Ⅱ
§2
ドルディア共和国テリームの荒野に今日も続々と職人たちが集う。その目的は、魔術からの脱却。魔術において後進国であったドルディアは、古くからゴエティアを筆頭とした魔術の先進国から多くの
それに耐えかねた国民は脱魔術デモを引き起こす。魔道具の不買運動に始まり、最終的に行政機関の占拠にまで激化。そして、ドルディア政府が他国から魔道具を買わない、魔術師を雇わないと宣言するまでこの運動は止まらなかった。昇る朝日は彼らを祝福するか、はたまた嘲笑うか。ただ一つ確かなのは、道なき道を開拓しようとする彼らの目にははっきりと、何かが映っていた。
「今日からここに配属されました、ピアースです。よろしくお願いします!」
「ああ、そう言えば人手不足だって本部に連絡したっきりだったか。私は現場監督を務めるジンジャーだ。よろしく頼む。補充要員は君一人だったかな?」
「いいえ、明日にあと二人合流するはずです」
「そうか…… いや、まぁ、いいか」
「あの」
「ん?」
「ここは、線路を引く過程で資材の運送距離が徐々に長くなり、深刻な人手不足に陥っているんですよね?」
「そうだな。確かにあの時は人手不足だった」
「それはどういうことですか? 本部に申請が届いてから今日に至るまでにも確実に工場と現場の距離は遠くなり続けています。それなのに労働者の負担はむしろ減ったと言っているように聞こえるのですが」
「まぁ、それはあれだよ、ピアース君。うちには今、スカジ様がついている」
「スカジ……? まさか、新たな動力が開発されたんですか!?」
「いや、状況はもっと単純さ。まぁ、口で説明しても仕方がないから作業を始めよう。そう焦らずとも昼には分かる」
「は、はい……」
ピアースは自分に与えられた仕事をこなしながらテリームの職人たちの様子をつぶさに確認する。だが、これと言って変わったところはなく、以前の持ち場と同じ作業内容だった。土を整え、線路を敷くための土台を作っていく。特別作業が効率化されている訳でもないのに、なぜテリームの職人たちに余裕があるのか。その答えは唐突に、彼のもとへ訪れた。
「監督、なんですかあれは……」
ピアースの視界に映ったのはループスの少女だった。肩まで届く黒い髪に額の上にはえた三角の耳。加えて、ロープのように足元へのびる尻尾をもっている。しかし、ピアースはその事実を受け入れることができなかった。彼女がここまで運んできたものを目の当たりにしたからだろう。彼女は大の大人ですら一本運ぶのに数人がかりで対応する線路の鉄柱を、数十本台車に乗せて運んできたのだ。
百歩譲って彼女が
「彼女はベルナデッタ。見ての通り巨人のような力を持つループスだよ」
「これは…… スカジと言うよりスルトでは?」
「だとしたら、鉄柱の耐熱性をもっと向上させなければならないな。折角運んでくれても、道中溶かされてしまったら意味がない」
「いや、遺書を書くのが先でしょう……」
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