第14話 魔石の効果検証
転送できることが分かった二人は、次に魔石の効果の確認をすることにした。
現時点の魔石を撮影した後ペンダントを首にかけて転送と唱えると、魔石が淡い光を放ち先ほどと同じように太一の姿が消えた。
数分後、今度はいたって元気なまま笑顔で太一が戻って来た。
「うん、まったくしんどく無い。こりゃ便利だ」
「やっぱり魔石だったのね。色の変化はどう?」
先ほど撮影した画像と1往復した後の状態を比べてみる。
「うーーん、少し薄くなってる? ちょっと輝度が落ちてるかな」
「そうね。魔力が切れた状態の色が分からないから何とも言えないけど、まだ使えそうではあるわね」
「ひとまず次で一旦最後の予定だから、問題無いでしょ」
魔石の効果と残量にひとまずの目途が立ったので、あらためて今後の計画について話し合い始める。
基本路線は当初の予定通り、持ち出せる物を全て持ち出して移動する事として、留意点の再確認をし、転送先での行動についての詰めを行っていく。
「荷物は後で持ってくるとして、どこまで持ち込むつもり? 特に本関係」
「そうだなぁ。全部持ってくのはさすがにちょっと手間だし……。地図は確定として、あとは読めない本も持って行ったほうがいいか。この先読める人がいるかもしれないし」
「そうね。魔法について色々書いてありそうだから、読めたら役に立つだろうし」
「一般的な本とは思えないから、不要になったとしても売れる可能性もある」
「そういう目線もあるのか……。だったら沢山ある物語系は、装丁の良いものだけ見繕う?」
「その辺が妥当だろうね。あー、絵本はいくつか持って行っても良いかもしれない。
言葉が通じなかった時に、絵で何か説明できるかもしれないし、子供に話を聞くときにも使える」
「えっ、子供? どういう事……?」
子供と聞いて、文乃が首を傾げる。
「あーいや、変な意味じゃなくて。ほら、俺たちはこっちの事をほとんど知らないでしょ? 大人と話をすると色々ぼろが出た時に怪しまれて、本当のことを教えてもらえないかもしれない。その点子供だったら、知ってることは少なくても嘘を言われることは無いだろうから、困ったら子供に聞くことも視野に入れたいんだよ」
「なるほどね……。じゃあ絵本も綺麗なものを見繕うってことで。後は召喚の研究系はどうする?」
「内容が濃そうなの数冊程度、かなぁ」
「どうして?」
「数が多いからってのはもちろんあるけど、今のこの世界で“召喚”ってのがどういう扱いなのか分からないでしょ? こんな人気のない所で一人で研究してるんだもの、下手したら手を出しちゃいけない禁忌になってるかもしれない。状況が分からない以上、万一見つかって変な嫌疑をかけられるようなものは、持ってない方が良いと思わない?」
「……それもそうね。数冊程度なら、他の魔法の本と混ぜて言い訳も出来るでしょうし。分かったわ。あと、本以外はどうする?そんな量は無いけど、悩むのはあの水瓶くらいかしら?」
「あれは水が湧いて出る掘り出し物だから、ライフラインのためにも是非持って行きたいね。持てたらだけど……」
「そうね。水が入ってなければ持てそうだけど、満タンに入ってるし、減らしても増えるものね……」
「まぁ頑張ってみてダメだったら諦めよう。後は布団類も持って行くか。ホテルみたいなのにすぐ泊まれるとは思えないし」
「異議なしよ。まとめると……」
話し合った結果、書籍については地図と読めない文字の本全て、装丁がきれいな物語と絵本、召喚の研究書を数冊だけ持って行くことになった。
もっともこれだけで数十冊にはなるため、結構な分量になるのだが。
「後は転送先でどう行動するかね」
「ある程度こっちでプランを立てといたほうがいいわな。まず分かってる事としては、さっき飛んだ時も再確認したけど、転送先は通路の一番奥みたいなところで、反対側に上りの階段があるだけだった。多分何らかの建物の地下なんじゃないかな。あと、かなり薄暗い。真っ暗じゃないけど」
「いきなり危険がある訳では無さそうなのね?」
「確証はないけどね」
「階段以外に何もない訳だから、当然階段を上って調べる事になるわね。たぶん建物だって事だから、まずは建物の中を調べてから外、って順だけど、そもそもどこに建ってるどんな建物かよねぇ」
「まず野外なのか街みたいなところに建ってるのかで、行動パターンも難易度も変わるわな」
「街の中だったら良いけど、野外だと困るわね。敵性生物の有無を確認した後、近くに街が無いか探してそこまで行くしか無い訳でしょ?」
「そうなるとかなり厳しくなるなぁ。買い出しの事もあるから、野外だったとしても街の近くだとは思うけどね」
「じゃあ街だったと仮定しましょうか。その場合まず注意するのは、最初は人目にあまりつかないようにする事よね?」
「こっちの人間のことは、あのじーさんしか知らないからね……。俺たちの見た目がどう映るか分からないし、あのじーさんの家から別人が出てくる訳だからね。泥棒と間違われても不思議じゃないし、怪しまれるのは極力避けたいわな」
「そうなると、状況が分かるまでは夜に行動するのもしばらく避けたほうが良さそうね。人目は少なそうだけど、見つかった時は逆に怪しまれそうだし……。もっとも、地球みたいに朝とか夜とかがあったらだけど」
「まぁ怪しまれる可能性は下げるに越したことは無いからね。となると、最初にするのは現地人の見た目の確認からかな。人間と違いが無ければ一気に出来ることが増える」
「そうね。言葉は多分大丈夫そうだから、服装含めた見た目の確認が最優先ね。その次は建物の周りの状況確認かしらね? 治安面とか人目だとか、どんなシチュエーションに建っているかで、今後の拠点としての使い勝手も変わってくるし……」
「出入りしてるのが目立つのはリスクになるし、変なトラブルも避けたいもんなぁ。その辺を確認したら、ようやく街の規模やら文明のレベル、街自体の治安なんかを把握してく感じかな」
「そこまで確認できれば、住民とのコミュニケーションも出来るようになるわね」
「そこからが本番かなぁ。見ただけで分かることもあるけど、そうじゃ無いことの方が多いわけだし」
リスクを極力避けて、住民に怪しまれずコミュニケーションがとれるようになることを当面の目標にすることを決めた二人は、荷物の準備に取り掛かった。
まずは一番数の多い本類を整理して運び、その後全ての食料とコインの入った袋、寝具一式に加えて、召喚者が着ていたローブと水晶の埋まった杖も魔法陣部屋へ運び込む。
魔法陣を避けて床に置いているため、かなり部屋が手狭になってしまった。
「結構な量になったわね」
「金目の物を根こそぎ持って行く訳だから、ほとんど盗人だな、こりゃ」
「……嫌なこと言わないでよ」
苦笑しながら二人で肩をすくめると、生活スペースに戻って来た。
「さて、後はこの大物だな」
そう言って太一が指さした先には、水が湧き出る不思議な水瓶が鎮座している。
「内径は……大体50cmってとこで、水深が……大体70cmくらいか?」
親指と人差し指を広げて簡易なメジャーとし、水瓶の大体の大きさを測っていく。
「その大きさだと…………、水だけで140kgくらいあるわね」
「瓶自体の重さもあるから150kgはあるか。
ホントは水を全部ぶちまけて瓶だけ持って行きたいとこだけど、水浸しにするのもアレだし、そもそも全部水を出した後も水がちゃんと増えるか保証が無いからなぁ」
「水が出なくなったら本末転倒ね……半分くらい水を捨てるくらいが関の山かしら?」
「そうだな。そこまで水の増える速度が速い訳じゃないし、それでだいぶ楽になるかね。まぁそれでも大人の男一人分くらいの重さだけど」
「ダメ元でやってみるしかないわね」
「よし。じゃあまずは水を減らすか。うーーん、コッヘルとマグカップですくってトイレに捨てるか?」
「地道にやりましょ」
それから黙々と水を汲み出しては捨てるという地道な作業を続けること30分、ようやく瓶の水量が半分程度になったが、2人の息はすっかり上がっていた。
「はぁはぁ、これは、思った、はぁ、以上に、しんど、かった」
「そ、そうね……。何往復したかもう覚えてないわ……」
しかし時間と共に水が増えていくため、ゆっくり休憩している訳にもいかず、軽く息を整えると水瓶の運搬に取り掛かる。
「申し訳ないけど、文乃さんも手伝ってね。さすがに一人じゃ無理そうだから」
「ええ、もちろん。じゃあ私はこっち側を持つわね」
「お願い。でも無理しないでね。あ、腰を痛めないよう背筋はなるべく伸ばして膝の屈伸で持ち上げよう」
両側から水瓶の下に手を入れて、せーの、で持ち上げにかかる。
「く、重い……けど何とかいけるか? 文乃さん大丈夫??」
「え、ええ、何とか。でも長くは無理……」
「よし、なるべく急いで運ぼう」
2人で声をかけながら部屋を出る。
運んでいる間にも水嵩は徐々に増え、二人の両手にのしかかる重さが徐々に増していく中、階段を下りてどうにか魔法陣部屋へたどり着いた。
「ぐ、こいつはこのまま魔法陣まで運ぼう。一度下ろしたら動かすのは無理だ」
「わ、分かったわ」
最後の力を振り絞ってどうにか水瓶を魔法陣の上に持って来たところで、ついに文乃の腕が限界を迎えた。
「も、もうだ、め……」
「っ!」
文乃の手からするりと瓶が離れる寸前、太一が腰を落とす。そしてゴンと言う鈍い音を響かせて勢いよく水瓶が床に着地した。
着地の衝撃で、すでに7割程度まで来ていた水面がちゃぷちゃぷと波打ち、辺りに水しぶきが飛び散った。
「文乃さん、大丈夫かい?」
慌てて太一が水瓶を挟んで反対側にいる文乃のもとへ駆け寄る。
「ご、ごめんなさい、手を放しちゃって」
「いや、よくここまで手伝ってくれたよ。手、挟んだりしてない?」
「えぇ、手を離しちゃったから怪我は無いわ」
「良かった。こんな事で怪我するのは割に合わないからね。それにどうやら水瓶も無事みたいだ」
「何とかなって良かったわ……。もう二度とやりたくないけどね」
「まったくだ……」
疲労困憊して、文乃は床に座り込み、太一は大の字に寝転んでしばし呆然としていた。
「文乃さん、一つていあ~ん」
「なに?」
「ちょっと仮眠してから行かない?この状態で行って、まともに動けるとは思えない」
「奇遇ね。ちょうど私もそう言おうと思ってたのよ」
「いやぁ、良かった。じゃあ仮眠して、その後いよいよ新天地へ向かおう」
軽く食事を摂った後、少しだけ眠るつもりがしっかり6時間ほど眠ってしまうお約束をかましつつも準備を終え、いよいよ2人は、新天地を求めて魔法陣に入った。
「思いのほか寝ちゃったけど、体調は大丈夫かい?」
「ええ、おかげさまでスッキリしたわ」
「そりゃよかった。じゃあいよいよ飛ぶけど、後悔は無い?」
「もちろん。いい加減飽きてきたところよ」
「おっけー」
そう言うと、太一は左手で文乃の右手をぎゅっと握る。
「! ちょっと伊藤さん!?」
慌てる文乃に対して、太一は余裕の笑顔だ。
「いやぁ、物が一緒に運ばれるのは分かったけど、人は試してないからねー。念のため手を繋いでおいた方が良いかなぁってね。はっはっはー」
「まったく……、分かったわ。じゃあエスコートしてくださるかしら?」
「お任せください、マドモアゼル」
太一は左手は文乃の手を握ったまま、右手を胸元までもってきてわざとらしく一礼してみせる。
「それではまいります――。“転送”!」
眩い光が部屋に溢れ、ついに2人は、この世界に初めて降り立った場所から飛び出していくのだった。
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