好敵手 / BATTLES

「ついに来たね……この時が」

「はい。練習の成果を見せる時です」


 午後の競技も残すところあと少し。ここでいよいよ、わたしとうさぎちゃん2人にとっての大勝負――二人三脚が開幕となった。

 入場ゲートへ向かう途中も、自然とうさぎちゃんと足を揃えて歩いていた。自信はかなりある。他の人とは練習量が段違いなはずだからだ。だってわたしたち、現実世界でも練習できるんだもの。……バイト中まで練習してたらアニムスさんには怒られちゃったけど。


 と、ゲートへ続々と集まってくる出場者の中に、思いがけないペアが。


「――あれれっ、ゆかりんとうさちゃん!?」

「みふゆさんに、しのぶさん? まさか」

「にゃはっ☆ アタシたち二人三脚に出るんだけど……もしかして、ゆかぴたちも?」


 ビックリ! 2人も出るなんて、今日まで一度も聞いてなかった。これは予想外の展開だ。2人はB組所属だから、ここまでもドッジボールとかクラス全員参加系の競技で間接的に戦うことはあった。けれどここにきてついに直接対決か。


「驚いた。けど……負けないよ」

「なはは、みふゆさんたちを甘く見ないほうがいいよ。説明しよーぅ、実はあたしたちこっそり現実世界で練習を」

「えっみふゆたちも現実で練習してたの?」

「えっゆかうさペアも?」

「……」

「……」

「「「「……勝つのはわたしたちだ!」」」」


 いつもは仲良し4人組。だけど今この瞬間だけは、最大最強のライバル。


◆◆◆


 原型を思い出せないくらいに変化しまくる校庭も、この二人三脚ではごく普通なグラウンド。白線で描かれたトラックは4レーンあって、同学年のクラスが2ペアずつ順番に走っていく。ちなみに今年唯一3クラスある1年生のときだけは、一時的に6レーンに増える。仮想空間ってなんて都合がいいんだろう。

 話を戻して、そんな2ペアずつの出走だから2分の1の確率でみふゆ&しのぶちゃんペアとは重ならない可能性もあったのだけど、運命のイタズラなのか2人と同じ番での出走となった。しかも隣のレーン!


「ゆかぴたちは、作戦とか考えてるの?」

「作戦? んーと――」

「ダメですよゆかりさん! 今はライバルなんですから、そういうのは秘密にしないと」

「あぁそっか、危ない危ない」

「にゃっははははは! 惜しかったのに~」

「くそー卑怯だぞ! ところでそっちはどんな作戦?」

「んーとねアタシたちは~」

「しののんが逆に乗せられちゃってどうすんのさ!」


 そんなことを話しながら、体育座りとしゃがみの中間くらいな姿勢でチョコチョコ前に進んでいく。最初はお互いの意気込みみたいなのを語り合ってたけど、だんだん他に出てた競技の話とか、一緒に観戦していた運動部エキシビションマッチの話とかの雑談に変わっていく。そうして勝負の心からいつものリア活部に戻りつつあったところで、気づけばわたしたちの出走が目前に迫っていた。


「あっ次わたしたちじゃん」

「にゃっ、ホントだ! 気づかなかった~」

「もう、みなさん気がゆるみすぎです」

「いけないいけない、じゃあこっからは真剣勝負だ」


 スタートライン横の体育祭実行委員に案内され、わたしたちは『2』と書かれたスタートラインへ。そこからちょっと後ろのところ、『3』のラインにみふゆ&しのぶちゃんペアが立つ。

 全ペアが並び終わると、実行委員の声に合わせてわたしとうさぎちゃんの足が光るバンドで結ばれた。肩を組んだら、ここからはうさぎちゃんと一心同体。わたしたちは目と目を合わせて、呼吸を同期させた。


『2年生第2ブロックの出走です! 位置について、よーい…………』


 パァン!

 その音と同時に、わたしたちは全力疾走を始めた。2人の足がまるで元からこんな形だったってくらいスムーズに動く。視線は足元なんて見ていない。直線を抜けた先にあるカーブを意識する。もちろんうさぎちゃんも同じ。


「「い、に、い、に、い、に……!」」


 極まったわたしたちのペースに『いっちに』なんて遅すぎる。練習の果てにほとんど呼吸だけで、ちょっとだけ音が付いているというレベルに達したのだ。ふふん、他のペアとは練習量――いや、絆が違う! 会場に響く実況も驚きの混じった声だ。


『1位は2年A組・出角涼風ペア、とても速いです! ――しかしそのすぐ後ろを、B組千葉藤田ペアが追いかけます!』


 なんだって! 後ろを振り向く暇なんてないけれど、確かに気配を感じる。あっちのペアも中々やるね。そのままわたしたちはカーブへ突入した。レーンはわたし&うさぎちゃんペアのほうが内側、カーブの長さにはちょっとだけ差がある。ここで引き離しちゃうよ!


『1位と2位がともにカーブへ! っと!? 千葉藤田ペアの勢いが上がった! これは!?』


 視界の端っこにしのぶちゃんのミルキーホワイトな髪が映り込んだ。うそ、並ばれてる! カーブが終わると共に、ほんのわずかにだけど2人に前に出られてしまう。実況音声の『B組逆転』というアナウンスを耳にした。最後の直線、ゴールテープまでの距離がどんどん短くなっていく!


 ――行くよ、うさぎちゃん!

 ――はい、やりましょう!


「「うおおおおおおおおっ!」」


 合図なんていらない。わたしもうさぎちゃんも同時に、最後の力を振り絞った。会場のアナウンスも、足に結ばれているバンドも、何もかもを意識の外にして全速力で足を動かす。絶対、負けない!


『1位2位すさまじいデッドヒートだ! 接戦です、両者横並び! 横並びで……今ゴールっ! 果たして1位は!?』


 あまりに速すぎて、ゴールを30メートルくらいオーバーランしてようやくわたしたちは停止できた。ゴールと同時に足のバンドはいつの間にか消えていた。横を見ると、みふゆ&しのぶちゃんペアも同じようにオーバーランしていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……みんなお疲れさん」

「みふゆたちもね。まさかわたしたちと並んでくるなんて」

「にゃっはは、ゆかぴたちもスゴかった~。おかげでアタシたちも限界超えちゃったかも」

「お互いに、ですね。わたしたちも練習より遥かに速いスピードが出ていた気がします」


 4人でゴール後の待機場所へ戻ると同時に、わたしたちの試合結果がアナウンスされた。勝ったのは……みふゆ&しのぶちゃんペア。なんとその差、0.02秒!


「うわぁ負けたー!」

「おっしゃぁ! けどこれもうほぼ同時じゃん」

「どちらが勝ってもおかしくなかったですね」

「にゃっははは! ねぇ、もし四人五脚なんてのがあって、全員同じクラスだったらアタシたち最強だったかもね?」

「確かに」

「なんなら今もうあたしたちの歩調完全同期してるもんね」


 ほんの一瞬だけのライバル関係は終わり、横並びになったわたしたちは再び最高の親友に。結果は悔しいけど、最高の試合だった。

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