第9話 行動開始!
4時間ほど仮眠を取った後、太一と文乃は軽食を摂っていた。
寝る前にリンゴもどきを食べていた太一の体調も、特に異常は見られなかったため、ひとまず食料は安全であると結論付けた。
次は水の安全性を確認するため、二人とも地球の食べ物を食べていた。
ちなみに、冷凍されていたとはいえ、冷凍保存できる訳でも無いので、まずは肉から食べることと相成った。
「うん。この水も飲んだ感じ別に問題無い気がする。しかも軟水だわ、これ。案外飲みやすい」
よっぽど喉が渇いていたのか、シェラカップでごくごくと水を飲む太一に対して、それを見る文乃はいかにも不安そうだ。
「ちょっと、そんなに一気に飲んで大丈夫?」
「大丈夫なんじゃないの? 食料は大丈夫だったし。ついでに顔も洗っておくか、こんだけ量があれば多少使っても大丈夫でしょ」
文乃の不安も何のその、ついにはカップに汲んだ水を直接顔や頭にばしゃばしゃとかけ始める。
「まったく……」
「はぁ、サッパリした。やっと目が覚めた。文乃さんもどう?」
「そうね。顔くらいは拭いておこうかしら」
「じゃあ水汲むからタオル出してね」
水瓶から水を汲み、文乃が手に持ったハンドタオルに水をかけていく。
1杯、2杯とかけ、3杯目を汲んだたところで太一の手が止まった。
「んん?」
「どうしたの?」
「いや、結構水使ったはずだけど、思ったより減っていない……気がする」
「どういう事?」
「そのまんま。使ってるのに水が減ってないような……、あーーーーーっ!!!!」
「ひっ!!!! きゅ、急に大きな声出さないで!」
「増えてる……」
「はい??」
「だから水が増えていってる。よく見てて、今ここでしょ」
太一は、水面ギリギリのところをフォークで指し示す。
そのまま固唾をのんで水面を凝視していると、30秒ほどで明らかにフォークの先が水に浸かった。
「……」
「……」
その後も見ていると、ある程度の水位まで水が増えたところで増加が止まった。
「これは……。とんでもないわね」
「まさに魔法の水瓶だ。ご丁寧にオートストップ機能付きの」
「でも、これでこの水が飲めるなら、水については心配無くなるわね」
「上限とかが無ければね。まぁそれでも相当助かることは間違いないな」
「やっぱりあるのね、魔法の道具が……」
「ああ、それも生活に密着したヤツ。まるで家電だな」
「これが一般的なものだとしたら、想像以上に便利な世界なのかもしれないわね」
「うん。それに民生品にまで技術が降りてきてるとしたら、ある程度平和というか安定している世界の可能性が高い」
「そうね。戦争してたりしてて余裕が無いと、生活を楽にするものを作るのにリソースは割けないもの」
「これで多少は希望は見えてきたかなぁ、はっはっは」
「私たちを呼んだ誰かさんは、何やら物騒な事を言ってた気がするけど……?」
「あのおっさんは普通じゃない、と思おう。さてさて、じゃあ俺はそのおっさんの遺品見てるから、読書よろしくね」
「分かったわ」
そうして別々に調べ物を開始した二人だったが、太一のほうが調べるものが少ない。
なので当然、先に調べ終わった太一が1時間ほどして遺品を持って戻ってきた。
文乃はメモを取りながら本との格闘の真っ最中だ。
「どう? 読書は進んでる?」
「ぼちぼちかしら。ページが分厚い分1冊当りの内容は少ないんだけど、読めてもいまいち意味が分からないと言うか、そもそも固有名詞が何を指してるか分からないものも多いのよね、当たり前だけど。そっちはどうだったの?」
「一通り見分は終わったよ。読書は手伝うから、先にこっちの話から聞くかい?」
「そうね。手分けしたほうが効率が良いし、お願いするわ」
「ほいきた」
とは言え、こっちもまぁ見た目からの憶測にすぎないんだけど、と前置きして順番に遺品の見分結果を伝え始める。
最初に見せたのは小さな革袋と、その中に入っていたコインだった。
「まずはこれ。まぁ見た目通り多分貨幣だろう。素材の違う3種類のコインがある」
そう言って、金色のもの銀色のもの、そして茶色いものの3種類を一つずつ掌に載せる。
「手持ちの材料でごく簡単な天秤を作って比重を比べてみたんだけど、金色のが一番重くて、銀色と茶色いのはちょっとだけ銀色のが重い感じだった。普通に考えるとまぁ、金貨銀貨銅貨って感じになるわな。金本位制なのかどうかも分からないし、価値が金銀銅の順なのかも分からないけど、貨幣経済がある事は間違いないと思う」
「そうなると、やっぱりここから出たらお金を稼がないといけないわね……」
「だろうねぇ。どれくらいの価値があるかは分からないけど、精々この遺産は大事に使わせてもらおう」
「生活費でもあり種銭でもあり……。食料に続く生命線ね」
「じゃあ次はこっち」
コインを横にどけると、今度は指輪を二つ机に置いた。
指輪はどちらも銀色に輝いており、それぞれ赤色と水色の宝石のようなものが埋まっていた。
「指輪ね。シルバーリングかしら? それに随分ゴツイわね。なんだっけ、クロムハーツ? 的な」
「うん。こういうデザインが普通なのかもしれないけど、俺もアクセサリーにしてはゴツイと思った。で、よく見てみるとこの装飾っぽいレリーフ、装飾じゃなくて文字が彫ってある気がするんだよね。それに、その読めなかった本に書いてある文字に似てるような気がしないかい?」
「言われてみれば確かに……。そういう視点で見てみると、かなりギッシリ書き込んでるわね、裏側にも。宗教的と言うか儀式的と言うか」
「やっぱりそう思う?これもいわゆるマジックアイテム的なものじゃないかなぁ」
「その可能性はあるわね」
「でしょ?まぁ何が書いてあるか分からないから、時間があったらそっちの本と比べてみよう。でマジックアイテムっぽいと言えば次のコレ。こいつは見るからに普通じゃない」
そう言って太一がペンダントのようなものを机に置いた。
骨となった召喚者の首に掛かっていたそれは、首紐は革のような素材で出来ており非常にシンプルだ。
しかし指輪と同じような素材で出来たペンダントトップが、太一の言う通り普通では無かった。
1辺2cm程度のひし形をした金属製の枠にぴったり納まっている青い宝石が、その原因だった。
「何これ。揺れてるような気がするけど、液体? いや、違うわね……しかも光ってる??」
「振ったりしても揺れないから、液体が入ってる訳じゃ無いと思う。しばらく見てると分かるんだけど、この宝石自体が発光してる。しかも明暗があってそれが不規則に揺らめくように動いてる」
「思わず電源探しちゃうわね。ホログラムだって言われたほうが納得できるもの」
「全くだよ。光源がある訳でもなく、揺らぎながら明滅を繰り返す宝石だ。どう考えても普通じゃない」
「ここまで来るともう、魔法の品である方が自然よね」
「ああ、俺もそう思うよ。そうなるとこの最後の杖? も、多分マジックアイテムなんだろうなぁ」
最後に取り出したのは、1本の杖だった。
乳白色の骨のような材質で出来ており、表面は良く磨かれているのか滑らかで艶がある。
長さは1.5mほど、直径は2cm程度で先端に金属で出来た4本の爪が台座のようについており、そこに透明な水晶玉のようなものが固定されていた。
「これまたいかにもな感じね」
「歩くのを補助するような、無難な使い道じゃないだろうね。でまぁ、この杖も台座や本体に細かい文字が彫られてた」
「これで魔法使いの杖じゃなかったら何なの、ってくらいに魔法使いの杖ね」
「全くだ。後はローブとか肌着類だけど、こっちは文乃さんが言った通りごく普通というか粗末な服だったよ」
その後少々2人で話し合った結果、使い方も効果も分からない以上、雑に扱って暴発でもされたらかなわないので丁寧に扱う事が決定された。
「さて、遺品整理もひとまず終わった事だし俺も読書タイムといきますか」
太一はそんな事を呟きながら遺品を丁寧に脇に退けると、積んである本に手を伸ばした。
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