第24話 神の加護とは

「冒険者ギルド? そんなとこで調べて、もし持ってることが判明した日には周り中に知られてとんでもない事になるんじゃないか?」

「ふふふ。普通はそう思うわよね? まぁちょっと冒険者ギルドのことは置いておいて、他の2つから説明するわね。まず魔法具だけど、事実上ほとんどの人間には関係無いわね」

「関係無い?」

「ええ。その魔法具は非常に数が少なくて、持ってるのはいくつかの国の王族や皇帝だけだもの」

「そういう事か……。身内に加護持ちがいるのは大きなアドバンテージだが、内容が漏れるのはリスクも伴う。だから限られた身内に限定して使ってるのか」

「正解よ。次が教会での神託ね。これもあまりアタシたちには縁は無いわね。まぁ魔法具よりは可能性はあるけど」


「教会専用――。言い換えると信者にならないと分からないし、信者になってるから囲い込まれて漏れることは無い、か……」

「概ね正解ね。唯一例外として“教会の真摯な理解者”は、特別に神託が下るそうよ」

「真摯な理解者ねぇ……。途端に生臭くなってきたな」

「そうね。要は多額の喜捨をした者だけが受けられるの。莫大な金額だから、事実上貴族専用の抜け道みたいなものね」

「これも既得権益か。まぁ貴族なんて血統主義だから、自分の血筋に加護持ちがいないか血眼になって探すだろうからなぁ。教会も上手い商売考えたもんだ。加護が無くても金は返さないんだろ?」

「ええ。表向きは喜捨してるだけだもの。大体の貴族は、5歳くらいになると調べるそうよ」

「貴族も大変だねぇ。子沢山だろうから」

 

「そして最後が冒険者ギルド登録ね。事実上ほとんどの人はこれで加護があることを知ると思う。私もそうだったし。調べるのは簡単。冒険者ギルドに登録するときにはギルドカードが身分証として発行されるんだけど、この時に、本人以外が使えないようにするためと実力をある程度計るために、魔力パターンを調べるの」

「魔力パターン?」

「ええ。強弱はもちろんだけど、魔力は形や色が人によってすべて違うらしくて、それを登録することで本人の魔力にしか反応しなくなるの。あと、力の強さや素早さと言った身体能力も魔力量には影響しないんだけど、魔力パターンには影響があるらしくて、おおよその強さが、魔力パターンを調べると分かるらしいわ。加護も同じく魔力パターンに影響を与えるから、加護を持ってるとそれが結果として出てくるって訳」

「なるほど。でもそれだと、すぐバレるんじゃないか?」

「そこがギルドカードの上手く出来てる所ね。これが私のギルドカードなんだけど、ちょっと見てみて」

 そう言うとベティーナは懐から鈍い銀色をしたカードを取り出し、太一に手渡した。

 

「……いいのか? 個人情報の塊みたいなものだけど」

「優しいのね。でも、構わないわ。それに大した内容は見えないはずよ」

「どれ……」

 タイチがカードを見ると、次のような内容が書かれていた。

 名前:ベティーナ=アルムガルト

 年齢:34

 性別:男

 種族:人族

 ランク:D

 賞罰:なし

「確かに年齢くらいか? センシティブって言えるのは。ってかベティ、苗字があるってことはひょっとして貴族か?」

「ええ。元、だけどね。尤も、苗字は別に貴族じゃなくても名乗れたりするけどね。ま、それは今は良いわね。タイチの言う通り、他人にはこの程度の情報しか見えないの。ギルド職員は職務上もう少し見られるようだけど、そこまで大差無いわね。

でも、一見何もないこの裏側は、今も本人にだけ色々な項目が見えてるの。例えば、さっき言った力の強さとか器用さなんかも、数値で私には見えてる。で、そこにハッキリとこう書かれているの。“神の加護:アラクネ”って」


「なるほどなぁ……。自分にしか見えないようになってるからバレにくいのか」

「ええ。しかもね、ギルドカードに加護が書かれていることは、加護を持っている人にしか教えられないのよ。ギルドの職員でさえ、知ってるのはギルドマスターを始めとした極一部の上層部だけ」

「えっ???」

「ふふふ、ようやくタイチの驚く顔が見られたわね。ギルドには加護持ちが登録すると、それがすぐに分かるようになってる部屋があってね。必ず一人は、その部屋に秘密を知ってる極少数の職員が交代で詰めてるの。で、加護持ちが登録されると、別室に案内されてこの事を教えられるのよ。色々な注意事項と一緒にね」


「そういう仕組みになってるのか。でも、だったらなおさら喋ったらマズイんじゃないのか?」

「かん口令が敷かれる、って訳では無いのよ? パーティーメンバーとか家族とか、信頼できる人にだけに伝えるように言われるだけ。ただ、誰に言ったかはギルドに登録する義務があるの。だからゴメンね。タイチのことはギルドに報告しなきゃいけないの。後、加護を持っている本人が話をするのは良いんだけど、本人以外がそれを口外すると大罪に問われるの……」

 何やら宝くじの高額当選者のような仕組みだな、と思いながら太一が小さく頷く。

「そりゃまぁこれだけの秘密を知った訳だからなぁ。管理も監視もされるか。そっか、それもあってエミリアは止めてたのか。さっきも言った通り、誰にも言う気は無いから別に罪に問われることもないし大丈夫かな」

 

 衝撃の事実を告げられたにもかかわらず、それを大して気に留める様子もない太一に、ベティーナが逆に不安になって尋ねる。

「怒らないの? 完全に後出しなのに……」

「うーーん、好奇心のほうが圧倒的に勝ってるなぁ。それに、正確な情報ってのは何よりも価値がある。それが貴重なものならなおさらだ。だから聞けて得したとは思ってるけど、怒るつもりはさらさら無いなぁ」

「ホントに変わってるわね、タイチって……。でも、話せてよかったわ。アタシを救ってくれたあなたには、隠し事はしたくないもの」

「だからそんな大したことしてないって。あ、で肝心の加護の力の使い方って、結局どうやったら分かるんだ??」


「ああ、ゴメン。話の途中だったわね。ギルドカードの裏に出てくる加護の名前に触れれば、自然と使い方とかその効果が頭の中に浮かぶの。こればっかりはそうとしか言いようがないのよね……」

「そんな便利機能が付いてるのか……。ギルドカードすげぇな」

「確かに不思議よね。噂では、ギルドの仕組み自体が初代ギルドマスターの加護の力だって言われてるわね」

「なるほどなぁ。なんてったって神様の力だからな。何でもアリでもおかしく無いから、そう言うもんだと割り切った方が良さそうだ」

「ふふっ、そうね。深く考えても仕方がないわね。あっ!いけない、随分話し込んじゃったわね。妹さんの服を選ばないと」

「おぉ、危ない。当初の予定をすっかり忘れるとこだった」

「何やってんだい、二人して……」

 

「じゃあ、妹ちゃんの年齢と身長、後は体格なんかを教えてくれるかしら?」

「年は俺と一つ違いだから21だな。身長は俺の肩くらいまでで、やや細身、なのかなぁ。でも適度に筋肉はついてるし、プロポーションも女性らしいとは思う。髪は俺と同じ黒髪のストレートで背中の真ん中くらいまでのロング。顔は可愛いと言うよりは綺麗系かなぁ。化粧も薄めだな」


「なるほど、すごく良く分かったわ」

「タイチ、あんた凄いわね。普通男って、そこまで女性のスタイルについて分かりやすく説明できやしないよ??」

「いや、別に大した事は何も言ってなくない?」

「それを大したこと無いって言えるのが凄いのさね。ねぇベティーナ」

「そうよぉ。大体男って女の裸にしか興味なくて、服とかおしゃれは目に入らないもの」

「まぁ、そりゃ裸に興味があるのは否定できんわなぁ……」

「じゃあ、何着か見繕うわね。タイチの分も」

「いや、1着ずつで十分だよベティ。予算の都合もあるし」

「何言ってるのよ。恩人のタイチからお金なんて取る訳ないでしょ? それに、女の子にいつまでもみすぼらしい服着せてちゃ駄目よ。黙って持っていきなさい」

 そう言い放って足早に店の奥へとベティーナが消えていく。


「なんだかなぁ……まぁ、いいか。おーい、ベティ! あまり目立つのだけはやめてくれ。悪目立ちしたりトラブルに巻き込まれても良いこと無いから、地味で無難なやつで頼むわ」

「分かったわ~」

 奥へ向かって大きな声でお願いする太一に、遠くからベティーナの弾むような返事が返ってきた。

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