1章:現状把握編
第3話 張本人の戦線離脱
「あーあー、あれ大丈夫なの??」
「どう見ても大丈夫じゃないわね……」
「うわぁ、骨になっちゃったよ。呼び出したなら説明責任くらいは果たしてもらいたいんだけど」
「死人に口無しね」
「と言うわけで、そっちのおねぇさん説明してくれる?よね??」
そう言って後光のように光を背負った女神を見やる。
『……』
「…………」
そして流れる気まずい沈黙。ばっさばっさと無表情な女神の羽ばたく音だけがあたりに響く。
「えーーっと、言葉分かります?? キャンユースピークジャパニーズ?」
「あのねぇ……。さっき思い切り日本語でしゃべってたじゃない」
「そうなんだけどね。あまりにも清々しく無視されたからさぁ」
「まぁ確かにそうだけど……。あなた、こちらの言っていることは分かる? お名前は?」
『私は単なる代行者であり個ではない。故に名はない』
「なんだ、ちゃんと喋れるじゃないの。で、何がどうなってるのか説明、してくれるよね?」
『……』
「…………もしもーし、絶対聞こえてるよね?」
「ぷっ……ふっ……くく」
「ちょっと文乃さん、笑うのはひどいなぁ」
「くく……ごめんなっ、さいっ……あまりに華麗にスルーされたから。あらためて代行者さん、だっけ? 何がどうなって私達はここにいる訳? 説明してもらえないかしら?」
『召喚実行者が行使した召喚代行契約術式に則り、代行者としての権限を行使。対象者をここに召喚した』
「召喚……召喚ね。召喚ってどういうこと? そもそもここはどこなの?」
『召喚とは召喚実行者が代行契約術式に記載した条件に合致する者を呼び寄せる事である。ここがどこであるかは把握していない。契約術式に指定された世界、座標、時間に顕現させたに過ぎない』
「知らないって……そんな訳ないでしょ!? じゃあどうやってここにッ!!」
「文乃さんストップ」
「伊藤さん! だって!!」
「多分、本当に知らないんだよこいつは」
「どういうことよ?」
「代行者だって言ってたでしょ? それに契約だとか条件だとか」
「ええ……。まさかっ?」
「うん、そのまさかだと思う。指定された条件に従って、召喚と言う行為を“代行”しただけ。プログラムを実行するコンピュータと同じ、指定された通りに実行するだけの存在……」
「じゃあ、何も聞き出せないって事?」
「いや、意味は知らなくても条件自体は提示されてそれを実行してるんだ。現に指定された世界、座標、時間って言ってたでしょ? 少なくともその条件と言うかパラメーターなら聞き出せるんじゃないかな? ってことで、よろしく」
「分かったわ。って伊藤さんが聞けばいいじゃない」
「いやぁ、俺嫌われてるみたいだからさぁ」
「……そうだったわね。じゃあ代行者さん、その召喚条件ってのを教えて頂戴?」
『召喚対象者:1
探索世界:数多の神が治めし世界
探索座標:無制限
探索時間軸:無制限
選別条件:一定以上の神の加護
召喚先世界:エリシウム
召喚先座標:5499632.3662・1087672.4907・0000012.8112
召喚先時間:即時
召喚時付与:元世界の神の加護、肉体強化レベル4、召喚先環境適応レベル4
召喚対価:召喚対象との契約内容に応じ召喚実行者の残生存期間
返還制限:契約非成立時
以上が召喚条件である』
「いやはや、細かいんだか、雑なんだか……、突っ込みどころ満載だなぁ……。それとここが地球じゃないことも確定した、と。あと気になったのは召喚対象者? が1ってとこと、最後に言ってた返還制限? だな」
「そうね……。現に2人召喚されてるし、返還ってのが元のところに帰れるってことなのか、も重要ね」
「……あっ!」
「どうしたの?」
「そうか、だから無視されてたのか」
「何1人で納得してるのよ」
「いや、召喚対象が1でしょ? その上で、あっちでの状況を思い出してみてよ。」
「あっちでの状況? 確か私がエレベーターに入った瞬間急に光り出して……ああっ!!」
「そう。多分文乃さんがその対象者で、俺はおまけと言うかイレギュラーな存在。で、代行者様は召喚対象者のみとコミュニケーションが可能」
「確かにそれだと納得がいくわね」
「でしょ? よかったぁ、嫌われてたわけじゃなくて」
「よかったわねー、美人に嫌われなくて?」
「そんな言い方は無いじゃない」
「ま、そんなことは良いわ。それより返還よ。ねぇ代行者さん、制限があるにせよ元の場所に帰ることが出来るってことかしら?」
『是。すでに召喚者との契約は非成立が確定し、返還制限の条件を満たしているため、召喚対象者に返還の意思を確認次第返還が可能』
「はぁ、良かったわ……、どうなる事かと思ったけど帰れるのね。伊藤さん、早速帰るってことで良いわよね?」
「良いけど、念のため二つ、確認してもらえるかな?」
「なーに?」
「まず一つ目。いつまでに返還の意思を伝えればよいのか。契約非成立時、って言い方が気にならないかい? 非成立後いつでもOKってんじゃ都合が良すぎる」
「それもそうね。ねぇ代行者さん。返還するかどうかの意思表示っていつまでにしたら良いのかしら?」
『契約非成立確定後、2000現世界軸時間以内に返還の意思表示が無い場合、返還の権利が失効されます』
「現世界軸時間ってのが分からないから、良く分からないわね……。残り時間はどれくらいなの?」
『契約非成立より1524現世界軸時間が経過していることを確認。残り476現世界時間で権利が失効されます』
「うわ! だいぶ経過してる! えーっと、あのおっさんが骨になって30分経ってないくらいだから、ほぼほぼ1秒と同じくらいか。残り10分無いくらい? 聞いておいてよかった。じゃあもう一つをさっさと確認せにゃあ」
「それって残り時間が少ないのに、聞く必要ある重要なことなの??」
「まぁね。あーー、でも文乃さんにとっては、たいして重要じゃないかも」
「何よそれ。引っかかる言い方ね」
「いやね、返還の対象って当然ながら召喚対象者な訳でしょ?」
「そうね。関係ない人を送っちゃったら返還じゃないし。それが一体どうした……!!! まさかっ?」
「気づいた?」
「……えぇ。さっきの推論通りだと召喚対象者は私だけ。その推論が正しいと、帰れるのは私だけになる……」
「正解」
「だから私には重要じゃないって……そんな訳ないでしょ! 一人しか帰れないと分かって、じゃあさようならって一人だけ帰るほど薄情じゃないわ!?」
「それは嬉しいんだけどね。落ち着いて考えてご覧よ。安全なのかどうかも分からないこんなところに、良心の呵責で残っても良いのか? 帰れるなら帰ったほうが……」
「お断りしますっ。あぁ、そうか。伊藤さんは私がいないほうが良いってことね? 分かりました。これより東雲は一人で行動します。失礼」
「え、いや、そんなことは……、でも」
「ふふっ、冗談よ、冗談。でもね、一人しか帰れないと分かってて帰るのは嫌なの。良いわね?」
「はい、わかりました」
「よろしい。じゃあ時間も無いからさっさと確認しましょうか。代行者さん、帰還できるのは召喚対象者である私だけ、と言う事で間違いない? 例えばこの横にいる、私と一緒に召喚された男も一緒に連れて帰ることは出来ないのかしら?」
『是。召喚対象者のみが対象となります。また召喚契約が1名である以上、複数の対象が召喚されることはありえません』
「え……でも現に一緒に召喚されたでしょ? と言うか、あなたが召喚したんじゃない」
『召喚契約に則り遂行されるため、指定された条件以外の召喚が行われることはありません』
「だったらこの人はどうしてここにいる訳? おかしいでしょ??」
『おかしくはありません。その証拠に召喚対象者には付与が――』
そこまで言い文乃を見た途端、女神の動きが止まった。
「?」
『イレギュラーケース発生の可能性あり。状況確認のため詳細検証モードに移行。パフォーム、アナライズエリア』
これまでとは明らかに違う声のトーンで女神が言うと、女神を中心に召喚されたときと同じような光輝く魔法陣のようなものが空中に描かれ回転し始める。
光の渦はそのままゆっくり動き出し、文乃を中心とするところまで移動すると動きを止めた。
「!!」
驚く2人を放置し数秒光り続けると、何事もなかったかのように光は消え去る。
「ちょっと、急にどう……」
『状況確認終了。召喚対象者に付与された肉体強化および環境適応のレベルが指定数値の半分である事を確認。なお神の加護は正しく付与されている事を確認。状況より、何らかの原因でイレギュラーな存在が同時に召喚されたことにより、付与の効果が分割されたと推定。なお、召喚対象者として認識可能な数量は1である。以上、検証モード解除』
「やっぱりイレギュラーだったか。まぁ状況を考えたら、そうだろうと思ったけどさ。で、召喚対象者も予想通り文乃さんだけ、と。もう一回聞くけど、それでも帰るのやめる?」
「えぇ。元々答えは決まってるもの。代行者さん、私はこのままここに残ることにするわ」
太一の目をしっかり見た後、文乃は力強く女神へそう告げた。
『対象者の意思を確認。返還制限条件未達のため返還停止。以上をもって本召喚契約の代執行が完了したものとする』
そう言うと、また女神を中心にひと際大きな魔法陣が展開され、数秒後に女神の姿は綺麗さっぱり消え去ってしまった。
骨と化したかつて召喚実行者だったものと、大きな疑問を太一と文乃に残したままで……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます