破天荒少女は冒険者になり(中略)世界の王と呼ばれたのでした
uribou
第1話:自称女神と夢の中での攻防
「ううん……」
睡眠は眠るに似たり、とゆーか同じだ。
暦の上では夏も終わりの日のはず。
なのに暑い、寝苦しい。
あたしは本来、メッチャ寝付きがいいのになー。
隣のベッドの精霊クララはまだ本を読んでいる。
あたし? あたしはふつーの人間だわ。
ふつーじゃなかった。
とびきり可愛いと自分の中で大評判の一五歳美少女だわ。
世界一の大国であるカル帝国の植民地ドーラの片隅、村からも少し離れた一軒家に、クララと二人で住んでいる。
「ユー様、おへそが丸出しですよ」
「あたしの魅力的なおへそが存在を主張したがるんだよね」
「もう、お腹壊しますよ?」
クララが笑う。
暑いせいだわ。
いや、夜も更けてさすがに少し気温も下がってきたか?
チャンスだ。
今なら眠れる。
クララに一冊本を借りる。
あたしはつまんない本を読んでいるとすぐ眠くなるとゆー、特技を持っているから。
退屈な生活の中、数少ない楽しみである睡眠の時間をこれ以上削られてなるものか。
徐々に眠りに落ちていくのを自覚する……ぐう。
◇
「……さん、……ラシアさん」
……どこからか、あたしを呼ぶ声がするような。
気のせいだろうか?
「もうし、ユーラシアさん。ユーラシア・ライムさん」
あ、やっぱりあたしを呼んでた。
しかし知らん声だ。
あーんど眠い。
無視だ無視。
「精霊使いユーラシアさんったら!」
「もーうるさいなあ。乙女の睡眠を邪魔する不届きなやつは誰だ!」
……ん? どこだ、ここ?
白くもやのかかったような、見覚えのない部屋の中だ。
経験したことのない、フワフワした足元の覚束ない感覚。
ははあ、これは夢だな?
昨晩確かに寝た覚えがあるし。
目の前の薄着でたわわですげー美人のお姉さんが、物憂げな眼差しであたしを見つめている。
やはり知らない人だ。
しかしあたしが『精霊使い』と呼ばれていることは知っているらしい。
人の出入りの少ない故郷の村で言われてるだけなのにな?
「誰かな? あたしの確かな記憶力を総動員しても、あんたの存在感のある胸に見覚えがないんだけど?」
「ユーラシア・ライムさん。私はこの世界を統括する女神です。あなたの意識に直接アクセスしています」
「へー、なかなか器用な技だね」
軽くウェーブのかかった薄い色の金髪に、何かの木の枝で作った冠を載せた自称女神が、憂いを含んだ声で続ける。
「あなたはカル帝国との戦争で、勇敢に戦いました。しかし残念ながら、命を落としてしまったのです」
おいこら、帝国と戦争なんて起きてないじゃん。
戦った覚えもないわ。
あんたが登場するまでぐっすり寝てたわ。
いや、そーゆー設定の夢なのか。
「ユーラシアさんの英雄的行動は、犠牲者をほとんど出さずしてドーラを独立に導くことに成功いたしました」
この自称女神、まだ暑い季節とはいえ、けしからん格好だなあ。
薄着過ぎるんじゃないの?
おっぱいがこぼれそう。
誰に対するサービスだ。
「生き返ることはかないません。が、ユーラシアさんの古今類を見ない功績に敬意を表し、二度目の人生を御用意させていただきました」
自称女神の喋ってる内容がちょいヘビーで、格好とそぐわないなあ。
二度目の人生ってどーゆーことだ?
まず今の人生をしっかり満喫させろ。
「次の人生では素晴らしいギフト、地位・財産・名誉・美貌・カリスマのいずれかを、最高ランクでプレゼントいたします。どれをお選びになりますか?」
今の人生、問題はそれだ。
半年前に一五歳になって成人した時、故郷の村を出て独立した。
しかし思ったより退屈な生活に若干飽きがきている。
薄着女神よ、あたしの人生を彩る何かを提供してちょうだい。
急になじるような口調になる自称女神。
「もう、ユーラシアさんったらまるで上の空なんですから。私の話している内容を、きちんと理解していらっしゃいます?」
「もちろん理解してるよ。あたしがよく働いたから、最高ランクの地位・財産・名誉・美貌・カリスマをくれるんでしょ? 御褒美ありがとう」
「わかってないじゃないですか。いずれか一つだけですってば」
「あたしは元々最高ランクの美貌とカリスマを持ってるだろーが。一つに減らされちゃうってどんな罰ゲームだ!」
何だその女神っぽくない、面倒くさそーな表情は。
せっかくいい配役なんだから、もうちょっと頑張れ。
「我が儘言わずに……ねっ? 財産なんてお勧めですよ。お金があれば大体何でも望み通りになります。マネーイズパワー!」
「あれ、あんまりらしくないセリフだね? 女神って愛とか勇気とか希望とかで人々を煙に巻く商売なんじゃないの?」
「女神に対してどんなイメージをお持ちか存じませんけれど、私達は給料制なのです。世知辛いのです」
「おおう。えらく現実的だね」
設定がおかしくなってきたぞ?
何だ給料制の女神って。
夢なのに夢がないだろ。
「どこの世界でもどんな立場であっても、生きてゆく術を確立することが大変というのは同じだと思いますよ」
「賛成できる意見だねえ。となるとあたしもあんたと交渉して、少しでも有利な条件を獲得しなければならないわけだけど」
話が本筋に戻ったからか、ようやくニッコリする自称女神。
「私に可能なことは先ほど申し上げました通り、ユーラシアさんに地位・財産・名誉・美貌・カリスマのいずれかを最高ランクで差し上げ、転生させることだけです。どれをお選びになりますか」
「ケチケチするのは美徳じゃないぞ? 一つと言わず、全部寄越しなよ」
「えっ、どうしてそんな力が? あっ、あなた生身じゃないですか!」
今頃慌てたって遅いわ。
「ピチピチの美少女だぞー。まいったか!」
「ど、どういうこと? 死後の意識にアクセスしているはずが、ひょっとしてユーラシアさんの夢の中なの?」
「いえーす、あたしの夢の中だよ。あんたは女神を自称する不法侵入者」
「あっ、時間が一〇〇日近くもずれてる! まだ何も始まっていない?」
「うるさいなー。ギフトをもらい損なって目覚めちゃったらどうするつもりだ。あたしはしっかり者なので、くれると言ったものはもらう主義だぞ?」
「せ、石板を拾ってください! そこから全てが……あーれー……」
石板とは何だろう?
そこから全てが何だ?
白いもやが濃くなり、遠ざかってゆく自称女神。
あ、また眠くなってきたぞ……ぐう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。