2章 2部

エリザ家のヒモな元社畜①




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 さてさて、俺が九十九を通り越してエリザに直談判するという、あの反逆の日から数日後。俺はなんとかこうして生き永らえてはいます。 まぁ、辛うじてだけどもね。


 ちなみにあの日、俺は九十九の手によってたっぷりと搾られ、ボロボロのボロ雑巾みたいにされましたとさ。もちろん、性的な意味じゃないよ。暴力的な意味合いでだよ。


 最終的に土下座をして許しを請い、蔑むような目で見下ろす九十九を前に、俺は必死になって謝罪をした。プライドとか尊厳とか、そんなものは一切合切捨てて、ただただ平謝りしました。だって仕方ないじゃん。怖かったんだもの。


 そんな俺の情けない姿を見て、九十九は深いため息を吐いた。その後、俺にこう告げてきたのだ。


「これに懲りたら、二度と同じような真似はするな。次はこんなものでは済まさないからな」


 てな感じに、そんなこんなで何とか奇跡的に許してもらえたわけですよ。ええ。 本当に助かって良かったと思うよ。あの時は死ぬかと思ったからね。マジで生きた心地しなかったよ。


 と、まぁ、そんな後日談があったことはさておいて……それで結局のところ、俺に関する待遇はどうなったのか。どういった風に変わったのかという話だが。


 端的に言えば、割と良い感じに落ち着いた。それに尽きると思う。嘘だと思うだろ?  信じられないかもしれないけど……本当なんだよな、これが。


 というのも……一応、あの後でエリザと九十九の二者間における、俺に関する協議が行われたんだ。流石に俺からの意見を無視する訳にはいかないと、エリザが気を利かせてくれたおかげでね。


 で、色々と二人で話し合いをした結果、多少なりとも待遇面での改善が必要だろう、という方向で話はまとまったようだ。これには俺も驚いたよ。普通に現状維持だと思ってたからな。


 なんでも九十九は終始、俺への待遇改善は必要ないと断固反対の姿勢だったんだが、エリザが『ボクはいいと思うな』と、どこぞの超神みたいな感じの主張をしてきたことで、九十九も渋々ながら折れることになったらしい。


 こうなった背景には、まさかの俺が言った言葉が効いていたようで。あの時、俺はエリザに提案をした際に『もしかすると、血が美味しくなる』と言ったんだが、それがどうやら功を奏したらしい。それを受け入れてくれたからこそ、得られた成果というわけですな。


 ただ、俺の主張が完璧に認められた訳じゃなくて、多少なりとも妥協がされた折衷案に落ち着いたみたいではある。それでも、以前と比べてみれば全然マシになった方だと思う。ブラックからややグレーになったという感じかな。


 具体的には……まず最初に外出禁止だったのが、出掛けてもいいと認められたということ。ただし、出掛ける際には必ず監視という名目で、九十九がもれなく付いて来るという条件付きではあるが。とはいえ、今までと違って出歩きが許可されたのは大きいよね。


 それから次にお小遣い制が設けられたということ。毎月決まった金額を九十九から渡されるようになったんだ。具体的な額としては2万円。これで好きな物を買うのも良し。貯金するのも良し。自由に使っていいとのことだ。


 俺の手元に自由に使えるお金が手に入るようになったということで、娯楽という心の栄養を享受することが出来るようになりましたよ。これについては素直に喜んでおいた。正直、嬉しかったしね。やったね。ひゃっほい。


 けど、お金持ちのくせして、お小遣いで渡す金額が2万円とかしょっぱくないですか? いや、そりゃ贅沢をするつもりは無いんだけどさ。もうちょっとあってもいいんじゃないって思うわけなんですよ。


 それを言い渡された時、俺がそんな風に心の中で文句を垂れていると、それを察した九十九に『金額をもっと下げてもいいんだぞ』と言われてしまった。もちろん、すぐにゴマをすったよ。撤回されたくなかったのでね。


 それから最後に食事内容の改善について。俺が一番求めてやまない案件だったんだが……これについてもなんとか改善をしてもらえることになった。


 ……でもね。改善されたにはされたんだが……変わった部分は味のみで、見た目はディストピア飯のままだったんだよね。美味しいけど見た目は残念。これってどうなの?


 けれども、まったく美味しくない食事をさせられるよりかは、随分と良くなったと思う。味だけでも改善されたのは非常に大きな進歩と言えるだろうね。もう苦しまなくてもいいって考えると、本当に素晴らしい。


 こういった感じで、ひとまずはこれぐらいの改善がなされたという訳なんだ。まだまだ改善すべき点は残されているものの、今はこれでも十分だろう。後はまた今度、地道にコツコツと主張をしていき、徐々に変えていけばいいだろうしな。


 それと余談だが。こうした改善内容に落ち着いた際に、断固反対派の九十九が『不本意だが、誠意は見せた』と発言をしていた。いや、なんだよ。その言い方はさ。お前は政治家かなんかかよ。


 とにもかくにも、これでようやく少しは自由を謳歌出来るようになったのだ。ここまで短いけど辛く苦しい道のりだったが、これからは充実した日々を過ごすことが出来るだろう。


 そう思うと共に、俺は内心でガッツポーズをした。さぁ、ここから再スタートだ。俺の華麗なるヒモ生活、新たな門出というやつですよ。




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