第42話 見えてきたノームの森
次の日の朝。おじさんとイリアさんに挨拶して、わたしたちは旅立つ。集落から少し歩いたところで歌った。
「我を呼ぶ歌声、見事であったぞ」
サラマンダーはご満悦な様子だ。それもそのはず、歌うのに合わせてムウさんがたて琴でメロディをつけてくれたのだ。これで満足しないはずがない。
「それじゃ昨日言っていた通り、北東にあるノームの森にまで飛んでね」
「任せておけ」
わたしとイオは、サラマンダーの背中に乗り込む。だけど、ムウさんが中々乗ろうとしない。
「どうしたの、ムウさん。こっちだよ」
エルメラが飛んでいって、手を引く。
「いえ、サラマンダー様の背に乗るなど恐れ多く思いまして」
昨日の様子から見ても、ムウさんは精霊の王たちに畏敬の念が尽きないようだ。
「でも、乗らないとすごく大変だよ。歩いて行ったら何日かかるか」
「……分かりました」
ムウさんは恐る恐ると言った様子で、サラマンダーの背中に乗り込んできた。
「暖かいのですね」
「見た目はトカゲだから冷たそうなのにね。炎が皮膚を覆っているから温かいんだよ」
「では、出発するぞ!」
バサバサと羽ばたいて、サラマンダーは上空へと昇る。力強い羽ばたきだ。
精霊の海で倒れて心配していたけれど、大丈夫そう。ムウさんも最初は必死にしがみついていたけれど、すぐに慣れたようで風を受けて気持ちよさそうにしている。
「ところで、お二人はどうして妖精のエルメラさんとカカさんと一緒にいるのですか? わたしの場合はたて琴を引いていたらあちらから話しかけてくださったのですけれど」
ムウさんが疑問に思うのも無理はない。妖精って、この世界でもすごく珍しいから、出会う確率も低いはずだ。
「わたしはエルメラに別世界から召喚されたの。それから、ずっと一緒。そうだよね、エルメラ」
「う、うん」
「……召喚。それは初めて聞きました。別世界から来たとは思えませんが、ユメノさんの声の秘密はその別世界にあるのですね」
「秘密って言うほどじゃないよ。わたしの職業は声優って言って、あっちの世界にはアニメって言うのがあってね。それ専門の職業があるの!」
アニメと声優のことをムウさんに熱弁する。
「ということなのよ!」
「はぁ。何だかよく分からないけれど、子供たちに夢を与えるなんて素敵な職業ですね」
「でしょ!」
理解してもらえたみたいで、とても嬉しい。
「……ユメノの世界では、精霊が暴れていないのか」
珍しくイオがわたしの話に興味が出たようだ。
「精霊は居るかもしれないけれど、姿も見えないよ」
「じゃあ、争いもないんだな」
「……いや、争いはあるかな。前にゲーズの街の戦いがあったでしょ。あんな風に人と人が争っているよ。わたしの国では一応ないけれどさ」
「そうか。じゃあ、早く帰れるといいな」
イオは少し寂しそうにつぶやく。
「……イオは? イオはどうしてカカと一緒にいるの?」
「俺たちは昔からの仲間なんだ!」
カカが布から顔を出して得意げに言う。カカが嬉しそうな反面、イオは少し声のトーンを落として話した。
「俺は村が潰された後、一人森の中をさ迷っていた。食べるものもなく、当てもなく歩いていたらたどり着いたんだ。妖精の樹の元に」
「それって枯れた妖精の樹じゃなくて、生きている?」
「そうだ。そこで妖精たちに助けられたんだ。そして、俺は精霊使いとして妖精たちに育てられることになる。十歳のときだった」
カカは腕を組んでうんうん頷いている。よっぽど大変な目にあったはずだ。
「でも、よかったね。助けてもらえて」
「助けてくれた妖精たちの為にも、ノームをどうにかしなければならない」
自分の村を壊滅されたことと妖精たちへの恩義。だからイオの決意は固いんだ。
「中でも俺は妖精の中でも優秀だってことで選ばれたんだぜ!」
カカが自慢げに胸を張った。
「まぁ、他の妖精たちは年を取り過ぎていたからな」
「それは言わなくていいだろ、イオ!」
わたしたちはイオとカカのやり取りにクスクスと笑う。
そのとき、サラマンダーが振り返る。
「楽しそうな所すまぬが、何か見えてきたぞ」
わたしたちはよく目を凝らして、正面を見つめた。
「なっ! なにあれ!?」
森の中に唐突に巨大な建築物が経っていたのだ。それほど精工な造りではないが、サクラダファミリアのように、いくつもの塔が空高く伸びているように見える。一見すると何かの遺跡みたいだ。
「あれがノームの森だ」
イオは知っていたようだ。森と言うだけあって、周りはもちろん森林に囲まれている。
だけど、これまでの緑の森じゃない。赤や黄色、白や緑。色とりどりの葉が茂っているのが見えた。イリアさんが言うには、中は楽園のようらしいけれど――。
「どうする? このまま、近くまで行ってみる?」
わたしの提案にイオが首を横に振る。
「いや、それは得策ではない。妖精の樹の場所も分からないし、土の精霊たちから一斉に攻撃されるだろう。まずは降りて進もう」
「了解した」
サラマンダーは降りやすそうな所を探して、下降していく。その辺りはまだ緑の森だ。
全員が降りると、サラマンダーがわたしに顔を近づけた。
「さて、ユメノ。言っておくべきことがある」
「なに? サラマンダー」
「今はまだ、あの森からはノームの気配は感じられない。離れているからかもしれないし、いないからかもしれない。だが、妖精の樹から生命力を吸い取るという特殊な術を使い、あれほどの森を作るからにはノームが関わっていないとは考えにくい」
「そっか」
イリアさんがノームではない青年がノーム王と名乗っていると話していたけれど、ノームと全く無関係とは限らないんだ。
「吾輩がシュウマ山にいて、精霊石を通して様子を見る。そうすればノームには気配を感じさせないであろう。ユメノ。吾輩を呼ぶときは、ユメノたちではどうにもならないときだけにする方が賢明だ。よいな」
「つまり、ノーム王を焼く時以外は呼ぶなということか」
イオが物騒なことを言うけれど、ノームを語っている王様だってサラマンダーの炎を突き付けられたら降参するしかないだろう。他のことで邪魔立てされたら、チェックメイトに至らないかもしれない。
「そういうことだ。では、我が友たちよ。見守っているぞ」
サラマンダーは杖の精霊石の中へと消えた。
「それでは参りましょうか」
ムウさんに頷き、わたしたちはノームの森へと歩き出す。
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