第13話 名前を呼ぶ声
精霊術を学び始めてから5年が経った。
キリエは見習い魔術師くらいの魔法は使えるようになっていた。
魔力の付与についても教わり、こちらはハバキにも劣らないほどマスターした。
2年でハバキから教われる事はなくなり、その後3年はひたすら1人で精霊術の基礎を磨き続けている。
「じいや、そろそろ私もお父様たちと魔物討伐に行ってもいい頃合いじゃないですの?
魔法もかなり使えるようになりましたし、剣術だって上達しましたわ。」
「そうでございますねぇ。
魔法も新人冒険者としてならぎりぎり通用するくらいにはなりましたし。
剣も私となんとか戦えるレベルにはなられました。
そろそろ旦那様に相談してもいいかもしれませんね。
ただ...」
じいやはキリエを心配そうに見つめた。
「最近魔物の動きが活発なようなのです。
今の状況でいきなり実戦に出られるのは危険でございます。
もう少し落ち着いてきたら話してみましょう。」
「だからこそ私の力も使うべきじゃないんですの!」
「お荷物を抱えて戦う余裕などないのです。
お嬢様。どうかわかってくださいませ。」
キリエは早く戦場に出たがっていた。
魔物の異常発生で以前にも増して両親と会える時間が減っているからだ。
「キリエ!」
その名を呼んだのは戦場で戦っているはずのお母様だった。
「お母様!?
魔物は?もう落ち着いたんですの?」
質問には答えずお母様はキリエを抱きしめた。
「キリエ。
落ち着いて聞きなさい。
この町から逃げるのです。
お父さんはまだ前線で戦っていますわ。
ですが時間の問題です。
魔物の大群が町へ向かっているのです。
お母さんは町の民が逃げる時間を稼ぐために戦います。
キリエは逃げて生き延びるのです。」
「お母様!何を言ってるんですの!
私も一緒に戦いますわ!」
「キリエ!!
お願い。言うことを聞いて...」
「お嬢様のことはお任せください。」
じいやがそう言うと、キリエをギュッと強く抱きしめお母様は戦いに出て行った。
「じいや、離しなさい!
私も行きますわ!」
暴れるキリエをじいやはなんとか押さえつけた。
しばらく暴れると、観念したのかキリエは抵抗をやめた。
「わかりましたわ。」
キリエの言葉を信じ、じいやは手を離した。
ビュウ ドゴッ
「お、お嬢様」
キリエは風の魔法でじいやを突き飛ばし、お母様を追って家を飛び出した。
_______
「あと、1匹...」
あちこちには魔物の死体が転がっている。
その数は100匹をくだらない。
町は魔物に蹂躙され半壊していた。
「お母様!!!」
「!?
キリエ!どうして!?」
「私もフォーク家の娘です。
一緒に戦いますわ!」
お母様は娘の成長への感動と、危険な場所に送りたくなかった悲しみとが混ざり合い何も言い返せなかった。
「あれはウリボアですの?
そこまで強くない魔物と本に書いてありましたわ。」
2人の前には小さな猪のような魔物がいた。
「ええ。ですが油断しちゃいけないですわよ。
自分の命も顧みない暴走状態になっていますわ。
それに数が異常で...いや、もうそれは問題じゃないですわね。」
「お母様は下がっていてくださいまし。
もう魔力が限界なんですわよね?」
キリエはお母様の前に立った。
「ファイアボール!!」
キリエが放った火球はウリボアに命中した。
しかし炎に包まれたウリボアはそのままキリエに向かって突進している。
「サンダーボルト!!」
稲妻が命中し遂にウリボアは倒れた。
「キリエ。
よくやったわね。」
お母様は疲れ果てその場に座り込んだ。
「お母様たちの娘ですもの。」
キリエはお母様に肩を貸し屋敷に向かって歩き出した。
ドゴーン
屋敷の方から大きな音がした。
「!?
森から来た魔物はあれで全部だったはず
...」
お母様はなんとか体に鞭を打って屋敷へ走り出した。
「お母様!」
キリエも後を追って走った。
しかしたどり着いた音の先には屋敷はなかった。
屋敷だったものの上には大きな熊のような魔物が立っていた。
「グオォォォーーー!!」
魔物は真っ白い毛を逆立たせ咆哮した。
キリエたちに気づいたようだ。
「「ファイアボール!!」」
2人は瞬時に魔法を放った。
しかし魔物は右手で火球をかき消した。
そして今度は左手を振り上げた。
「キリエ!!」
キリエはお母様に突き飛ばされた。
「お母様!!」
キリエに覆い被さるように飛ばされてきたお母様は返事をしなかった。
お母様を抱くキリエの手は赤く染まっていた。
悲しむ暇もなく魔物はこちらへ向かってきた。
「ファイアボール!ファイアボール!ファイアボール!」
飛んでくる火球を気にもせず魔物は向かってくる。
目の前までくると魔物は立ち止まり右手を振りかぶった。
キリエは恐怖のあまり目を瞑った。
それでも無意味な魔法は放ち続けた。
「ファイアボール...
「キリエ!!」
どこかで聞いたことのある声がキリエの名を呼んだ。
「...」
キリエが目を開けると大きな魔物の姿はなくなっていた。
そこには魔法で消し飛んだ屋敷の跡。
それと小さく浮かぶ何かがいた。
「...悪...霊?」
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