わたしを「殺した」のは、鬼でした

狭山ひびき@広島本大賞ノミネート

プロローグ 1

 五年前――妹が生まれたその日から、予感はしていた。


 殺されるか捨てられるか、おそらく、わたしに待ち受けている運命はそのどちらかであろうと。

 暗い暗い夜の闇。

 わたしの背丈ほどしかない小さな祠の前で、わたしは膝を抱えてうずくまる。


 ――わたしはもうじき、死ぬのだろう。


 それは、「破魔家」の家に生まれながら無能として生きたわたしの人生としては、当然の帰結だったのかもしれない。




     ☆




 わたし、道間ユキが「破魔家」の家系である道間家に生を受けたのは、今から十五年ほど前のことだ。

 赤子だったわたしは覚えていないが、産み落としたわたしを見た母は悲鳴をあげ、父は代々当主に受け継がれる破魔の力がこもった太刀の切っ先を、産声を上げるわたしの喉元に突きつけたと言う。


 道間家は、破魔家と呼ばれる魑魅魍魎を払う一族だ。

 家の起こりは、遡ること江戸時代。

 先祖をたどれば平安時代。


 物の怪や鬼と言った「悪しきもの」を払うことを生業とする道間家において、尊ぶべきは「黒」だった。

 同時に、それ以外の色を、「鬼の呪い」と呼び忌み嫌う。


 ――わたしは、生まれながらにして髪が少し生えていたそうだ。


 そして、その色は、「赤」だった。


 正確には、赤みの強い茶色。

 ゆえに父はわたしを切ろうとし、けれどもギリギリで踏みとどまったのは、わたしが父の長子であり、体の弱い母が二人目を望めるかどうかはわからなかったからだと聞いた。


 父はわたしを「鬼の呪い子」と呼び、わたしを我が子と呼ぶことはなかった。

 母はわたしのような子を産んだ衝撃で心を病み、わたしの存在を頭から否定した。

 わたしは道間家の離れで乳母によって育てられた。

 忌み嫌われる容姿であろうと、道間家の血は絶やせない。

 このまま母に次の子が出来なければ、わたしは次代の「子」を産む道具として使われるのだろう……子供ながらに、漠然とそう思っていた。


 さらに父を絶望とさせることに、わたしは破魔家の道間家に生まれながらにして、「無能」だった。

 魑魅魍魎を払う力のない、ただの人間。

 それを知った父は、何が何でも次の子をと思ったのだろう。

 心を病んだ母を療養と言う名目で別邸に追いやり、父は妾を持った。

 そして……わたしが十のときに、妹が生まれたのだ。


「黒」を持って生まれた妹に、父は狂喜乱舞した。

 その瞬間、わたしは、子を産む道具としても父から不要とみなされたことを理解した。


 赤頃の頃に死を免れたけれど、わたしは近いうちに「処分」されるだろう。

 それでも十五まで生かされたのは、妹がある程度大きくなるまで様子を見るつもりだったのかもしれない。

 幼子が死ぬことはよくあるから、保険のつもりでわたしを残したのだろう。


 そして妹が五歳になり、強い破魔の力を宿していると知った父は、ついにわたしを「処分」することに決めたのだ。




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