No.05 通話記録

(通話機越しの雑音と思われる喧騒が混ざり、音声判別が難しい状態)


女性の声:はいはい、どーしたの。友達と出掛けてる時に電話なんて珍しいわね。


少女の声:お、おか、おかーさん……う、ひっく。ひっく……


女性の声:何? 泣いてるの? 何かあったの?


少女の声:わ、わかんない……う、えぐ……い、いきなり、たくさんの、ひ、人に、囲まれ、て、友達とも、はぐれ、ちゃって……


女性の声:囲まれた? まさか、ゆ、誘拐されたの!? 今何処にいるの!?


少女の声:う、ううん、違う……ひ、人混みで、はぐれて……ここ、どこか、わかんないし……


女性の声:そ、そう……怪我とかはしてないのね? 体調も平気?


少女の声:うん……でも、さっきから、なんか、どかんっどかんって、花火みたいな音もしてて……


女性の声:花火?


少女の声:そ、それで、周りの人が、中国が責めてきたとか、ロシアがやってきたとか、言ってて、怖くて、ど、どうしたら……分かん、なくて……


女性の声:もう、そんなの嘘っぱちよ。中国もロシアも、あんたがいる横浜からは遠いじゃない。それにもし本当に外国から戦争を仕掛けられたなら、今頃テレビで大騒ぎよ。だから安心なさい。


少女の声:で、でも、みんな言ってるし……


女性の声:そのみんなも怖くてあれこれ言ってるだけよ。ほら、テレビを点けてもそんなニュースは……


少女の声:おかーさん? どうしたの? なんで黙ってるの?


女性の声:す、すぐに何処かの建物の中に隠れなさい! それと頼れそうな、お店の人でも誰でも良いから傍にいるの!


少女の声:な、なんで? どうして


(爆発音が聞こえる。喧騒が一際大きくなる)


少女の声:きゃああっ!?


女性の声:な、何!? 何が起きたの!? 大丈夫なの!?


(喧騒と悲鳴が響く)


少女の声:なんなの!? 何、が、ひっ!? か、か……


(続く爆発音と悲鳴。建造物の倒壊音が聞こえてくる)


少女の声:や、やだあぁ! いやぁぁあぁ! いやああぁああ!


女性の声:落ち着いて! と、兎に角遠くに逃げるの! 逃げれば警察が助けてくれるから! 早く!


少女の声:逃げられないよぉ! ま、ま、周りの人が、邪魔で、動けないの!


(爆発音が大きくなる。倒壊音と悲鳴が近い)


少女の声:やだやだやだ! なんで、た、助け、ひ、ぃ、きゃああああああああああああああ!?


(通信機器を落とした音)


少女の声:きゃあああああああああああああああ! いやああああああああ


(崩壊音と共に音声が途絶)


女性の声:ど、どうしたの!? ねぇ! お願い、返事をして! ねぇ!? あ、あぁぁ、た、助けに、助けに行かないと……


(通信終了)

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