美しい人になりたい

天川裕司

美しい人になりたい

タイトル:美しい人になりたい


(1人部屋でお気に入りの美人の写真を見ながら)


「…はぁ。こんな美しい人になれたらなぁ」

私は江藻手(えもで)ルノ。


今年で30になる独身OL。

私は本当に不細工だ。

だから美女に憧れていた。


でも、もう諦めている。

ちょっとやそっと整形したぐらいじゃ追いつかない。

それにそんなお金も無いし時間も無い。


でもそうしていた時、ある人の噂を耳にした。

私が勤めてる会社に時々やって来る美人。

提携している会社のOLさんで、

その昔、都内でセラピストをしていたようで、

その傍らでは整形外科までやってたそう。


そんな2つの資格を持ってるなんてすごい。

なんて思いながら、

だんだんその人が来るうちに

その人の事を目で追うようになり、

ある日、ついにセッションを持つことができた。


彼女の名前は輪須似(わすに)エルさん。

変わった名前でセラピスト時代のニックネームでも

そのまま付けてるのかと思ったが本名だった。


(喫茶店)


エル「え?整形??」

ルノ「そ、そうなんです。エルさん、確か昔、そのお仕事されてたんですよね?」


私は直球でお願いしてしまった。

今の私を変えて欲しい。

何がどうでももう少し美人になりたい。

たった1度の人生だ。

そんな夢も、私も本当に少しぐらい味わいたい。


でもエルさんは、

「…ごめんなさい。あなたの言ってる事よくわかりますけど、私はもうとっくの昔にやめたんです」


エル「私にはあの仕事が向いてないと思って」


そう言うけど彼女の凄まじいほどの凄腕は

ここ界隈でも有名だったことがあり、

その噂は私もその昔、少し耳にしたことがあった。


彼女の事は私以外にも、

周りの誰もが大抵知っていた。

こんなお願いを、私の他にも数人して来たと言う。


実は間接的にだが、

私は彼女の事を少し昔から知っていたのだ。

某雑誌記事に紹介されていた彼女。


当時は整形セラピストとして

「人生の革命者」なんて有名人のように囃され、

彼女の元を訪れる人は本当に多かった。


そう、彼女はその時「ときの人」として輝いていて、

私もその時から彼女を知っていた。


でももう彼女は今地味なOLスーツに身を包み、

当時の華やかさ・オーラの様なものは隠していた。

だから初め気づかなかったのだ。


でもその彼女の事に気づいてしまった今は、

もうその事しか考えられない。

私は人何百倍も「美しくなりたい!」

と言う気持ちが強かった。


だから誰よりも本気でお願いした。頼み込んだ。

床に土下座する勢いで本当に頼み込んでいた。


エル「ちょ、ちょっとやめて下さい!」

ルノ「お願いですお願いしますから!どうか私を変えて欲しいんです!美しい、理想の自分に変えてください!!」


それだけ頼み込んだ時、

彼女はようやく折れたような顔で、

私に正直を話してくれた。


エル「ふう…そこまであなたは」

ルノ「お願いします!お願いしますから!」


エル「私がなぜあの仕事を辞めたかと言いますとね、私の手によって美しくなった女性は皆、自分の欲望に走るようになったからです」


エル「おそらくそれまでの人生の方が幸せだった。でも美しさを必要以上に手に入れてしまうと女性はみんな変わります」


ルノ「…え?」


エル「…あなたも今は純粋にただ『美しくなりたい』と願ってるようですが、あなたが思う以上の美しさを手に入れた時、あなたはその初心を忘れて必ず変わってます」


エル「そしてどのように変わるかと言えば、女性としての罪を犯す存在になるんです」


よくわからなかったが、

彼女は自分の仕事のせいで

その女性を変えてしまい、

その人が何かよからぬ事をするのを

嫌っていたようだ。

そのよからぬ事の大抵が浮気だと言う。


ルノ「わ、私は、私はそんなことしませんよ!絶対に!私に限ってそんなこと絶対にありませんから!」


とりあえずそんな事を言い、

やはり何がどうでも自分の願いを叶えて欲しい、

彼女にそれだけ訴え続けた。

すると彼女は…


エル「…実はその頃の自分の仕事を省みる上で、1つだけ、当時の仕事のボロをカバーできる仕事をまた見つけているのです」


ルノ「…なんですって」


エル「たとえ美しさを身に付けてもその人が変わらない、その保証を確約できる私の仕事。でもその仕事は今封印していまして、まだ発展途上でもあり、一般に公開できるようなものでは無いんですが…」


何か彼女は自分の世界に

入ったかのようにボソボソ呟き、

それをかすかに私に聞かせる感じで

自分の気持ちを伝えてきた。


でも「必要以上の美しさを手にできる」…

これが「想像以上の美しさを手にできる」に成り代わり、

「それに似た仕事をまた見つけている」と言うのが

「彼女にはまだそのセラピスト・外科医としての腕がある」

と信じ込まされることになり、

私はさらに本気でお願いしていた。

ただ「今の私をもっと美しくして」、

「理想の自分に作り替えてください」と。


(エルのアトリエのような治療室)


そして私はエルさんに連れられて

彼女のアトリエのような治療室に。


そこで私はずっと肌身離さず持っていたあの写真、

私の理想の全てが注ぎ込まれたような

美人の写真を彼女に差し出し、

「こんな感じにして欲しいんです」

と訴えていた。


彼女はそれを見てまず一言、

「…これは実写ではなくピクチャーですね?分かりました。ちょうど良かったです」

少しわからない事を言った後、

私は寝台に寝かせ、治療を始めてくれた。


寝てからすぐ、

エル「まずこちらをお飲み下さい」

とオレンジ色した

液体薬のようなものを飲ませてくれて、

一通りの説明を簡単にした後、私は眠りについた。


(ルノの部屋)


しばらくして目を覚ますと、私は自分の部屋に居る。

どうやってここに帰ってきたのかその記憶は無い。


(ルノの自宅を見上げながら)


エル「私の施術は人の肌をプラスチックに変えること。あの液体薬は人の内側から2次元の不思議をもたらすもの」


エル「こうすればあなたは自分から出て行って、罪を犯す事はもう無い。プラスティック製の良い人形が、あの部屋にあるだけだから」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=z9p-CyFDJsw

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美しい人になりたい 天川裕司 @tenkawayuji

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