空から降ってきた恋愛小説

みてぃあ

失恋の味は蜜より甘く

高校の文化祭の準備中、別の班が出し物作ってる間暇だったので幼馴染の女子と2人で一つの机を挟んで向かいあって、暇を持て余すようにトランプで積み立てて崩して、そんな意味のない時間をずっと繰り返していた。

「お前、絶対あいつと付き合ってるだろ」

男友達が笑いながら揶揄う。僕もずっと期待しているのかもしれない。でもその行動は僕にはあまりにも重いもので、ある意味決意でもあった。

 これは、この後1年間は距離感が掴めずにいたただの親友の幼馴染の女の子との出会いと、失恋の物語。


 その出会いは小学校1年生だった。ショートボブの黒髪に天真爛漫な笑顔。運動神経抜群の明るい幼馴染、今思えば、きっとこの幼馴染との出会いは運命の悪戯だったのだと思う。毎日学校でずっと話して、放課後は一緒に遊びに行く。そんな日々がゆるやかに流れていく。僕は小中一貫の学校に通っていたので、中学2年生まではカップルみたいに仲がいいけれどただの親友、そんな焦ったい関係だった。それでもその時間が心地よくて、幸せな時間が流れるのを感じていた。

 そんな関係がずっと続いて中3でお互い高校の進路を考える時期になった時、もしかしたら高校で離れ離れになってもう一生会うことはなくなるかもと思うと急に寂しくなった。その時、初めてその人と離れたくない、という自分の中の特別な感情に気づいた。それから幼馴染に志望校を聞くと偏差値70越えの進学校だった。私はどうしてもその子と離れたくなくて、どうしても隣に居たくて、志望校をその子と同じ高校に定めて1年間死ぬ気で勉強をした。この時の僕には、この特別な感情だけが全てだった。

 そして合格発表の日、結果は、合格だった

 合格発表会場に、その子はいなかった。どこにいるんだろうと思って探していると、急にLINE電話がかかってきた。相手は自分の探していた人。幼馴染の第一声は...「ねえねえ!受かってた!?」自分の合否を伝えるより先に私の合否を心配してくれる幼馴染。嬉しかった。僕は噛み締めるように言った

 「受かってた」。その瞬間、幼馴染は私以上に私が受かったことを喜んでくれていた。「私も受かったよ!これでまた一緒だね!!嬉しいーー!」幼馴染のその言葉で、今まで張り詰めていた受験の緊張の糸が切れて、思わず泣いてしまった。幼馴染の前で泣いたのは、これが初めてだった。

 そして私たちは高校に進学する...

 高校に入って最初のクラス替え、2人で緊張しながら貼られている紙を見た...。違うクラスだった。ショックで頭が回らない。隣を見ると、幼馴染の表情も、どこか浮かばれない様子だった。そうして別々のクラスになった私たちは、それぞれクラスでそれぞれの青春を送っていく。

 そうしていくうちに、次第に幼馴染の子と話す機会は減っていった。最初は一緒に帰っていたけれど、部活が始まるとそれもできなくなり、休憩時間はクラスの友達と話すことが多くなっていった。そんな学校生活が続く中で、僕は同じクラスのAさんと出会うことになる......

 Aさんと最初に話したのは隣の席になった時。Aさんはいつも優しくて、友達思いで、その上賢い。才色兼備という言葉が似合うような人だった。そして、その後文化祭でAさんと同じ班になり、一緒に夜遅くまで作業しているうちに、私はいつのまにかAさんのことを好きになっていた。

 Aさんのことを好きになったのは、文化祭の同じ班のもう2人が付き合っていたことも大きかった。2人が仲良く作業をしている様子を見て、私たちは一緒に作業をしていた。そんな青春の1ページに、私は魅了されていたのだと思う。僕は文化祭が終わったら告白をしようと、心に決めた。

 Aさんに告白する前、幼馴染に相談した。相談しなければいけない、そんな気がしてしまっていた。今考えるとこの行動は幼馴染にとってとても辛いものだったのだと思う。でも、幼馴染は私に一言だけ言った。「応援してるよ。がんばれ!もし失敗したら、私が慰めてあげる。」

 当時の僕は、その言葉にすごく勇気をもらった。誰に背中を押されるよりも頼もしかった。久々に連絡をとり、重たい相談をしたにも関わらず、親身に相談に乗ってくれた幼馴染。昔からずっと、私を支えてくれていたのはその子だけだったのだと、この時の僕はまだ自覚するには心が幼すぎた。

 文化祭最終日の夜、カップルの班員の協力もあり、なんとか2人きりで帰ることができた。しばらく歩きながら文化祭の話をしていた。そして、電車を待っている時、周りに誰もいないことを確認して、勇気を振り絞った。言葉そのまま、ありのままの気持ちを。「好きです。付き合ってください。」

 答えは......「ごめんなさい。保留させてください...。」私は頭が真っ白になった。文化祭を通して仲良くなり、2人期の帰り道に告白する。小説で何度も見た理想の展開。班員の子達の協力まであった。絶対に成功すると思っていた。でも、現実は、あまりにも残酷で、無常だった。

 その後の帰り道のことはほとんど覚えていない。ただ、お互いなんも喋らないまま電車に乗り、そのまま手だけ振って別れた。家に帰ってご飯を食べても、ゲームをしても、気持ちが休まらない。ずっと、空想の中にいるような、モヤモヤした気持ちが続いていた。そして夜22時、一件のLINE通知が来た。

 相手はAさんだった。内容は...

「あの時、すぐに返事を言えなくてごめんなさい。私には、気になっている人がいます。だから、気持ちには応えられません...。でも、想いを伝えてくれたことは嬉しかったよ。私よりももっといい人が見つかることを願っています。最後に、ありがとう。」

 悲しかった。悔しかった。涙がこぼれて、あふれて、とめどなく流れてくる。その時の私は、その告白だけが全てだった。そのために文化祭を頑張った。そのために学校に行っていた。その全てが、崩れ落ちた。もう僕には何も残っていなかった。ただただ、絶望に打ちひしがれていた。

 そんな中、一件のLINE通知がくる。相手は...幼馴染だった。告白する当日、私はそのことを幼馴染に話していた。だからきっと、心配してくれていたのだろう。「どうだった...?」その言葉が、僕には重たかった。言えなかった。言いたくなかった。自分が情けなくて、消えてしまいたいと思っていた。

 「ごめん。だめだった。」

僕はただ一言だけ返した。すると幼馴染からLINEが返ってくる。

「そっか...。今は辛いと思うけど、すごく頑張ったと思う。えらいよ。」

「明日、放課後に教室で会おう。私には慰めてあげることしかできないけど、それでもよければ...。」

自暴自棄になっていた私は、その言葉に救われた。

 翌日の放課後、日が沈んだ夜に、幼馴染と誰もいない教室で待ち合わせた。重い足取りで教室のドアを開けると、幼馴染の姿が、そこにはあった。LINEでは話していたけれど、実際には久しぶりにあった幼馴染に、合わせる顔がなかった。すると、そんな私を見かねて、幼馴染は言った。

 「お疲れ様。久しぶりだね。どうしたのそんな暗い顔して。らしくもないなーもう。よく頑張ったね。えらいよ。私には、とても真似できない。好きな人に告白することってすごいことだよ。ほんとうに、えらいよ...。」そう言って、幼馴染は僕の頭を撫でた。

 自然と泣いてしまった。今まで張り詰めていたものが一気に溢れ出した。幼馴染の前で泣くのはこれで2回目。ただ幼馴染の手に縋り付いて、みっともなく、泣いていた。そんな僕に幼馴染は1時間以上もずっと寄り添って、慰めてくれた。

 そしてしばらく泣いてだいぶ落ち着いた後、しばらく他愛もない会話をした。クラス替えで別々になってからあまり話さなくなった分、たくさん話した。小さかった自分たちの会話を思い出すように、長い空白の時間をゆっくりと埋めていった。

 それから数日がたって僕は、ほんとうに自分にとって大切な人が誰だったのか気づきかけていた。小学校の頃からいつもずっと私に寄り添って、親身になってくれた幼馴染。中学3年生の時に抱いたあの気持ち。今思えばこの時がその芽が芽吹こうとしてたときだったのだろう。

 そして、その出来事からしばらく経って、僕たちは高校2年生になった。高校で2回目のクラス替え、同じクラスには...幼馴染の名前があった。嬉しかった。ふと隣を見ると嬉しそうな幼馴染の顔が、そこにはあった。一年前に交わらなかった道が、今交差した。

 そして、5月から始まる文化祭の準備。同じクラスで、同じ班で、夜遅くまで作業する、その相手は...幼馴染だった。1年前の悔しさを乗り越えてもう一度文化祭に挑む私。そんな他愛もない文化祭の準備のワンシーン。

––––––僕たちは、トランプを積み立てて、そして崩した。

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