第13話:スライムさん舐めてました

「行ってきまーす!」

「油断するでないぞ。ビギナーにとっては手強い相手じゃ。傷を負ったら、ホームに戻って休むのもよい。全て退治してさえくれれば、何日かかっても構わんからの」

「はーい!」

「気をつけるのじゃぞ!」


 スライム爺さんがくどいくらい念押ししてくる。

 美少女冒険者だから心配してくれるのかな?

 可愛いって罪だ。


          ◇


 一体目のスライムを倒した後、へたり込んでしまった。

 ……スライムさんを舐めてました。

 素早いわ攻撃が痛いわヒットポイント自動回復持ってるわ、考えていたより数段強い。

 スライムってマジで最弱クラスの魔物なん?


 いや、だってテストモンスターには楽勝だったし、今はスライムに強い『アンチスライム』装備してるんだぞ?

 ふつー軽く勝てるって考えるだろ。 


「……ユー様、どうしましょう。帰りますか?」


 ムリはしたくない。

 が、幸いクララのマジックポイントには余裕がある。


「装備と戦術を見直して、もうひと当てしてみよう」


 戦術に誤りがあった。

 原因の一つが爺さんにもらったカード。


 『アンチスライム』【スライム特攻】、攻撃力+二〇%


 この【スライム特攻】というやつが、あたしの装備している『スラッシュ』の【斬撃】と同じで攻撃属性扱いなのだ。

 つまり装備してりゃブレードが出るので、物理攻撃が可能になる。

 今まで物理攻撃できなかったクララに装備させて、二人で殴った方がよくね? と考えたのが失敗だった。


 クララの装備していた『エルフのマント』が曲者だ。

 魔法防御と敏捷性が増強され回避率が格段に上がるものの、防御力自体は上昇しない。

 結果クララが攻撃を食らい、かなりのダメージを受けてしまった。

 クララは回復に追われ、攻撃があたしのワンオペになってしまうという悪循環。

 ヒットポイント自動回復持ちのスライムに対して、明らかにまずい展開だった。


「やっぱ敵に近付かなきゃいけない物理攻撃はあたしの担当だな」

「ではユー様が『アンチスライム』も装備して、ですね」


 一方で先ほどの勝利で、あたし達は二人ともレベルが二となった。

 クララが単体攻撃風魔法『ウインドカッター』を覚えた。

 クララは最初から回復魔法『ヒール』を使える白魔法使いだが、風魔法も習得するらしい?


「盾役は任せて。クララはダメージ受けないように、もっと引いたポジションで魔法よろしく。攻撃魔法使うなら今覚えた『ウインドカッター』使って。多分『プチファイア』より大きくヒットポイント削れるから」


 マジックポイントを節約して『プチファイア』でチマチマ攻撃するより、ガツンとダメージ与えて素早く倒した方が、結果として消費マジックポイントが少ないのではないか?

 特にヒットポイント自動回復持ちのスライムに対しては。


「はい、わかりました」

「よーし、次行ってみよう」


 二匹目のスライムと対戦だ。

 牧場のスライムはぷにぷにして愛らしいのに、どーしてこいつはぷにくらしいのか?

 ああもう、レッツファイッ!


 小癪にもステップを踏んで跳びかかってくる。お返しの斬撃! レベルアップと『アンチスライム』装備のおかげか、さっきよりかなりダメージが入るぞ。クララのウインドカッター、これなら安定して戦える!


 二ターンで二匹目のスライムを倒した。

 メッチャ余裕があったぞ?

 レベルと戦い方は大事だな。


「まだやれるね。もう一匹だ」


 結局五匹全て倒した。

 見渡したところ、もういないね。

 爺さんのところへ報告に戻る。


          ◇


「ほう、五匹全部退治したとな? 実戦は初めてなのじゃろう? 普通一人で初陣じゃと、一匹のスライムを倒せるかどうかじゃ。二人がかりであっても、一日五匹倒したのは大戦果じゃ」


 そお?

 一匹ずつだから倒せたけど、五匹の群れだったら絶対勝てなかったぞ?


「さて、質問があれば受けよう」

「そもそも『アトラスの冒険者』って何なの?」


 小細工いらん。

 ズバリ聞いてみた。


「『地図の旅人』、『ドリフターズ』などと呼ばれることもある。『地図の石板』に導かれる冒険者のことじゃ。石板は現状に退屈している若者のところへ届くと言われているが、案外そういう者だけが得体の知れない転送魔法陣に身を任せるのかもしれぬ」


 身に覚えがあるわ。


「ここには大したものはないが、普通は素材やアイテム、薬草等を採集するのもクエストの立派な目的じゃ。背負い袋か何かを持ってゆくのがよいぞ」

「なるほど!」

「転送先がダンジョンならば、松明や『光る石』などの明かりも必要じゃな」


 ふむふむ。

 ためになるわー。


「主催者とゆーか、一体誰のどんな思惑でこんな大掛かりな組織が作られているんだろ?」

「いろんな説があるものの、実のところ全くわからん。チュートリアルの職員は主催者側じゃが、下っ端なので肝心なことは何も知らんぞ」


 下っ端に同感。

 どっちにしろ『アトラスの冒険者』に関してバエちゃんに切り込むのは、警戒させるだけ損だ。


「パワーカードについて教えて欲しいの」


 爺さんは眉を寄せて首を捻った。


「お主らの方がよく知っとるかもしれんよ。一〇〇年ほど前、とあるドワーフが生み出したという。火や回復魔法を手軽に使う手段だったとも、精霊が戦うことでしか解決できない問題があったとも聞くな」

「どうやって手に入れればいいかなあ?」

「ワシに『アンチスライム』をくれた冒険者じゃがな。新しいパワーカードを作ってもらうために素材を集める、と言うておった。当時はまだ製造されておったのじゃが、今は知らぬ」

「素材、か……」


 カードの入手場所が不明なのは不安だ。

 しかし今でも作られてる可能性もある、と。


「他に何か、注意した方がいいことはあるかな?」

「何かを譲ってくれというクエストは比較的多いから、特に手に入れづらいアイテムを手に入れた場合、換金はよく考えるべきじゃろう。安全のため、可能ならポーションなどの薬品は切らさぬようにな」

「ありがとう! すごく参考になった!」


 歯の少なくなった口を開けて笑うスライム爺さん。


「『スライムスキン』が必要なら安く売ってやるでな、何かあったらまた来るがよい」

「はーい」


 スライム爺さんに別れを告げ、転移の玉を起動させた。

 と同時にアナウンスが入る。


『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』


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