止めて、
ミレイユ先生が死んだら自分も死ぬ。ミレイユ先生が病に
大丈夫。大丈夫。大丈夫だから。自分にそう言い聞かせて、首筋に当てたナイフを引こうとした、その時だった。
「ッ……」
痛くない、血も出てない──死んでない。私、まだ死んでない。
「シャルロット」
自分を呼ぶ低い声に
まるで夜がそのまま歩いているような人だと思った。
私を
いつの間にか樹の下までやってきていた男は、上等そうな身なりにもかかわらず私の前に
「だめ──!」
手を引こうとしたが
突然のことに混乱しながら考えたのは目の前の男の身の安全だった。
魔封士はマナを
不意に、男の手も震えていることに気が付いた。
男の目と目が合った瞬間──身体の中にマナが
「なん、で」
訳がわからぬまま口をついて出たのはそんな
彼の
男がほうと息をついて、私の手を両手で包んだ。震えを取り除こうとしているのか、温めようとしてくれているのか。気付けば死への
ふと見れば、いつの間にか手袋を取り去り差し出された男の左手の
そして私の右手の甲には、ミレイユ先生とつがいだった時の花の紋章とは
次の更新予定
大魔法使いと死にたがりのつがい いちしちいち/角川ビーンズ文庫 @beans
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