就活哀歌!

崔 梨遙(再)

1話完結:1100字

 その日、僕は面接で某ハローワークに来ていた。その日は、そのハローワーク内のミーティングルームを使っての面接があったのだ。


 僕は面接には余裕を持って早く来る。早く到着していないと落ち着かないのだ。そして、10分前には“来ました”と言って面接に挑む。だが、30分前に着いていたので、流石にこれは早すぎる。時間潰しに待合席に腰掛けて携帯をいじる。すると、僕の隣に1人の女性が座った。求人票のファイルを閲覧している。


 ものすごく美人だ。だが、ここは障害者専用の窓口。この女性も障害者なのだろうか? 僕が見た範囲では、僕が見てきた障害者の中で1番の美人だ。長身、スレンダーな身体にライダースジャケット、ファッションセンスも良い。僕はその女性に惹かれた。一緒にコーヒーを飲みたい。一緒に食事したい。


 だが、そこで邪念を振り払う。僕は真面目に面接に来ているのだ。女性を口説くなんて許されないだろう。ああ、だが、気になる! 声をかけてみたい。親しくなりたい。僕は統合失調症だが、その美人は何の病気なのだろう? その美人のことが知りたい。そして僕のことを知ってほしい。


 いや! ダメだ! ダメだ! アカン! アカン! こんな煩悩に溢れた状態で面接に挑んではいけない。僕は違うこと、面接のことだけを考えて煩悩を打ち消した。



 やがて、面接の僕の番号が呼ばれた。試験官は2人。ここまで来たら、美人のことなんて忘れる。僕は、面接に集中出来た。いつものことだが面接は緊張する。落ちれば落ちるほど緊張する。就活の最初の頃よりも、今の方が絶対に緊張している。


「志望動機を教えてください」


 来た! 僕が聞かれると予想していた質問だ。僕は答えを用意していた。簡潔に答えないといけない。と思いつつ、緊張で少し長話になってしまった。残念。


 すると、面接官の1人が言った。


「では、今から言うことをメモしてください」

「はい!」

「来週のどこかで1日、見学に来てもらいます。再来週は月曜から金曜まで1週間、体験実習に来てもらいます。その間、給料も交通費も出ません。そして、その翌週に2次面接です。メモしましたか?」

「はい! メモしました」

「それでは、今日の面接は終わりです。見学の日時は連絡します。お疲れ様でした」


 いやいや、疲れてねーよ! これだけ? これだけなのか? 面接、5分もかからずに終わったぞ。メモしただけじゃないか。なんやねん、この面接は? 障害者だからなめられているのだろうか? もっと質問するこはあるだろう!


 僕は退出して、さっきまで座っていた場所まで戻った。美人さんは、もういない。



「嗚呼……」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

就活哀歌! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る