第9話 報道が放棄する「監視者」としての責任

報道機関の本来の役割は、権力を監視し、市民に事実を伝えることだ。しかし、現実には、報道がその責任を放棄し、「監視者」ではなく「加担者」として機能している場面が増えている。特に、スポンサーや政治権力との関係が密接になるほど、報道の独立性は失われ、市民が知るべき真実が隠される危険性が高まる。


権力に従属するメディア


近年、政治家や政府がメディアに圧力をかける事例が増えている。たとえば、ある政策に批判的な報道を行ったメディアが、その後に取材許可を制限されたり、広告収入を減らされたりするケースがある。このような圧力に屈することで、メディアは「政権寄りの報道」をせざるを得なくなる。


また、スポンサーの存在も報道内容に大きな影響を及ぼしている。たとえば、大手企業が主要スポンサーの場合、その企業に不都合な内容が報じられることはほとんどない。これは、視聴率や収益を優先するメディアが、スポンサーの意向を無視できない構造にあるからだ。結果として、消費者にとって重要な情報が隠されることになる。


政治とメディアの癒着


日本の記者クラブ制度も、メディアが権力の「加担者」となる原因の一つだ。この制度は、政府や主要機関が特定の報道機関だけに情報を提供する仕組みであり、記者が権力者と密接な関係を築く温床となっている。これにより、記者たちは批判的な報道を控え、政府の意向に沿った報道を行うことが多くなる。


さらに、選挙期間中には、特定の政党や候補者に有利な報道が行われることもある。これにより、視聴者は公平な情報を得られず、投票行動に影響を受ける可能性がある。


報道が果たせなかった使命


災害や社会問題においても、報道がその使命を果たせていない場面が目立つ。たとえば、震災の復興や豪雨災害の支援不足といった問題に対して、メディアは一時的な注目を集めるだけで、長期的な追求を放棄してしまう。これは、視聴者の関心が薄れるとともに、報道が別の話題に移行するという構造的な問題だ。


また、障害者や社会的弱者に関する報道も不十分だ。デフリンピックやパラリンピックなど、障害者が主体となるイベントはほとんど取り上げられない。これにより、彼らの存在や課題が社会の中で忘れ去られてしまう。


責任を果たすために必要なこと


報道機関が「加担者」ではなく「監視者」としての役割を果たすためには、いくつかの改革が必要だ。

1. スポンサーからの独立

 広告収入に依存しない報道モデルを模索し、スポンサーの影響力を排除する。

2. 政治圧力への対抗

 権力に対して独立した姿勢を貫き、記者クラブ制度の見直しや透明性の確保を進める。

3. 市民の声を拾う報道

 政府や大企業だけでなく、弱者や被災者の声を積極的に伝える報道姿勢を強化する。

4. 視聴率至上主義の克服

 センセーショナルな報道ではなく、継続的で深い取材に基づいた報道を重視する。


私たち視聴者の役割


一方で、視聴者である私たちにも責任がある。メディアの報道を鵜呑みにするのではなく、批判的な視点を持ち、異なる情報源を活用して自分自身で真実を見極める力を養うことが求められる。また、偏向報道や印象操作に対して声を上げることで、メディアに対する監視の目を強化することができる。


次回は、このエッセイの総括として、報道がどのように変わるべきか、そして私たちが報道に何を期待するべきかを考える。メディアの責任と市民の役割を再確認し、より健全な情報社会を目指すための提案をまとめたい。

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