XI

「みてみて! チャンピオンが飛んでるよ!」


「ああ、ただでさえ強すぎるパワーに圧倒的なスピードまで加わる。まさに鬼に金棒じゃな」


「でもさ、もっと高く飛んだ方がいいよ! そしたらチャレンジャーの攻撃をわざわざ避けなくていいし」


「サリドンはそんなつまらんこと、するわけないじゃろう」


「……どうして?」


「それは彼が、チャンピオンだからだ」



 サリドンはウォーカーの攻撃をしのぎ切ると、翼をはためかせ、ウォーカーの周囲を高速で、縦横無尽に飛び回る。


(これがドラコの本領か。パワーはもちろん、スピードも逆転されちまったなぁ……)


『サリドンがついに必勝パターンに入った!! ただただ強すぎるという理由で使用を控えていた翼の力を存分に使い、ウォーカーを翻弄する! これは勝負ありか!?』



 サリドンは翼の力も加わった渾身の一撃を、ウォーカーに放つ。


(だが、ただ速いだけ、力が強いだけの攻撃なんて大して脅威じゃねぇ。むしろ、虎視眈々とカウンターを狙われる方が厄介だ)



 そして、サリドンの攻撃は空を切り━━━


(ほら、今からここに攻撃するぞって気持ちが、だだれだぜ?)



 ウォーカーのカウンターがサリドンに炸裂さくれつした。それと同時に、会場が嵐のような歓声に包まれる。


『……信じられない光景だ! サリドン渾身の一撃はあっさりと躱され、ウォーカーの反撃を背後からまともに食らったサリドンは、地面にたたきつけられた!! ついにチャンピオンが、敗北してしまうのか!?』



 さらにウォーカーは倒れこんだサリドンに締め技を仕掛けた。サリドンの首元に腕を滑り込ませ、けい動脈をしぼり上げる。


「あっ! チャンピオンの首が…… 早くにげて!」


「……」



 サリドンはウォーカーの腕を引きはがそうとするも、うまくウォーカーの腕をつかむことができず、次第に意識が遠のいていく。そして、サリドンは意を決してウォーカーの腕に拳を振り下ろす。しかし、彼のこぶしは自らの首に、鈍い衝撃を与えるのみだった。ウォーカーが直前に、腕を離したのである。



「自分に向かって攻撃しちまうなんて、世話ねぇな。もう勝利を、諦めちまったのか?」


「ゴホッ、ケホッ……。それには及ばない。これは、愚かな自分へのいましめさ」


「そうかい。ならもっと、踊れ!!」



 ウォーカーは再び先手を奪い、猛攻を仕掛ける。サリドンは翼も用いて対応するも、ウォーカーの動きは更にキレを増し、サリドンの行く先にことごとく回り込んだ。 



 戦いが終幕に近づくにつれて、会場は徐々に静まり返っていった。観客はみな固唾を呑んで、二人を見守っている。これから迎える結末に、歓声など野暮だ。瓦礫がれきの闘技場に集まった者達全員にそう思わせるほど、二人の戦士が作り出す命の輝きは、美しかった。





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