二周目バッドエンドを阻止したい冒険者
だりょ
宿命と転生
第1話 インタビュー
「それでは、フィストさん。私たち冒険者ギルドによるインタビューを始めたいと思いますが、よろしいですか?」
「ああ、構わない。では始めてくれ」
ギルドの女職員は記録水晶を手に取った。
セミロングの茶髪が立ち上がる拍子にふんわりと舞う。
魔力を流し込み、水晶の中に刻み込まれた魔法を起動させる。
「じゃ、いきまーす」
俺たち二人ともが姿勢を正す。
というのも、あらゆる冒険者ギルドの施設でこの映像が配信される予定なのだ。
多くの冒険者だけでなく依頼をしに訪れた一般人までにも見られるらしい。
「さあ始まりました、『英雄特集』!本日のゲストはこの方!最強の冒険者と言われれば知らない者はいない、
「みんな知っているなんてそんなことは無いと思うが……まあ、
俺は非常に簡単に自己紹介をした。
そもそも自己紹介になっているのかは分からないが、事前の打ち合わせでは軽い感じで行こうという風になっていたので、別に今のでもいいだろう。
「さあ、フィストさんの名前は知らない人がいないと紹介しましたが、念のために簡単にプロフィールを紹介したいと思います。フィストさんにいくつか質問しますね。まず年齢は?」
「二十代半ばだ。見ての通り、まだまだ現役だな」
そう言ってある程度筋肉のついた腕を曲げ、力こぶを作ってみせた。
服に浮き出るほど筋肉があるという訳では無いが、それでも人並み以上あるとは思う。
「いい身体ですねー。出身はヒムリッシ大神殿と聞いていますが、その身体はそこでの修行の成果なのでしょうか?」
「俺がヒムリッシ大神殿にいたのは子供の時までだ。十五歳くらいまでだったかな?だが、それまではずっと修行――というか鍛錬に明け暮れていたな」
「そうなんですね。もしかしたら、今の戦闘スタイルもその時に確立されていたのかもしれませんね」
「それはあるだろうな。何せ、俺は『モンク』なんだから」
モンク――それは近接格闘を中心とした戦い方をする武闘僧のことである。
俺の今の職業はモンクなのだが、ヒムリッシ大神殿での経験がそれに影響しているのかも、と何度か考えたことがあった。
「では本題に入ってフィストさんにインタビューしていきたいと思います。魔素事件から五年近くが経ちますが、その時の苦難などがあればお聞かせ下さい」
「ああ、もう五年になるのか……。あの時は、そうだな……」
俺は少し考えた。
間近であの変革の瞬間を目にしたのだ、少し思うところはある。
慎重に言葉を選んで言う。
「まだ魔法が使えなかった当時の世界にとって、魔素や魔力が出現したというのは衝撃だっただろう。それに、まだ今のような知識が全く無い時期だった。ゼロから始めるのはなかなか大変だったな」
「フィストさんは魔法ギルドの前身となる魔法協会で、ギルド総長ブルーノ氏とともに研究の一線を走られていたとのことですが」
「ああ、そんな時期もあったな……」
俺はなんだか懐かしくなった。
もう一度あの時に戻ってみたいな。
「ブルーノだけじゃないさ。いろんな人の助けがあって今の俺たちがある」
「あれから五年、まだ日は浅いですが、多くの人の助力もあってここまで世界が成長できた、と?」
「それはそうだろう。ゼロから始まったんだ、一人では何もできない」
俺の脳裏には最も親しく最も信用ができる大切な友人たちの顔が浮かんだ。
みんなで試行錯誤し切磋琢磨していたあの頃。
今となってはいい思い出だ。
「フィストさんが切磋琢磨を重ねていたという五年前のことですが、フィストさんが大陸の中央都市アズリベルに滞在していた際に二度目の魔素事件が起こったそうですね。その時の心境をお聞かせ下さい」
その質問によって俺は一気に現実に引き戻された。
「あっ、二度目の魔素事件というのは、ダンジョンが数多く出現する原因となった事件ですね。ダンジョン事件という方が一般的でしょうか?」
彼女は記録水晶に向けて補足説明をする。
その間に俺は答えを急いで考えた。
「あの時はビックリしたな。それまでにはあり得ないようなことが起こったんだから」
「そうですよね。それまでは魔物も全く確認されていない時代でした。いきなり大量に発生したんですから、驚いたでしょう」
ここで彼女は一旦言葉を切る。
そして、間を置いて喋り始める。
「その後冒険者という職業が誕生しましたが、その誕生秘話なんかもあればお聞かせ下さい」
「そうだな……冒険者という名称なんだが、実はブルーノや俺を含んだ何人かで意見を出し合って決めたものなんだ」
「それは冒険者ギルド創設時ですか?」
「そうだ。全員違う意見を出していたから、かなり揉めたな」
ちなみに俺はダンジョンに潜る人ということで「ダン潜」というのを推した。
全員が自分の意見を推して揉めていたのだが、なぜか俺の案は満場一致の反対を食らった。
「そうだったんですね!そんな秘話も、多くの人に浸透した言葉一つにすらあったということなんですね」
彼女はこの話を上手くまとめてくれた。
「話は少し変わりますが、フィストさんが最強の冒険者というように言われているのは周知の事実です。最強の冒険者として、何か覚悟だったり考えていることとかは無いですか?」
記録水晶の容量のリミットが迫っているようで、彼女は大きく話を進める。
「んー、特には無いな。俺がブルーノに付き合って冒険者というものをやり始めたのは、魔物なんかに怯えることのない平和な世界にしようという、俺の決意だった。そういう意味では、それが考えていることなのかもしれないな」
俺は思っていることを話した。
ちなみにその決意をしたのはダンジョン事件の少し後のことである。
「平和な世界を目指して魔物と戦うというのはすごく立派なことだと思いますよ。そんなに謙遜しなくていいですからね」
別に謙遜してるわけじゃないんだが……。
「それでは、最後の質問です。今となってはクラスチェンジ専用のジョブも見つかり、クラスチェンジが簡単になりました。なのに、武器よりもリーチの短い拳での戦いをずっと選択しているのはどうしてですか?」
俺は即答する。
「答えは簡単だ。魔物?ボス?そんなもの拳で十分だからな」
女職員は記録水晶を停止させた。
俺たちは緊張から解放されたことで力が抜けて、座っていたソファーにもたれかかった。
「ふー、疲れましたね。フィストさんもお疲れ様でした」
「その記録水晶、どれくらい容量が余ったんだ?途中残量を気にしていたが」
彼女は記録水晶を手に取り、魔力を使ってそれを調べる。
「結構ギリギリですね。正直、あと一つ質問を挟んでいたら容量オーバーになっていました」
「結構短いよな、その記録水晶。デライアの研究だったか」
「確かそうだったと思います」
「もっと時間を長くできるように言っておいたらどうだ?」
「そうしたいところですが、デライアさんも忙しいですからね……」
「そうだったな。何だかんだ言って、あのメンバーの中で一番暇そうにしてるのは俺くらいだな」
「そんなことは無いと思いますよ。でも、私も忙しいですし、結局そうなっちゃうんですかね……」
そんな話をしている間に、彼女は帰る支度ができたようだ。
「今日は冒険者ギルドの方まで呼び出してすみませんでした」
「いや、いいんだ。距離でいえば結局セウンさんの方が長い距離を移動したんだから」
「それだったらいいんです。では、これから帰ろうと思います。またどこかで会いましょう」
「ああ、またな」
彼女は帰ってしまった。
俺は一人、冒険者ギルドの応接室に残っていた。
「あの、フィストさん?そろそろ部屋を……」
いつまでも部屋を出てこない俺に、ギルド職員の女性がおそるおそる声をかける。
「あ、悪い悪い。今出るぞ」
そして俺はソファーから腰を上げた。
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