第10話 “殺気”って具体的になんだと思う?……③


「だから! 臭いそこは本題じゃねぇんだよ」


「……君が誤解を招く様な事を言ったのが悪い」


 ちょっと帰りたくなって来た。


「“殺気”の事は分かった。を読み解いて私の行動を予測したというのも……100歩譲って受け入れる。でも、まだ納得出来ない。どんな効果かも分からない筈の私のスキルから……


「え〜……そんな事まで聞くのか?」


 思ったより厚かましいな。


「なんならもっと払う。財産は潤沢……」


 そりゃあ闘技場のランカーだからな。稼いでるんだろうよ。


「ミリオネアはこれだから……まあ、いいさ。貰うもん貰えるならあんたも生徒みたいなもんだし」


 何で嫌そうなんだ?


「じゃあ種明かしをしようか……まず……あんたのスキル、これは……おそらくだけど“自分と他人の世界を分ける”って感じの能力なんじゃないのか?」


 ― ガタッ! ―


 おいおい……動揺し過ぎだよ。


「……仮に……そうだとしたら、何でそれが分かった?」


「いや、急に消えるとかゲームじゃありがち……ゴメン……ちゃんと説明するから武器から手を離してくれ」


 しぶしぶ……といった感じで彼女は元の席についた。見ろ、フローが笑いを堪え過ぎて変な顔になってるぞ。


「まず……あんたが目の前から消えた。これは“スキル”を使ったと断定出来る。何でかって? そりゃあ今まで見えてたのに、突然姿が消えたんだぜ? いくら敏捷性に特化してたとしても、そんな動きは無理だ。仮に、このゲームでのステータスがどんなに高くても


 今まで体験した事柄だけでも十分に分かる。頬を撫でる風、ゴブリンの放つ血臭、微細な筋肉の動きすら再現する物理演算システム……この世界は徹底的に人間に違和感を抱かせない様に作られている。そしてスキルがどんなに荒唐無稽な代物でも……それを操る人間のに干渉することは不可能だ。


「極端な話、この世界でもリアルの世界でも人間が感じる“一秒”の長さは変わらんだろ? 当然プレイヤーのスペックが高くても


 うん……そろそろフローが面倒臭そうになってるな。


「……それでも……目の前から消えた後は行動も見えない筈。動きの痕跡だって認識出来ない仕様なのに……」


「確かに……だが、それも完璧とは言えなかった。俺にはスキルを使った後のあんたに見えてる世界がどんな物かは分からない。ただ……おそらくは


 ……どうやら当たりかな。わりと表情に出やすいな。


「答えを言えば、のは、。でも、スキルの詳細までは判断出来ない。しかも、アンタは人間のの限界近い敏捷性を誇るときてる……でだ、あの時俺に出来たのは、あんたが通り過ぎるであろう場所へだけだ。あんたはまるで気にもしないで突っ込んで来たからな。スキルの発動中はの世界とは干渉しないと分かった。あとは本当ならアンタにぶつかるであろ最短距離を数歩動けば……案の定って訳だ」


「ウソだ……をするには私以上のスピードが必要!」


「そうでもねぇさ。もう分かってるだろうけど……うちの流派は事こそが極意なんだよ。あんたがと、地面を伝わる振動から……スキルを使って俺の背後を取ろうとしてるのは予測出来た。あとは想像力と経験が物を言った……って事だな」

 

――――――――――


「あなた……一体何者??」


「さっきもチラッと言ったけど、剣術と古武術が身近な環境だっただけだ」


 ふう……やっぱりG.O.Dは面白い。こんなに会える機会は現実ではそうそう無い。


「OK、受け取って……」


 私はステータス画面を操作して目の前の彼に報酬を支払った。同じくステータスを確認した彼は……確認した瞬間に飲んでいた水を吹き出しやがった! 


「マジかよ?! 1000万コイン?!」


 私と対戦してた時より驚いてるのがムカつく。


「足りない?」


 コインの額に茫然としてた彼は、頭をぶるぶると振って……


「全然!! 納得のお値段です!!」


 それはそれはニコニコとしてる!


「やっぱりムカつく。でもそのコインは報酬だけじゃない……それは対戦料エントリーフィーに使って」


「えっ……? またるの?」


「勝ち逃げは許さない」


 絶対にコテンパンにしてやる!


――――――――――


「あーとっ……対戦するのはやぶさかじゃないけど……今日はそろそろゲームをログアウトする時間なんだ」


 はっ?


「いや、俺は今日初めてG.O.Dをプレイしてるって言っただろ? アリスギアの説明書には“初めてのVR体験の場合、長時間の使用は控えて下さい”って書いてたからな。俺はもう3時間近くプレイしたし……」


 本気?? 


「それは子供向けの注意事項」


「睡眠時間も必要だしな。どうしてもってんならまた日を改て……フローもそれでいいか?」


「あたしは問題無いけど……」


 うぅ……納得出来ない……けど……


「仕方ない。フレンド申請しておくから認証して」


 私はステータスからコマンドを選択して彼にフレンド申請を送った。因みに……彼はなんとなく嫌そうな顔……やっぱり勝ち逃げする気だったに違いない。


「……じゃあまた連絡するよ。フローも今日の所はこれで……次にダイブした時にはお店に寄らせて貰うから、トルバゴさんにも宜しく言っておいてくれよ」


「了解! 次はじっくり装備品とかのセオリーを教えてあげる」


「じゃあ……二人ともまたな」

 

 そう言うと……彼はその場に溶け込む様に消えていった。


「ふう……心臓に悪い人だったわ」


 彼の友達らしき剣士がため息をついた。


「あなたにもフレンド申請しておく。出来れば彼がダイブしたら教えてほしい……いいかな?」


「勿論いいわよ……闘技場のランカーと友達なんて嬉しいし!」


 良かった、今日は色々と収穫もあったし……フレンドが二人も増えた。


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