第7話 行動方針決定
「まずはここから出ることよね。ここから地球に帰れるとは思えないし」
「可能性はゼロじゃないだろうけど、ここに帰るための情報や必要なものが揃ってるとは思えんわな」
ただ召喚する事のみを追究し続けた男が、50年と言う文字通り一生を全てそれにかけてようやくたどり着いたのがこの場所。
ならば? 呼び出したものをわざわざ帰すようなことを考えるだろうか?
一生を賭して呼び出したものが、帰ってしまう可能性が万が一にでも起きる可能性があるものをこの場所に置くだろうか?
それこそ万に一つもそんな事があり得ないだろうことは、骨になった男の事を何も知らない2人にも容易に想像がつく。
そもそも呼び出すのに50年かけているので、返す方法など研究する余裕は無かったであろう。
であればやはり、ここから出るしか方法は無いように思えた。
「食料や水にも限りがあるから、すぐに出るかどうかは別としても、早めに出られることを担保したいわね。ただ、何の予備知識もないまま外に出るのも怖いから、少しでもここがどういう世界か知っておきたいところよね」
「同感。多少でもこの世界のことが分かれば選択肢も広がるし、現地人とのコミュニケーションも違和感が少なくなるだろうし。とは言え、使えるのはそこにある書籍くらいか。まぁ幸い地図もあるみたいだし、少しは役に立つでしょ。
ただ、その前にまずはどのくらい時間的猶予があるのかはっきりさせないとなぁ。ようはここにある食料の安全性確認なんだけどね。食べられるなら時間的猶予が増えるから、本を読む時間もとれるし、何よりゆとりが出来るのはありがたい」
時間は大切。何を当たり前のことを? と思うかもしれないが、人間焦っている時ほどその時間を有効に使うことが出来ない。
焦りがあると目の前のものに気を取られ、必要無い事に時間を割いた結果、大切な時間を浪費してしまうものだ。
大手代理店で激務を20年こなしてきた太一は、それが身に染みていた。
さらに“腹が減っては戦が出来ぬ”と、昔の人は良く言ったものだ。何か大きな事をする時ほど食事は大切だ。
補給路を断たれて負けた戦など、歴史上枚挙にいとまがない。また単純にお腹が空けばイラつきもするし、集中力も欠くことになる。
まず食料を確保し心身の健全さを担保した上で事に臨むのが理想だろう。
「そうね。で、どうやるの?」
「結局食べてみるしかないんだけどね。いきなり大量に食べるのもゴメンだから段階的にいくしかないわな。あ、調べるのは俺一人でやるから、文乃さんは地球の食料食べておいて。共倒れになったら最悪だ。あ、水だけは頂戴ね」
「それだったら別に私が調べても良いんだけど……。まぁいいわ、申し訳ないけどお願いね」
「はいはい」
「じゃあ最初は食料の確認。で次が書籍からの情報収集ね。食料次第だけど時間のことも考えると、まずは重要そうなものだけを拾って読む感じかしらね」
「そればかりに時間とられるわけにもいかないからね。で次と言うか並行してで良いんだけど、骨のおっさんの遺品整理もしときたい。召喚が魔法的なものだったとすると、骨のおっさんは魔法使いかもしれない。もし魔法使いだったとすると……」
「いわゆるマジックアイテム的なものかもしれない?」
「正解。なんらかのギミックがあったりするかもしれないし、軽く調べておいたほうが良いと思わない?」
「そうね。それで良いと思うわ」
「了解。で、いよいよここから出る方法を探す感じかな。とは言え、もう1回あのでかい扉を調べてみるのと、小さいほうの魔法陣を調べるくらいだけだけどさ」
「どっちかが外に繋がってると良いんだけど……」
「まぁ十中八九大丈夫じゃないかなぁ。さっき文乃さんも言ってたけど、延々引きこもるには、食料が絶対的に足りない。自給自足しているような痕跡もないし、人のいるところへ行く方法があるはずだ。まぁ、俺たちにそのやり方が分かるかどうかは別だけど……」
「そこは頑張るしかないわね。頑張ってどうこう出来るものか知らないけど」
「違いない。後はそうだな、簡単な実験をいくつかやっておきたい」
「実験?」
「いや、たいしたことじゃない。簡単な物理とか科学とか、どこまで地球と同じなのかな、と思ってさ。魔法なんてものが有るんだから、全然地球の常識が通用しないかもしれないでしょ?」
「言われてみればそうね……。環境適応? のおかげで大丈夫かもしれないけど、例えば酸素が必ずある保証なんてないものね」
「うん。世界だって丸くなくて、でかい象の背中の上かもしれないでしょ? たいした実験も出来ないし、精度も全然だけど、全く違うのかある程度一緒とみて良いのかくらいは分かるはずだ」
「了解よ。手伝えることがあったら言ってね」
「ああ、その時はお願いするよ。ってことで、早速食料チェックと行きますか。さてさて、初めての異世界グルメだ。どれからいくか……」
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