それから私は作業所にあるテントを借りてそこに寝転がった。やっぱり食べた後は寝るに限る。それでは、お休みなさい。



 ……目が覚めた。枕元に置いた懐中時計を拾い上げ、時刻を確認する。懐中時計は十四時二十三分と答える。それからテントを抜けて背伸びをし、意識が覚醒するのを待つ。空は雲一つない快晴。今日はとてもいい天気だ。ちなみにこの懐中時計は工場のおじさんからもらったもので、これを基準に歩くペースを調整している。台車の持ち手の鎖に手をかけて、帰ろうとしたところでジンジャーに呼び止められた。


「ベリィ、修理に出す工具と鉄柱ができた。悪いが工場まで頼む」


「ええ~、帰りも鉄柱運ぶの~? さすがにめんどくさいよ」


「金属は貴重なんだ。それに文句があるならピアースに言ってくれ。あいつがやらかして修正しなきゃならなくなった。とは言えピアースは今日こっちに異動してきたばっかりだし……。まぁ、大目に見てやってくれ」


「ハイハイ、運べばいいんでしょ、運べば」


「ほんと申し訳ない」


「いいよ、その分報酬はもらってるし」



 そんなわけで追加の荷物を抱えて帰路につく。今日はツイてないなぁ。それからおよそ、二時間かけて家に帰った。裏口の鍵を開けて、そのまま私の部屋に入る。そこはとても、無機質な部屋だ。部屋にあるものすべてが金属、もしくはそれと同等の硬度を持つものでできている。私が過って壊してしまわないように工場のおじさんたちが作ってくれた。彼らが善意でこれを作ってくれたことは分かっているし、私もとても感謝している。でも、ここに入るたび、まるで囚人や猛獣を捕らえるためのおりのような部屋を、目の当たりにするたびに━━━



 私は自らの運命を呪う。



 それから私は隣の部屋をノックして、ドアをひねり家族に帰りを知らせる。


「ただいま」


「……! おかえり、なさい。仕事はどうだった? ジンジャーさんに迷惑かけてない?」


「大丈夫だよ。むしろこっちが迷惑かけられちゃったくらいだし」


「そう。なら、いいのだけど。……ベルナデッタ」


「なに? お母さん」


「その力は絶対に、暴力に使っちゃだめよ」


「分かってるよ」



 いつから母は、こんなおびえた表情で私を見るようになったのだろう。









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