第13話 転送魔法のからくり

「いやぁ、まいったまいった。転送された瞬間、いきなり強烈な眩暈と脱力感が襲ってきてさ」


 6時間ほど眠って目を覚ました太一は、先ほどまでの状態がウソのように元気になっていた。

 お腹も空いていたのかリンゴのような梨を二つあっという間に平らげ、今も干し肉を齧りながら自分に起きた事を楽しそうに話し始めたところだった。

 

 曰く、転送と言って魔法陣の光が強くなった途端、急に体から力が抜け強い眩暈と脱力感に襲われそのまま気を失い、気が付いた時には同じような魔法陣の中に倒れていたそうだ。

 ちなみにこちらの魔法陣に置いていた荷物も、無事一緒に転送されていたらしい。

 目が覚めた時には不思議と今と同じように体は元気だったが、どれくらい気を失っていたか分からないため、目の届く範囲だけ軽く確認して、すぐに戻って来て今に至ると言う事だ。

 

「帰りも同じように気を失うかと思ったけど、今度はギリギリ大丈夫だったな」

「なるほどね。心配したけど、良い方に予想が当たってたようね」

「ん?予想?」

「中々戻ってこなかったでしょ? 何らかトラブルが起きたのは間違いないけど、かと言ってここを離れたり下手な事試して他のトラブルが起きたら目も当てられないから、何かヒントや役に立つ情報が無いか、物語含めて詳しく本を調べてたのよ」

「へぇ、物語もか」

「ええ。ダメ元でね。でも、その物語の方にこそ、実は欲しい情報がいっぱい隠されてたの」

「?」


「物語って情景を思い浮かべてもらうために、様々なシーンや状況を描く必要があるでしょ? それには舞台となった場所や時代の文化や常識、社会通念なんかが当然反映される。お話自体が空想だったとしても、ベースは現実であることがほとんどよね。例えば日本でも、源氏物語は平安貴族の文化研究における貴重な材料になってたりするくらいだもの。


 それはこの世界の物語もやはり一緒だった。

 ここにある物語の多くは、実在した英雄の実話を脚色したものなため、この世界の文化や歴史が当たり前のように出てくる。

 ましてや、その多くは勇者が仲間と一緒に魔王を倒しに行くお話だ。旅や探索、戦闘のシーンで魔法に関する話がたくさん書かれているのは当然だろう。


「その中で、仲間の魔法使いの魔力切れ、って言うのがよく書かれていたの。強敵やピンチな状況で魔力を使い果たして気を失う、っていうお約束として」 

「なるほどね。確かに転送された瞬間、一気に体力と言うか生命力? みたいなのが抜けた気がしたなぁ……」

「転送の魔法なんて、魔力を使いそうだしね。時間と共に回復するし、眠ると一気に回復するって話だったけどそれも合ってそうね」

「あぁ、向こうでもそうだったけど、倒れる前が嘘みたいに大丈夫だ」


「それとね、魔力って筋力と同じように、たくさん使って回復するときに増えることがあるみたいなんだけど……」

「あー、行きで魔力を使い果たしたことで魔力が少し増えたから、帰りは気を失わなかったってこと?」

「そう思うわ。慣れたから、って話かもしれないけど」

「うわぁ、それは夢が無いなぁ。魔力が超回復したと思おう、せっかく辛い思いしたんだし」


「そしてもう一つ。あの召喚者は定期的に行き来してたはずでしょ? それも食料補充って言う割とお気軽な理由で。そんな日常的な足のように使うのに、毎回しんどい思いをしてるとは思えないのよね」

「確かにそうだ。けど、あのじーさんが大魔法使いで魔力がめちゃくちゃあるって事はない?」

「うん、それも考えたのよ。独学で召喚を成功させちゃうくらいだし、一流の魔法使いだと思う。でも、代行者が言ってた事覚えてる?確か肉体強化レベル4、だったかしら? 半分になってるって話だけど、それでも私たちの身体能力ってこっちの普通の人よりかなり上な気がするのよね」

「比べようがないけど、無い話じゃないな」


「でしょ? 召喚された人たちって、ジャンルこそ色々だけどみんな英雄的な功績を残してるのよね。どう考えても普通の人とはかけ離れた力を持ってるとしか思えない。だったら例え半分になってても結構な身体能力、もとい魔力もあるんじゃないかなって」

「その仮説が正しいとすると、あのじーさんは転送できる魔力は持っていないのに、ある程度気軽に使えるって事になるけど?」

「ええ。それを可能にしてそうなものについても、物語の中にヒントがあったのよ。これ、覚えてる?」

 そう言って太一に見せたのは、青い宝石が付いたペンダントだった。

 

「あー、あのじーさんが首からかけてた」

「そう。物語の中に“魔石”っていう青い宝石が出てくるんだけど、このペンダントトップの宝石が多分その魔石なんだと思う。魔力を蓄えることが出来て、身に着けて魔法を使うと自分の魔力の代わりに魔石の魔力を消費して魔法が使えるらしいわ」

「なるほど、バッテリーと言うか外部電源みたいなものか。確かにそれなら、しんどい思いをしなくても転送できそうだ」

「うん。あと多分召喚する時なんて、転送より沢山魔力を使うはずだから、そのための物でもあるんじゃないかな」

「確かに、あのじーさん召喚した時もこれ着けてたなぁ」

「そういう事。だから次は、これも身に着けて転送するべきね」


「了解。あんなしんどい目に合うのは、二度と御免だ。ちなみにこの魔石、どれくらい魔力が残ってるんだろ? バッテリーみたいなものだとすると、使ったら当然魔力が減るんだよね?」

「色の濃淡で魔力の量が分かるみたいなんだけど、基準が分からないから今がどういう状態なのか分からないのよね……。そんなに薄い色じゃないからまだ大丈夫だと思うけど、自信も根拠もないわ」

「そりゃそうだ。でもまぁ、いいか。1往復してみた前後で色が変わるか、写真撮って検証すれば。定量的とは言えないけど、ある程度判断できるだろうし。最悪、気絶するつもりなら転送できることは分かってるから、なんとかなるでしょ」


「その時は私がやるわ。私の魔力量も把握しておきたいし。あ、ちなみにこの魔石、使い捨てじゃなくて魔力をチャージする事も出来るみたいよ」

「へぇ、充電可能なのか。で、肝心の充電方法は……?」

「もちろん、分かりません!」

 自信満々に答えられて目が点になる太一を見て、いたずらが成功した子供のように文乃がくすっと笑うのだった。

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