第26話 正義は強者の理屈……④
「「……」」
一瞬の沈黙……
おそらく仲間であろう爆弾女をキルされた暗殺者は……その場から一歩退いて道を空けた。
「まあいいさ。ダムがPKされたならこの先は俺の仕事じゃねぇしな」
俺は一つ溜息をついて木刀をローブの内側に仕舞う。ついでに足元に出来た爆弾女のコインとアイテムを回収した。
他の山は爆弾女のPKだし漁るのはちょっと違うだろう。流石にこの場で回収して回るのはかっこ悪いし……
「……ミュー帰ろう」
俺は
「……分かった」
爆弾女がリロードした隙をついて暗殺者とギルドマスターの背後に潜んでいたミューが物陰から姿を現す。
ギョッとする魔術師。
スキルを使って隠密行動した時の彼女は物理的に捉える事が極端に困難になるからな……魔術師の反応は当然だろう。
暗殺者の方は驚いてなかったみたいだが……気配を察知するスキルでも持ってるのか?
(ま、今はいいさ。それより……)
俺は彼らの横を通り抜け、彼女と共に非常灯の下のドアを開けて階段スペースに入った。
流石にエレベータは使わない。爆発物が残ってたら怖いから。
そして完全に退路を確保してから……
「……オッサンに一つ聞きたいんだが」
壊滅したギルド酒場で咥えタバコをふかす暗殺者へと問いかけた。
「……何を?」
俺の方に紫煙を吐き出す暗殺者は短く問う。
「あんた……いや、その爆弾女は誰の依頼で俺にちょっかいを掛けた? 」
暗殺者を気取る彼はまだ分かる。
自分達の牛耳る闘技場へ“混乱を招く”と判断したギルドがよこした刺客なのだろう。
実際にギルドマスターと暗殺者は繋がっていたし。
だが、その後に現れた爆弾女は違う。彼女は俺一人を殺る為にギルドを壊滅させた。ギルドマスターも彼女を介してメッセージらしき物を受け取っていたし……
おそらくギルドの背後には更に大きな後ろ盾がある。そして、その後ろ盾は原因不明だが俺にデスペナを与えようとしていた。
「ああ、これ言ってみたかったんだ。感謝するぜ……『依頼人の事は絶対に言えない』ってな」
「……そうか。邪魔したな」
俺はドアを閉めて階段を駆け下る。ミューも当然着いてくるが……
「よかったの?」
黒幕の正体を突き詰め無かった事に疑問を感じているみたいだ。
「よくねぇ……けど、ちっと急用が出来ちまった。俺はすぐログアウトする」
「??」
理由が分からず困惑顔のミュー……とはいえ詳しい理由を語る時間は無いし、そのつもりも無い。
俺達は階上で起こった爆弾騒ぎに騒然としているロビーを走り抜けてホテルから飛び出した。
ホテルの外はパブリックフィールドなので何処でログアウトしても問題は無い。
俺はステータス画面を開いて、あの爆弾女から回収したアイテムとコインを丸ごとミューへと譲渡しようとした。
ミューは視界に浮かぶメッセージを見て俺へと視線を戻す。
「今回の依頼の報酬だ。出来ればトルバゴさん達への報告も頼みたい」
と、何故か受け取りを拒否するミュー??
「報酬は要らない。こっちがお節介を焼いた。それでも恩に着るというなら……ロッキーでのクエストでパーティーを組んで」
あー……さては最初から考えてたな?
俺は苦笑しながら答えた。
「分かった。こっちの急用次第だがログインしたら連絡する」
▽▽▽▽▽▽▽▽▽
「ふう……とんでもねぇ野郎だったな」
王都ハリドライブの裏通り……紫煙を燻らせながら歩く男に周りの人間は見向きもしない。
これが現実世界なら、裏通りでもそれなりに顔を顰める人間は居ただろうが……健康問題の発生しないVR 世界では副流煙も何のそのである。
「やあ……お疲れ様。大変だったみたいだね」
裏通りの中でも更に薄暗い路地をしばらく歩くと……不意に背後に気配が現れた。
「……ああ……まったく……踏んだり蹴ったりでしたよ。せめてポーション代は経費で持ってくれませんかね?」
俺の背後に立つのは全身を赤と青のタイツで包むあのヒーロー……スパイ◯ーマンだった。
「ああ……それは勿論だ。その程度の小銭をケチったりしないさ。で、どうだった?」
ヒーローは興味が抑えられないらしい。
「その姿のままでいいんですかい? 目立ってますぜ?」
裏通りの路地とはいえ人が全く居ないわけではない。ほとんどの人間は一目見ても興味を見せずに立ち去って行くが……誰かの記憶に残らないとも限らない。
「おっと……」
ヒーローは路地裏に山と積まれた木箱の裏に入る。一瞬後に出てきたのは……
「これなら目立たないだろ?」
「ええまぁ……」
ボロい服装の少年だった。たしかにこの姿なら裏通りに徘徊するストリートチルドレンを模した亜人のNPCと見分けはつかないだろうが……
「これがやつの遺していった
俺はギルドで回収した全ての
嬉々としてそれを受け取る“
敵対している商売仇達が、どんなに素性を探っても“正体不明”である理由がこれだ。
「なんだよレオン君。僕の特技忘れちゃった?」
「いや、ボスが“鑑定”スキルの持ち主だって事は知ってやすがね……それただの市販品でしょう?」
勿論持ってるスキルは鑑定だけじゃないのは、彼がアバターの姿を自由に変えられ事実から見ても明らかだが。
「フフンッ……甘いねレオン君」
少年の姿をした雇い主は鼻を鳴らした。
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