第20話 外の世界
ドアの隙間から軽く外を確認し人がいないことを確認して外へ出ると、まずは手早く鍵をかける。
そして素早く周りの状況を確認、頭の中に周辺の地図を描いていく。
ファサードから道へは3段ほどの階段になっており、それを下りながら左右を確認する。
中から確認したように、通りの真ん中あたりにこの建物は建てられており、どちら側も20mほど行くと別の道と交わっているようだった。
(太陽、かどうかは分からないけど陽は正面からか。とりあえずこっちを南と仮定だな)
やはり住宅街のようで、この通りにはお店らしきものは見当たらない。
建物はほとんどが二階か三階建ての石造りもしくはレンガ造りで、建物と建物の間に隙間は無い。
(あまり高い建物は無いな。建築技術的なものなのか需要が無いのか……。よし、ひとまずこっちを見てみるか)
玄関を出て西(仮)の方へとゆっくりと歩いていく。道幅は4m程か、石畳のようなものが敷かれていて存外しっかりしている。
所々、二階の窓が開いている家もあり、人は確実に住んでいるようだ。
「ん?」
少し歩いたところで、怪訝な顔をして太一は足を止め後ろを振り返る。
目を細めて少し戻るがまた足を止め、「まぁ、いいか」と小さく呟き、また交差点方面へと足を向けた。
ほどなくして交差点まで来ると、歩いてきた道より一回り広い南北方向の道と交わっていた。
南側の建物は今いるところとあまり変わらない感じがするが、北側は少々趣が異なるように見える。
ひとまず南側へ足を向けると、程なくしてまた交差点に差し掛かったため、少し考えてから太一はその交差点を右へ曲がる。
(うん、こっちもやっぱり拠点のある通りと似た雰囲気だな)
少し歩き通りの雰囲気を確認すると、踵を返しやや足早に南北の道へと引き返した時だった。
「っ!」
ガラガラガラという音と共に、南側から何かが近づいてくる事に気が付いた。
足を止めた太一が南側を見ていると、音はどんどんと近付いてくる。
(馬車、だな。馬も見た感じ地球の馬と変わらんな。1頭だけで判断は出来んが、サラブレッドより一回り小ぶりか?)
馬車は荷馬車のようで、御者台には一人の壮年の男が座っていた。
その男が視界に入った瞬間、太一が再び怪訝な表情を浮かべ何度か瞬きを繰り返す。
(ん?またか??)
そのまま足を止め太一が道の端によると、それに気づいたのか御者台の男が声を上げた。
「おぅ、わりぃな兄ちゃん、道を開けてもらって!すぐ通るからちょっと待ってくれ!」
日に焼けた顔でニカっと笑いかけながら、軽く手を上げて目の前を通り過ぎざま「ありがとよ!」と再び声をかけて、そのまま北側へと向かっていった。
太一も笑顔で軽く手を上げて応え、それを見送った。
見送る間も何度か瞬きを繰り返していたが、男の姿が見えなくなると軽く頭を振って北側へとゆっくり足を向ける。
(ふむ。ひとまず怪しまれたりする事は無さそうだな。見た目もやっぱり普通の人間っぽいし、言葉も違和感が無い)
コミュニケーションと呼ぶにはあまりに短い時間ではあったが、ごく普通にやり取りが出来た事に太一は安堵する。
(こっち方向の方がちょっと高い建物が多そうだ。さっきのも荷馬車だったし、店が集まっているかもしれん)
北側に店があると見込み、そのまま歩みを進めていく。そしてふと視線を上方奥へ向けると、ある事に気が付いた。
(ん? あの遠くに見えるのは鐘楼か? 結構高くてデカいな……。さっき鳴ってたのはアレか? それに注意してみてみれば、あそこまで高くは無いけど結構な高さのデカい建物がいくつかあるな。色も造りもこの辺の建物とは違うし……。城か何かか?)
これまで気を止めていなかった遠くも確認しながらしばらく歩いていくと、人通りが出てきていることに気が付く。
周りの建物も一段高さが高くなり、総石造りだったものに木造の建物が混ざってきていた。
さらに歩みを進めていくと、ひと際大きな道に突き当たり急に視界が開け、喧噪が耳に飛び込んできた。
大型の馬車が擦れ違っているのが見える大通りは、正方形に切り出された石畳が綺麗に並べられており、これまでの道よりも非常に滑らかだ。
また、おそらく歩道と車道が分けられているのだろう、道の両側は一段高くなっている。
そしてその歩道に面する形で様々な店が軒を連ね、店主と思われる人間が盛んに声をかけ喧噪を生み出していた。
あまりの雰囲気の変わりっぷりに一瞬呆然とする太一だったが、はっと我に返るといよいよ本格的な調査に乗り出すのであった。
(メインストリート的な道なのか? 結構な距離真っすぐだな……)
大通りに出た太一は、左右どちらにも伸びている道の先に何か見えないか確認してみる。
すると右側へ100mほど進んだ先が広場のようになっている事に気が付いた。
(まずは広場へ向かうか。そっちの方が人も店も多そうだ)
歩道側も3人は並んで歩ける程度の広さがあるため、人通りが多くてもそこそこ余裕を持って歩ける。
人とぶつからない様に、売っているものや歩いている人をそれとなく見ては、頭にインプットしていく。
まず目についたのは、食品を扱う露店だ。おそらく最も数が多いだろう。
野菜や果物をそのまま売る八百屋のような店もあれば、良い匂いをさせた串焼きやスープなど加工した食事を売る屋台のような店、店内でイートインできるカフェのような店など、色とりどりだ。
(やっぱ食が基本なのは、世界が違っても変わらんか。参入障壁が低そうなのも一緒だな。ぱっと見、生魚は無さそうだな。文化的なものなのか、冷蔵技術が発展していないのか……。海から遠いのかもしれん。
後はスイーツ系もあまり無さそうだなぁ。まぁ地球の歴史でも甜菜糖が出来るまでは高級品だったからなぁ。どれ、ちょっと味見も兼ねて物価を確認してみるかね)
少し速度を落としてお店を覗きながら歩くと、途端に呼び子から声が飛んでくるのだった。
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