5章:放浪者(フローターズ)始動

第52話 冒険者1日目を振り返って

 冒険者ギルドを出て黒猫のスプーン亭に戻った太一と文乃は、夕飯を摂った後ドミニクに状況の大枠を説明すると疲れもあって早々眠りについた。

 そして翌朝、2の鐘で目を覚ました太一は、軽く身だしなみを整えて食堂へと下りていく。


「あ! おにーちゃんおはよう!」

「リーゼちゃん、おはよう。今日も元気だな」

「朝ご飯持ってくるから、座って待っててー」

「ありがとう。偉いなぁ、朝からお手伝いして」

「えへへ~」

 朝から元気いっぱいに店の手伝いをしているリーゼの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めてから厨房へと入っていく。

 持ってきてもらった朝食を食べながら、太一は昨日の出来事を思い返していく。

 

(まず自分たちの立ち位置だな。戦闘能力だけなら、俺と文乃さんはD級からC級の実力と見て間違いなさそうだ。多分単純な強さだけなら、すでにこの街の冒険者の中では上位なはず。わざわざ強い魔物が出るような所へ行かなければ、死ぬようなことは無さそうなのが分かったのは大きい。

ただ、敵を見つけたり罠を見つけたり野営したりっていう探索に関するスキルが低いから、冒険者としてはまだ3流だな。そう考えると、E級の魔物を半日くらい狩るのが安定するかなぁ……。ただE級は人数も多そうだから、もう一段上の狩場も調べておいた方が良さそうだな。)

 

 最初に冒険者としての考察をすると、メモに

 ・E級とD級の狩場と相場調査

 と書きつける。

 

(次は稼ぎだな。昨日はかなり極端だったけど、常設依頼で命の危機の無い限界までやるとどれくらい稼げるのか? ってのが分かったのは大きい。索敵をアンナに任せっぱなし&ローテーションだったから、文乃さんと二人だと精々1/4くらいだろう。

で、昨日は半日だったけど、あれは馬車移動だったから徒歩だと1日仕事になるだろうな。そうなると、追加投資無く2人で常設の討伐依頼で稼げる限界は1,500ってとこになるのか。日当1人7~8万円って考えたらとんでもない数字だけど、粗利じゃなくて売上だからな。装備品の償却とか考えると2割引くらいか?

日常的にあのペースでやりたくないから半分くらいとして、売り上げベースで1日700~800、粗利ベースだと600~700ってとこかね。1人頭の日当3~4万円だから、1勤1休でひと月30日とすると月給50万円前後か。何か一気に現実的な数値になったな……。常設じゃない依頼とか討伐以外の依頼も試すに当たって、この金額をひとまず基準に置けばまぁ問題ないな)

 

 稼ぎについての考察を終えると、

 ・売上基準は、パーティーで700~800/日、10,000~12,000/月(1勤1休)。限界はその2倍程度

 とメモを付け加える。

 

(それをベースに収支も簡単に試算しとくか。

えーっと、宿が1泊90だけど、これは割り引いて貰ってるから100で考えて月3,000、二人で6,000。昼は付いて無いのと、飲み物やら間食やらで20は必要そうだからそれが600、二人で1,200。装備品の減価償却は正直分からんから、超ざっくりでいこう。

装備品の購入総額が2,000くらいだったから、メンテ費用は1/10として1回200。狩り5回に1度メンテに出すとして月3回だから600くらいか?

あと、文乃さんの弓とかその他消耗品で月500くらい見ると……合計月8,300、ちょっと余裕見て月8,500ってとこだな。月1,500~3,500くらい貯蓄出来る訳か……実際は宿代とかもう少し抑えられるし、まぁ悪くないのかなぁ??)

 

 ペン尻で頭を掻きながら、

 ・必要経費はパーティーで8,500/月(貯蓄1,500~3,500/月)

 とメモに書き加えた。

 

(あー、あとは加護とスキルについてだな。

文乃さんの弓の加護、あれは想像通りヤバいな……。遠距離攻撃を最大限に有効活用するためにも、索敵系のスキルを身に着けたいところだなぁ。 俺のスキルも、結構使えたな。あのウォリアーとの戦闘ではかなり助けられた……。危険度が高い場合、あんな感じで矢印が太くなるんだな。

最初に目視できてれば、その後姿が見えなくても危険かどうか分かるから、事故が減りそうだ。今のとこ同時捕捉数は5程度だから、コイツを増やさないとなぁ。後、もしこれが目視しない対象のも察知できるようになるんだったら、索敵としてめちゃ優秀になるし、熟練度上げは必須だね。

天気予報の方は使う余裕なかったから、今日からぼちぼち使って行こう。使い方が今いち分からんが……。文乃さんのカウンターは悩むとこだな。強力だけど、試すのが難しい……。一旦保留かなぁ)

 

 ・弓と占いはどちらも強力。熟練度上げ必須

 ・天気予報はまずやり方調べる。金の匂いはするので早めに効果検証

 ・カウンターは危険が伴うので検証保留

 日本語で書いてはいるが、万一読まれたら困るので加護という言葉は使わずにメモに加えていく。

 

(さて、次は調査についてだな。何より市場調査は早めにしないと……)

「あら伊藤さん、おはよう。早いわね」

 調査についての考察を始めたところで、文乃が声をかけて来た。

 

「ああ文乃さん、おはよう。2の鐘で目が覚めたからね、朝飯食べながらちょっと昨日のことを整理してた」

「私も2の鐘で起きて、身だしなみ整えて下りて来たとこ。ファビオは?」

「まだ見てないな。向こうの宿に行ってたし、戻って来てるかも分からん」

「アンナがどんな感じだったか次第、ってとこかしら」

「あっ、おねーちゃんおはよう!!」

 太一と文乃が挨拶ついでに話していると、文乃が起きてきたことに気付いたリーゼが元気な挨拶と共にやってくる。


「リーゼちゃん、おはよう。朝からお手伝いしてるの?」

「うん! みんなの朝ご飯を運んでるの! おねーちゃんのも持ってくるね!」

「偉いわね。じゃあ、よろしくね」

 文乃にも頭を撫でられて、リーゼはご満悦で厨房へと戻っていく。

 

「カワイイわねぇ……。昨日は殺伐としてたから、この癒しは貴重だわ」

 その姿を頬杖を突きながら眩しそうに眺めていた文乃が、苦笑しながらそう零す。

「確かに……。昨日は地獄絵図だったもんなぁ。しかし、キラーラビットはまだしも人型のゴブリンはもっと忌避感あると思ったけど、意外に大丈夫だったな……。これも環境適応のおかげかね?」

「言われてみればそうよね……。あの絵面は、地球基準じゃ相当ヤバい状況だもの。ありがたいけど、変な慣れ方しちゃわないか不安にもなるわね」


「善悪の判断とか倫理感とか、どこまで地球基準を貫くかは今後の課題だねぇ。郷に入っては郷に従え、が基本だとは思うけど、越えちゃいけない一線はあるだろうし」

「そうね。冒険者ギルドの話を聞く感じだと、法と言うかルールはあるし、それを守るって概念とか、破ったら罰則とかそういう概念もあるのよね。あとはどんなルールがあるかをきちんと把握しないとね。地球基準で考えてたら痛い目を見ることもありそうだから気をつけないと……」

「それも追加だなぁ」

「追加?」

「うん、備忘として、昨日1日で分かったこととか課題を簡単にメモにまとめてたんだよ」

 

 太一がメモに

 ・法律やルールは、早めの確認が必要

 と追記しながら文乃の問いに答える。

「確かに毎回わざわざPC開くのも手間だものね。あ、PCで思い出したわ。伊藤さんのあのソーラーパネル、今日こそ使えるか確認しない? そろそろスマホの電源がギリギリなのよ」

「あーー、確かに。それも書いておく。って言うか朝食終わったら繋げとくよ」

 

 メモに

 ・ソーラーパネルの確認(この後すぐ)

 と書き加えていると、リーゼが文乃の朝食を持ってやって来た。


「おねーちゃんお待たせ!」

「ありがとう。おいしそうな朝ご飯ね。いただきます」

「えへへー。えーっと、ごゆっくり!!」

 朝食を受け取る文乃に、リーゼがそう言ってまた厨房へと戻っていく。


「ふふふ、ホントにカワイイわね」

「あそこでリーゼちゃんが声をかけてくれたのは、ホント運が良かったな……。いい宿屋に泊まれた上、日々の癒しまで与えてくれるんだから。今度何か土産でも買ってくるか」

「調査がてら良さそうなものがあったら買いましょ。それで、昨日を踏まえてどこから始めるつもり?」

 朝食を食べ始めながらたずねてくる文乃に、先ほど書いていたメモを見せながら太一は順に説明していく。

 

「次は調査について考えようとしてたところ。まぁいわゆる市場調査だわな」

「市場についてほとんど何も知らないから、どこから手を付けるかよね。仮想ターゲットを冒険者にしてるから、冒険者の行動パターン把握は必須でしょ? それと、冒険者相手の商売がどんな感じなのかを調べること、まずはこの2点かしら?」

「うん。そうなると思う。冒険者以外から見た冒険者とか、世の中での位置づけ・役割だとかも調べたいけど、そっちはまた後回しだね。商売のとっかかりを早めに見つけて、さっさとトライアル開始したいし」


「そうなると、しばらくは他の冒険者と同じように依頼を受けながら、周りの冒険者を観察する所からかしら。酒場でも話が拾えそうだし、ギルドに入り浸る感じになりそうね」

「現地現物は基本だからねぇ。じゃあ、朝はギルドへ行って依頼を見繕って、依頼をこなす。夕方前には戻って来て報告がてらギルドの酒場で人間観察、かな。依頼を受けない日は、冒険街を回ってお店の調査をするって事で良い? 当面1勤1休で考えてるから、一日おきだね」

「いいわね。もうすぐ食べ終わるから、早速ギルドに行ってみましょうか。この時間だと、もう良い依頼は残っていないかもしれないけど」

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