第61話 殲滅戦

 取り回しが大変になっている分、ショートボウと比べると若干放つ間隔は長くなっているが、それでも2秒かからず矢を射かけていく。

 10秒ほどかけて6本の矢を放った辺りで、池に居たコボルト全体が仲間の異常に気が付き武器を構えて警戒し始める。

 その後さらに2本射った頃になると、手前に居たコボルトたちが文乃たちの存在に気付き、一斉にこちらへ向かってきた。


「完全に気付かれた! 切り込むから援護よろしく!!」

「ご安全に!」

 矢印からも気付かれたことを確認した太一が、剣を抜いて突っ込んでいく。

 

 文乃もロングボウを背中に戻してショートボウに持ち替えると、太一の先にいる7匹の集団に援護射撃を行う。太一が接敵する頃には5匹に減っていた。

 木が生えているため固まって襲い掛かる事が難しく、コボルトたちは数の優位を生かせず太一に各個撃破されていく。

 常に動くことでコボルトに囲まれることを避けながら、5分程で5匹を片付けた太一は、移動速度を緩めると後方の文乃の状況を確認する。

 文乃も前方で太一が速度を緩めたのに気付き、合流すべく駆け足で移動をし始める。

 

 しかし、20mほど離れていた距離を半分ほどに縮めた時だった。

 駆ける文乃の右の茂みから、1匹のコボルトが短剣を振りかざし文乃に飛びかかってきた。

 

「きゃっ!!」

 いきなり出て来たコボルトに驚き体勢を崩す文乃。

 コボルトはそこに『ぎゃぎゃっ』と奇声を上げながら短剣を振り下ろす。

「きゃーーっ!!」

「文乃さんっ!」

 コボルトが飛び出てきた瞬間、太一も飛び出すが間に合わない。

 突然の出来事に文乃は避けることも出来ず、思わず目を瞑り腕を交差させ身を屈める。

 振り下ろされた短剣が、その腕に突き立てられた瞬間だった。

 

 突き立てられた場所を中心に、六角形をした半透明の盾のようなものが展開され、キィィンという甲高い音と共に短剣を弾き返す。

 その直後、半透明の盾から、振り下ろされた短剣に酷似した光の短剣がコボルトに向かって飛び出し、肩口を切り裂いた。

『ぎゃおおっ!!』

 思わぬ反撃の痛みに声を上げるコボルト。そこに必死の形相の太一が切り掛かり、一刀の下に首を跳ね飛ばす。

「文乃さんっ! 大丈夫?! 怪我は!??」

 コボルトを切り倒した太一は、急いで文乃の許へ駆け寄った。

 

「え、えぇ。躓いて少し擦ったりしたけど、それ以外は奇跡的に大丈夫よ……」

「そうか……。はぁぁぁぁぁぁ、良かったぁぁぁ…………」

 文乃の無事を確認した太一は、盛大に溜め息を吐くとその場に座り込む。

「それとゴメン。隠れてたヤツを完全に見逃していた。ホント申し訳ない」

 そう言って文乃に対して深く頭を下げた。


「別に伊藤さんのせいじゃないわ。周囲の確認もせずに動いた私が悪いんだから」

「いや、だけど……」

「そんな顔しないの。それに、これであらためて身に染みたわ。ちょっと敵を倒す力が優れていたところで、私たちはまだまだ全然素人なんだって。酷い目に遭う前に気付けて、ホント良かったわ」

「そりゃそうだけどさぁ……」


「あと、あの光の盾みたいなやつ? あれがカウンターね。念のため、戦闘が始まってからずっと付与を切らさない様にかけてたんだけど、上手く発動してくれてよかったわ」

「やっぱりカウンターが発動したのか。効果が確認できたのは良かったけど、出来れば今後発動する所は見たくないな。心臓に悪い」

「ふふっ、そうね。カウンターが発動するってことは、攻撃を受けたってことだしね。まぁ保険としてこれ以上のものは無いから、今後はちょっと真面目に練習するわ。さ、それより残りのコボルトをさっさと狩っちゃいましょ、こうしてる間にも向かって来てるでしょ?」


「了解。じゃあ引き続き援護射撃をお願い。あ、カウンターは付与しといてよ?」

「分かってるわよ。こんなことがあったのに忘れるほど図太くないわ」

 苦笑しながらカウンターの付与を掛けると、取り落としたショートボウを拾い、再び戦闘態勢に入る。

 それを見た太一も改めて剣の握りを確認すると、池の奥方向へ視線を向けた。

 

「見えた範囲だと残り6匹のはずだ。油断せず行こう」

 それから太一と文乃は、これまでと同じように一定の間隔を保ちつつ移動し、文乃が遠距離から適度に援護、太一が接近戦で切り捨てていく。

 先程のようなトラブルも無く、30分ほどかけて溜池を一周し、6匹のコボルトを倒してからゼップの所へ戻って来た。

 

「よし。陽も傾き始めたし、一通り駆除できたから、討伐部位を回収して村長のとこに戻ろう。ゼップさん!悪いけどまた剥ぎ取りを手伝ってもらっていいかい?」

「おう! 任せとけ!!」

 再び合流したゼップにも手伝ってもらい牙を回収すると、一行は報告のため村長の館へと戻っていった。

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