夢の若さ

天川裕司

夢の若さ

タイトル:(仮)夢の若さ



▼登場人物

●花井玲奈(はない れな):女性。37歳。パートの仕事をしている。隆史を愛している。

●花井隆史(はない たかふみ):男性。40歳。玲奈の夫。結婚してから玲奈と合わない事に気づく。

●和月(わげつ)ルナ:女性。30代。玲奈の理想と本心から生まれた生霊。


▼場所設定

●玲奈と隆史の自宅:都内にある一般的なマンションのイメージで。

●When We Met:お洒落なカクテルバー。ルナの行きつけ。


▼アイテム

●In Rejuvenated Dream:ルナが玲奈に勧める特製の液体薬。これを飲むと若返ると共に永遠に幸せな愛し合う夢を見る。


NAは花井玲奈でよろしくお願い致します。



イントロ〜


あなたには今、別れたくない恋人が居ますか?

それとも、自分の元から去ってほしくない愛する人が居ますか?

恋人じゃなくても、愛する人と言うのはごく身近に居たりするものです。

両親や友人、それに片思いの人、まぁいろいろでしょうか。

でもその人がもし自分の元を去り、あなたにどうしようもない

深い悲しみを負わせてきたらどうするでしょう?

絶対に別れたくないその相手なら…



メインシナリオ〜


ト書き〈自宅〉


玲奈「嘘でしょう、そんな…」


隆史「すまない、玲奈。俺もう耐えられないんだ。君に合わせる事が本当に苦しくなって…一緒に居たら疲れてしまうんだよ…」


私の名前は花井玲奈(はない れな)。

夫の隆史と一緒になって3年目。

早くも離婚の危機が訪れていた。


玲奈「どうして…どうしてよ!?」


隆史「…どうして?君が自分の胸に聞いてみたらイイだろう!家計が苦しいってのに高い買い物ばかりして、友達か何か知らないけどそんな奴らを頻繁に家に呼んで一緒に飯まで食ったりして、家計のやりくりは下手だし、自分の作った飯を食わせる時もいつも俺の顔色伺って、『うまい』って言わなきゃ怒り出すし…!お前は我儘な女なんだよ!今まで随分俺はお前に合わせてきたんだ!文句の1つも言わずにな!」


玲奈「そ、そんな…」


隆史「なんでも自分の思い通りにならなきゃ気が済まないんだろうお前は!…もう良い。ここまでやってきたけど、ほんとにお前と一緒に居るのに心底疲れた。俺達、離婚しよう。そのほうがお互いの為だろ?」


そして僅か数日後、夫が離婚話を切り出してきた。


確かに私はこれまで、我儘だったかもしれない。

私も女性ながらに女の我儘があり、夫に甘える傍ら

自分のしたい事を率先して居たのかもしれない。


でもそんな無茶な事をした覚えはなく、

そのつど夫も許してくれていたから大丈夫なんだと思い、

ただ夫と2人の生活をもっと華やかに豊かにしようと

いろんな工夫をしてきたに過ぎなかった。


高い物を買うって言ってたけど、別にそんなバカ高って訳でもない。

それにそう言うのは全部2人で共有する物で、

決して私1人だけの為の嗜好品なんかじゃなかった。


私だってパートで働いてるし、

「これぐらいなら買っても大丈夫だろう」

って自分なりに思って買い物なんかもしてきた。


それに友達を呼ぶのだってほとんど女友達ばかりだし、

男友達を呼ぶにしてもその人は夫の知人や友人。

私なりに、生活を楽しいものにしようと思ってただけだったのだ。


私が愛してるのはこの人だけ。

本当に隆史だけで、ずっと変わらない。


玲奈「私が愛してるのはあなただけなのよ!」


隆史「もうイイからやめてくれ!もうこんな繰り返し嫌なんだよ!俺だって何度もやり直そうって自分なりに考えて、お前を改めて好きになろうって何度も努力してきたんだ!でもやっぱり合わないんだよ!つまりそういう事なんだ…」


玲奈「そんな事…」


私は泣いた。

夫がどこかへ飲みに行って帰ってきても私はまだ泣いていた。


隆史「…玲奈、すまん。でも別れたほうが良い。来月にでもそうしよう…じゃぁおやすみ」


そう言って私を1人キッチンに残し、

夫は寝室に行って寝てしまった。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

その日はパートも休みだったので、私はずっと1人家に居た。


夫と一緒に使ってきたこのキッチン、リビング、寝室。

そんなのを見ていると段々堪らなくなり、

私はすぐ部屋を飛び出し外へ行った。


それから足の向くまま歩いて行って、

いつか夫に連れられて来た飲み屋街まで来ていた。

「もしかしたらあの人が居るかもしれない…」

なんて少しだけ期待したりもして。


でも歩いていると、全く見慣れないバーがあるのに気づく。


玲奈「『When We Met』?新装かな…?」


結構キレイなお店だったので私は入った。

どうしても飲みたい気分で、カウンターで1人飲んでいると…


ルナ「こんばんは♪お1人ですか?もしよければご一緒しませんか?」


と1人の女性が声をかけてきた。

見ると結構な美人。


玲奈「あ、どうぞ…」


別に断る理由もなかったので私は隣の席をあけ、

彼女を迎えた。


彼女の名前は和月(わげつ)ルナさん。

都内で恋愛ヒーラーやライフコーチの仕事をしていたようで、

どこかおっとりとしながらも、

その凛とした姿は出来るキャリアウーマン…

といった雰囲気も携えていた。


なんだか不思議な魅力のある人。


そして暫く談笑していて気づいたが、

「どこかで会った事のある人?」

みたいな事まで思わせてくる。


だからか心がほぐれ、

私は今の自分の悩みを彼女に打ち明けてしまっていた。

彼女なら助けてくれるかもしれない…

なぜそう思ったのか不思議だけど、そんな気持ちで。


ルナ「え、そうなんですか?旦那さんとの関係が」


玲奈「ええ。もう私たち終わりかもしれません。でも私は別れたくないんです!彼のほうは私の事を嫌って、私のほうでも彼を適当に相手してるみたいに言ってましたが、そんなこと絶対にないんです。できれば出会った頃に返って、もう1度愛し合いたい…ほんとにあの頃はよかった。出会ったばかりだったからお互いの良い所しか見えてなかったのかもしれませんね。でもあの時に返りたい。彼は優しかったし、私の事を第1に愛してくれてたし、その事が充分解ってたし…」


初対面なのに私はかなり突っ込んだ事を言っていた。

自分の全てを彼女の前で暴露するように話し、

何とか今の状況から救って欲しい…その一心で話し続けた。


すると彼女は私の顔を真っ直ぐ見つめてこう言ってきた。


ルナ「そうですか、昔に返りたいと。でも現実ではそれはできませんよね。彼を自分の元へ引き留めておく方法、よくそんな事で悩まれている方も、私の元へ訪れてくれます。あなただけじゃないですよ?どうですか?次の目標へ向かって歩いてみるというのは」


彼女は私に彼の元から離れ、別の新しい恋を見つけてはどうか?

みたいな事を言ってきた。

でも私の気持ちは変わらない。


玲奈「有難うございます。…でも私にはあの人しか居ないんです。他の人を愛するなんて出来ません。せっかくですが。…じゃぁ私失礼します」


そう言って席を立とうとした時…


ルナ「フフ、玲奈さんお待ちなさい。分かりました。少しあなたの気持ちを確かめさせて頂いただけなんです。良いでしょう。彼をあなたの元へ引き留めておく方法が1つだけあります」


ルナさんは落ち着いた口調で私を引き止めた。


玲奈「え…?」


ルナ「こんな時サスペンスドラマとかだったら、相手を殺して自分の元へ置き続ける…なんて無謀なシナリオを書いたりするもんですけど、そんなこと現実にしたら捕まっちゃいますよね?いや冗談。あなた、彼との最後の食事を今週末に予定してますよね?その時に、こちらの液体薬をスープの中にでも入れて彼に飲ませなさい。そしてあなたはあなたでその液体薬を別の所で飲んだら良いです」


そう言って彼女は持っていたバッグから

液体薬を2本取り出してきた。


ルナ「これは『In Rejuvenated Dream』と言う特製の液体薬で、これを飲めばあなたの夢は叶えられます。いいえあなただけじゃなく、あなたの事を1度でも愛した過去の旦那さんの気持ちも救われるでしょう。どうか信じて、私の言う通りにしてみて下さい。決して、あなたにとって悪い結末はやってきません…」


彼女はやっぱり不思議な人。

全く信じられない事でも、彼女に言われると信じてしまう。

その気になり、私はその液体薬を受け取って、

その日、家に帰った。


ト書き〈週末〉


そして週末。

私は彼女が言った通り、彼と2人で最後の晩餐をしようとしていた。

彼女があの日言ったように、

今日の為に作ったスープの中にあの液体薬を入れて。


でも彼は…


隆史「すまん、お前と2人で食べる気にはなれないよ。顔見てるだけでも辛(つら)いし、一緒に居るこの空気がもう…」


そう言って、それまでずっと

浮かない顔をしていた自分の本音を打ち明けてきた。


玲奈「なんで?…最後ぐらい…」


隆史「…どうして最後に君と食事しなきゃいけないんだ?そんなの辛いだけじゃないか。俺達、もう心の中で別れてるんだ。離婚手続きはもう整ってるよ。あとは君がハンを押して出すだけにしておいてある。これから離婚するまで、俺はビジネスホテルにでも泊まってくるから、君はここに居たら良い。慰謝料は払うからね」


そう言って本当に家を出て行こうとした時…


玲奈「嫌!やっぱり嫌ぁ!!出て行かないで!私を捨てないでお願い!私あなたのこと愛してるの!ほんとに愛してるのよ!なんでわかってくれないの!!ねえ!」


私は彼の背中を引っ張りながら、散々泣きわめいた。

でも彼の心は変わらず…


隆史「もうイイからやめてくれよ!」


と私を突き飛ばし、出て行こうとする。

玄関前の床に倒れた私はただ彼を見送るだけ。


(マンションの廊下にルナが現れていた)


でもその時、玄関から出たところの廊下に

あの人が現れて居たんだろう。


ルナ「おやおや、女性を突き飛ばすなんて、あなたひどいですね?1度でも愛した彼女なんだから、もう少し心に許容を持ってあげても良いんじゃありません?」


隆史「な、なんだあんたは?誰だ…?」


ルナ「私はあなたの愛した人の最も身近に居る女(ひと)。でも私が誰だってあなたには関係ありません。後ろを振り返りなさい。彼女、倒れてますよ?抱え起こして、抱きしめてあげないんですか?」


隆史「…」


そう言う彼女を彼は無視して無言で立ち去ろうとした。

その時…


ルナ「お待ちなさい…」(ひどく冷静に)


少し背中がゾッとする程の冷静な声で彼女はそう言い、

夫の肩を掴んだかと思えば

その首に注射器のようなものを突き刺した。


隆史「痛ッ!!ツツ…!な、何しやがった…」


そう言いながら膝から崩れ落ちた彼は、そのまま眠ったようだ。


そして…


ルナ「フフ、玲奈さん。あの時言ったように、今そのポケットの中に入ってる液体薬を飲みなさい。それで、悩みは解決よ…」


と私のエプロンの右ポケットに入ってる液体薬の事を言い、

それを飲めと言ってくる。

私はその通りにした。


ト書き〈パジャマ姿になった2人がベッドで手を繋ぎながら眠ってる様子を見つつ〉


ルナ「フフ、2人とも良い夢を見ているかしら?私は玲奈の理想と本心から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた」


ルナ「あの液体薬は2人を20歳頃まで若返らせる薬。そう、2人が出会った時よ。でも彼はそれを拒否したから、私が注射器で注入してあげたわ。そしてその液体薬のもう1つの効果は、飲んだその人を永遠に眠りにつかせて良い夢を見せながら、愛し合った当時の世界だけを与えてくれる…」


ルナ「女の執念を甘く見ないほうが良いわよ。こんなふうにその気持ちが形となって現れて、何がどうでもその夢を叶えようとまでするんだから。じゃあ2人とも、夢の中でお幸せにね。ずっと覚めないその夢で永遠に…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=sreDl-YZjls

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夢の若さ 天川裕司 @tenkawayuji

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