怒りと鬼火 1

 それは、火桶に使う炭をお邸の裏の倉庫に取りに行っていたときのことだった。

 檜垣の間に作られた通用口のあたりから、こんこんと音がして、わたしは炭を十能に移していた手を止めて顔を上げた。


「どちらさまでしょうか?」


 千早様の元にはたまに来客があるけれど、裏の通用口からお客様が来たことはない。

 けれど、無視をするわけにもいかないから、声をかけると、通用口の奥から「お野菜を持ってきました」と声が返って来た。

 毎日のお食事に使う食材はいつも青葉様が仕入れてくださっているけれど、こうして運んでくる方もいるのだろうか。

 わざわざお野菜を持って来てくださったのに、いつまでも通用口の外で待っていただくのも失礼だろう。

 中に入っていただいて、それから青葉様を呼びに行こうと、わたしは通用口の閂を開ける。


「どうぞお入りください。今、青葉様を呼んでまいりますので」


 通用口の外には、竹かごを背負った三人の男性がいた。

 竹籠には大根や白菜などがたくさん詰まっている。

 籠が重そうだったのですぐに青葉様を呼んで来ようとわたしが踵を返したときだった。

 ばたばたと音がして、どうしたのだろうかと思えば、男性が背負っていた籠を降ろして、中のお野菜を地面に転がしているのが見えた。


 ……何をしているかしら?


 なんでお野菜を、薄く雪が積もっているとはいえ地面上に転がすのだろうかと首をひねったわたしを、籠を降ろした三人の男性が取り囲む。


「あの……」


 困惑して、わたしは声を上げようとしたのだけれど、その前に首の後ろに強い衝撃を感じた。

 一瞬、目の前が真っ赤に染まる。


 その場に崩れ落ちるのと意識が落ちるのは、同時だった――



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