XII
それから一体どれだけの時間が経過しただろう。二人の戦士が命を燃やし、全身全霊でぶつかり合う。ウォーカーが攻め、サリドンが守る。
永遠に続くとさえ思えた戦いの終わりのきっかけを作ったのは、以外にも戦況を支配し続けたウォーカーの方であった。先手を取り続け、苛烈な攻撃を幾度も仕掛けていた彼自ら攻めを中断し、呼吸を整える。
その正体は、疲労であった。暗殺者という職業の性質上、ウォーカーは長時間戦闘をし続ける経験を、積むことができなかった。そんな彼の肉体が、ついに悲鳴を上げたのである。二人は一度距離を取って、
次の一撃で、終わらせる。
ベルナデッタはいつの間にか、二人の戦士の戦いを食い入るように見ていた。もちろん彼女はこの光景が数えきれないほどの暴力の果てにたどり着く境地であることも、それが道徳的に間違っていることも理解していた。しかし、ベルナデッタはこの鮮烈な光景から目を背ける
ついに───── 二人は、終点にたどり着く。
ウォーカー渾身の一撃がサリドンに炸裂した。静まり返った会場に、鈍い衝撃音だけが響く。勝負ありだ。あんな攻撃、顔面に食らったらひとたまりもない。いや、今すぐ適切な治療を受けなければ、命が危ない。きっと、会場にいた誰もがそう思ったことだろう。しかし…… サリドンは、笑っていた。
サリドンは自らのすべてを拳に集中させ、反撃に打って出る。ウォーカーは予想外の出来事に一瞬面食らうも、すぐに追撃を放つ。なんのガードもないボディーにウォーカーの拳が深々と突き刺さる。だが、サリドンは止まらない。彼のすべてがこめられた一撃がウォーカーに放たれる。いまだ攻撃の最中であるウォーカーにこれを躱す術はなく、サリドンの最後の一撃がウォーカーの顔に炸裂する。
チャンピオンが防衛を果たした。
ついさっきまで静まり返っていたことが、まるで嘘だったとおもえるような大歓声に、会場が包まれる。
「お爺ちゃん」
「なんじゃ」
「ありがとう」
「……気にするな」
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