それぞれの夏景色

 休み明け初日なのもあって、今日の学校は午前中だけで終了だ。けれどわたしとうさぎちゃんはホームルームが終わってもすぐには帰らなかった。なんてったって久しぶりにクラスメイトのみんなと顔を合わせるんだもの、それぞれが過ごした夏休みの思い出を聞いて回りたい。


「えっとね、ボクはみっちゃんと一緒に過ごしててね」


 最初に突撃したのはクラスの図書委員、カヴィタちゃん。ある程度は夏休み中の図書室で聞いてたけど、うさぎちゃんははじめて聞くかな?


「確か、夏休みが始まってからずっとお泊りしてたんだっけ?」

「あっ、そうそう。みっちゃんのお家にね」

「ずっと?」

「えへへ……家が近いんだ。夏休み中は、全部みっちゃん家にいたの」

「そんなに。スゴいですね」

「次の冬休み、わたしたちもチャレンジしてみる?」

「それは流石に厳しいと思います……。それで、お2人でどんなことを?」

「あっ、えっと。ビニールプールで遊んだりとか、スイカ割りとか」

「――それと、夜の森で肝試しもいたしましたわ♪」


 ヌルリ、とカヴィタちゃんの背後から現れたのはみつはちゃん。音もなく現れたからわたしたちはビックリした。いつの間にかカヴィタちゃんのお腹にも手を回している。


「み、みっちゃん!」

「ごきげんよう、出角先輩に涼風先輩。カヴィーとずいぶん、楽しげにお話されていますわね」

「夏休みの思い出を話していたんです。お2人は休み中ずっと一緒だったんですね。素敵です」

「ええ。できれば休み中だけと言わず、1年中を共に過ごしたいくらいですが……♡」

「と、とても仲良しなんですね……」


 だんだん2人の周りの重力が強くなってきた気がするので、この辺で一旦カヴィタちゃんたちとは別れよう。次に向かった先はラグちゃんだ。あ、また寝てる。いいや起こしちゃえ。


「おーい、ラグちゃーん」

「んがー。何さー」

「夏休みどっか行った? あぁ、たしかパーフェクトなんとかって所行くって言ってたっけ」

「パフェユピかぁ。それは楽しかったよ。それはね」

「何かあったんですか?」

「翌日が! 補習!」

「あぁ……」

「そういやそうだったね。で、パフェユピはどんな感じだった? 遊園地的な世界ワールドなんだよね」

「イェス。やっぱ最高だったよー高さ10キロのジェットコースターとか! どれもこれもバズネタの塊!」

「ひええ!? 想像しただけで恐ろしくなる高さです」

「確かにそれは仮想空間じゃないとできないね……話題になるのも納得」

「その日だけで写真5000枚くらい撮った気がするねーマジで。でも〈QuShiBo〉載せたけど、同じような投稿がもうたくさんあって全然バズんなかった。みんな考えてること同じかぁ」


 遊園地。そういえばわたしたちは行かなかったな。まぁ現実世界の屋外は命の危機があるレベルで暑すぎるし、こんな中でジェットコースターとか乗ってられないからね。冬休みとかなら行ってもいいかも。よし、気が早いけど冬休みのやりたいことリストを作っておこう。

 さてさて、次はまきみちゃんの所でも行ってみようかな。朝もちょっと話したけど、まだまだ聞き足りない。


「む。休みに遊んだことか」

「はい。沖縄というと、わたしは海のイメージが強いですが」

「そうだな。確かにういーじゅん水泳もしたし、サバニにも乗った」

「サバニ is 何」

「サバニ is 舟だ。うちなー沖縄の伝統的なやつだ」


 おおー、とわたしとうさぎちゃんのリアクションが重なる。古くからある伝統のもの。あらゆる人も物も未来を向いている東京ではもうほとんど見つけられないものだ。そういえば、わたしたちも盛岡まで行って現実の花火大会を見たよね。自分たちの足で辿り着いて目にしたものは、どれも大切な思い出だ。


「これは……リア活したいな」

「ゆ、ゆかりさん。まさか沖縄を目指すつもりですか」

「来年の夏休み……どう?」

「ちなみに夏は全然やめておいたほうがいい。てーふー台風あみと、そして飛行機代がスゴい」

「な、なんだってー」

しんぐゎち4月とかじゅーぐゎち10月とかがいい。じゅーぐゎちならまだ海も開いている」

「……学校休む?」

「そこまではできないですよゆかりさん……」


 むぅ。いつか絶対リア活部で行ってやるぞ、沖縄。


◆◆◆


 さて、クラスメイトともたくさん話したし、そろそろ下校ログアウトしようかな。B組のみふゆやしのぶちゃんとも合流して、リア活部みんなで校門に向かっていると、昇降口に狐森先生がいた。そうだ、せっかくだし先生にも話を聞いてみよう。


「こんにちはー。狐森先生も、夏休みどこかに行ったりしたんですか?」

「こんちゃ! お休みはねー、地球救ってた」

「「「???」」」

「なんてな! へっはっは! まぁ普通に仮想空間をフラフラ彷徨うなどしてたよん。残念ながらイナ高の生徒とは誰も遭遇しなかったけどにゃ」

「オフ中の狐森先生……ちょっと会ってみたいかも」

「いやーん先生の素顔がバレちゃう♡ まぁ学校の外でまで生徒指導に目を光らせはしないケド」


 その時、わたしのお腹がグゥと鳴っちゃった。恥ずかしい。


「うー、仮想空間なんだしお腹の音くらいは鳴らないようにしてくれてもいいのに」

「大丈夫さゆかりん、あたしらもお腹空いてきたし」

「へははは~。ちなみにちょっと怖い話してあげよっか。…………昔、空腹をシャットアウトしたせいで餓死者出したオンラインハイスクールがあるよ」

「おなかすいたのでかえります!!!!」

「へい! また明日ねん♪」


 気持ち速足で昇降口を出て、みんなと横並びでログアウト。今日を過ぎたらしばらくは平日の午後を遊び回ることなんてできなくなるし、みんなと何しようかなぁ。そんなことを思いながら身体の感覚を現実世界に戻すと、眼を開けた瞬間にとてつもない空腹感が! 〈ブレインネット〉に表示される現在時刻は、もう14時近く。思っていたより会話に夢中になってたみたい。

 とりあえず、まずはご飯にしよう。今日のお昼ご飯はなんだろな。

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