第3話
ジョンは目を覚ますと、そこはどこかの家の中だった。
レンガ造りの家、アパッチ村ではそれほどなかった筈だが。
「……どこだここは?」
その呟きに答える声があった。
それは女性の声だった。
「あ、目が覚めた? 」
ジョンが声のする方を見ると、そこには短い赤髪の女性が居た。
年の頃は20代前半くらいだろうか、厚手の服だが、その下には豊満な肉体があることがわかる。
「お前が助けてくれたのか?」
ジョンが問うと、女性は警戒していると勘違いしたのか、慌てて言った。
「あ、ちょっと待って! まだ動いちゃダメ!」
彼女の制止を聞かず、無理に身体を起こそうとしたことで、彼は顔をしかめた。
「クソ……」
「だから、いったのに……」
「……ここは?」
「ここはコマンチ村」
隣村に行きついたのか、ジョンは顔を顰める。
「あなたは道で寝ころんでいたけど、何をしていたの?」
その問いに、ジョンは直ぐに答えなかった。
連中は自分を殺したと思っている。此処で生きていることがバレたら、襲撃を受けるかもしれない。
「俺は旅人だ。酔いつぶれて、迷子になった」
「そうなんだ。まあ、危なかったねえ」
「ああ、獣に喰われなくて助かった」
「獣に襲われたんじゃなくて?」
ノエルは大きな瞳で、ジョンをまじまじと見る。
確かに、この体の傷は何かと争わないと出来そうにない。
「……さぁな。酔っていたから、転んだのかも」
「ふふ、ドジっこさんなんだねぇ」
苦しい言い訳を信じたのか、彼女は柔らかく笑った。
「具合が良くなるまで此処に居ていいよ。
じゃ、お大事にねぇ」
◇
それから数日後、アパッチ村の公民館で、エレンと村長が話し合っていた。
「……あいつは?」
「はい、後日確認したら、死体が無くなっていました。
きっと、獣に食べられたに違いありません」
エレンの言葉に、村長はほっと溜息をつく。
「よかった。密猟者の話も連邦は信じてくれたようだ。
まだ、連邦の捜査官たちが森をうろついているが、もう直に終わるそうだ。
一件落着だな。
全く、とんだ目に合った」
「村の変わり者が居なくなったんです。
きっと、村の団結力が高まって、村はよりよくなる筈です」
「うむ。これからのアパッチ村、お前に任せるぞ」
村長はエレンの肩をポンと叩くと、幾らかの札を握らせた。
エレンは満足げに頷くと、ジョンの家があった場所へと向かった
ジョンの家の跡地は更地になっていた。
森が見渡せる一等地だ。
エレンはそこに立ち、あたりを見渡す。
此処は農村にしようか、いや、もっと近代的な工業施設を……彼の脳裏には村の開拓史が浮かび上がっていた。
その時、森の中から一匹の鹿が出て来た。
その鹿はエレンに気づくと一目散に逃げだした。
なんだ、獣は人里には寄り付かないようだ。
ジョンは獣に荒らされるだのどうとか言っていたが、全くの嘘ではないか。
エレンは失笑した。
◇
コマンチ村は、アパッチ村とそう変わりなかった。
森に囲まれた田舎だった。
あれから一週間ほどたったが、まだジョンの傷は完全に癒えていない。
こんな怪しい一文無しの傷だらけの男に、ノエルは傷の手当てや、食事を与える。
しかも、彼女は此処に一人で暮らしているようだ。
今日も今日とて、トーストとスクランブルエッグ、冷たいミルクをジョンは食した。
「今日のはどうだった?」
「昨日のと変わらない」
「それもそっかぁ。だって昨日と同じだもんねぇ。
それで、身体は?
もしよければ、畑仕事やってみない?」
「いや、まだ身体が重くて」
「そっかぁ」
ジョンの態度は少し無礼に見えた。
だが、それは復讐の為だった。
ぬるま湯につかっていては怒りを忘れてしまう。
一応は、救ってくれた恩人を巻き込まない為、わざとつっけんどんな態度を取っているということもある。
ただ、そもそもジョンの性格に多少の難があるということもあるのだが。
ノエルが外に出ると、ジョンは徐に立ち上がった。
じっとしているだけでは身体が訛る、せめて、室内を歩き回っていようと考えた。
流石に、プライバシーがありそうなところは避けた。
ジョンが居候しているリビング、ノエルの部屋。そして、その横の物置のような部屋。
何か、筋トレが出来そうなものはないかと入ったその部屋で目に入ったのは、彼の商売道具だった。
「ハンティングライフル?」
透明なケースの中に入れられたロングバレルのライフルと、その横に幼い少女と優しそうな男性が写る古い写真があった。
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