Re:吸血姫幼女と送る、愉しい軟禁生活⑧
「いいか、エリザ。俺からの提案は全部で3つある」
俺はエリザに向けて、指を3本立てて見せた。それに釣られて彼女は首を傾げる。
「3つ? 1つだけじゃなくて、そんなにあるの?」
「あぁ。血を良くする為には、それくらいは必要だと思うからな。名付けて、3本柱作戦だ」
そう。俺の待遇面を大きく変える、もしくは改善するには、これくらいのことをやらないとダメだと思う。だからこそ、その為に考えた3本の柱だ。決して、友情・努力・勝利のジャンプ3大原則じゃないからね。
「まず1つ目が……『外出の自由』だ。この家の中だけじゃなくて、普通に外に出られるようにして欲しいんだ」
俺は人差し指だけを立てて、エリザにそう告げた。食事や待遇面の改善も大事だけども、今の軟禁生活からの解放についても、必要不可欠な要件でもある。
人によっては外出しなくても平気な人もいるかもしれないが、残念ながら俺はそうじゃない。ずっと巣ごもり状態でいたら、まず間違いなく気が滅入ってしまうだろう。散歩とかでもいいから、適度な気分転換も必要だからね。
それになによりもいい加減にエリザの家から出て、しっかりと外の空気を吸わないと、ストレスでどうにかなりそうだしな。たまには久しぶりに外食とかしてみたいしね。健康食ばかりじゃなくて、ラーメンの味だとか、ジャンクな味わいが恋しいんだよ。
「夜型の生活をしているエリザには分からないかもしれないが、太陽の下で外を自由に動き回れるっていうのは、とても大事なことなんだよ。植物だって光合成なくして成長しないのと同じように、人間もまた太陽の光を浴びないと健康にはなれないんだ」
「ふむふむ。なるほど、なるほど」
「俺が逃げるかもしれないという懸念があるのなら、監視付きでも構わない。とにかく、どんな形でもいいから外に出られる権利が欲しいんだよ」
そして俺はそれを言い終えると同時に、人差し指と一緒に中指も立てる。それから口角を少しだけ上げて、次の提案を彼女に向けて宣言をする。
「次にお願いをしたいのは『娯楽の解禁』だ。具体的に言うなら、スマホとかパソコンでのインターネットの閲覧や、漫画やゲームなどを購入したりする。そういったのを認めてくれないか?」
そう言って俺は2個目のお願いを彼女に伝える。これを九十九に告げたのなら、間違いなく一蹴されるであろうお願いだ。あいつのことだからおそらく、『家畜如きのお前が、分不相応な物を望むな』とでも言うだろうな。容易に想像が出来てしまう。
「娯楽、かぁ。それってヤシロにとって必要なものなの?」
「そりゃ必要さ。大いに必要だね。あると無いとでは、はっきりとした差が生まれてしまうからな。それに娯楽のような息抜きが無いと、人間はたちまちに死んでしまうものなんだよ」
「へぇー、そうなんだね。けど、チヅルからはヤシロにそういった物はいらないって言われたけど」
「……えっ、マジで?」
チヅルって、九十九のことだよな? おいおい、嘘だろ。あの女、なんてことをエリザに吹き込んでくれてやがるんだ。娯楽はいらないとか、ふざけんなよ。もしストレスで禿げたりしたら、どう責任を取ってくれるんですかね?
まっ、トリアーエズ今はエリザのそうした間違った認識を正す必要がある。今後の優雅で円滑な生活を送るためにもね。
「いいか、エリザ。それは罠だ。九十九が俺を陥れるために仕組んだバナナ」
「バナナ?」
「失礼、噛みました。本当は『罠だ』が正しいです」
粉☆バナナと身体全体を使って表現をしてみたいところだけども、そこはぐっと堪えて真面目な表情を作る。そして俺は咳払いをしてから、再び口を開く。
「人間にとって娯楽をいうものは、心の栄養なんだ。それが無いと、いくら身体的に健康になったとしても、いらないストレスを抱えてしまって、どうにかなってしまう。つまり、いつまで経っても俺の血は美味しくはならないままなんだ」
「おいしくならない……それはちょっと困るかも」
「だろ? だからこそ、この家にも娯楽を取り入れる必要があるって訳なんだ。それにその恩恵は俺だけじゃなくて、エリザや九十九にも得られるものだから、絶対に導入するべきだと俺は思う」
「えっ、ヤシロだけじゃなくて、チヅルにも恩恵があるものなの? なら、取り入れた方がいいのかなぁ……」
そう呟きつつ、エリザは首を傾げながら考え込む仕草を見せた。よしよし、いいぞ。俺だけじゃなくて、九十九も引き合いに出したからこそ、彼女も前向きに検討してくれそうな雰囲気が出ているじゃないか。このままの感じで、最後の提案にいってみようか。
「で、これが最後のお願いになるんだが……それは『食事内容の改善』だ。これは最重要案件と言ってもいいくらい重要なことなんだ」
これは俺としては早急に改善するべきだと思っている項目であり、現状維持のままでは俺の未来は真っ暗闇、というか現在進行形でディストピアである。せめて、まともな食事を摂りたいのだ。
「エリザや九十九が俺の健康改善の為に、尽力してくれているのは身に染みて分かっている。食材から調理法に至るまで、手間暇かけてくれていることも知っている。が、それだけじゃあ俺の身体は健康にはならないんだ」
「……そうなの? でも、チヅルからは少しずつ良くなってきている、って聞いたけどなぁ」
「そうだな。確かに良くはなりつつあるだろうな。……数値的には、な」
「……?」
「さっきも言ったが……いくら身体が健康になっても、心に栄養が行き届いていなければ意味が無いんだ。なので、栄養や健康だけに気を遣うんじゃなくて、もっと味や見た目にも拘ってほしいんだよ」
というか、味についてはエリザだって分かるはずでしょ。なにせ俺の血がマズいって言って改善を促しているんだからな。それと同じで、俺も美味しい食事を求めている。それだけの話なんですよ。
「という訳で、この3つの提案をどうか受け入れて欲しい。俺も血が美味しくなるように努力するから、その見返りとしてこれらの要求を認めてくれないか?」
最後にもう一度、頭を下げる俺。そしてそのまま返事を待つことにする。さて、エリザはどう出るかな? 場合によっては、ここからおねだり交渉が始まるぞ。やだやだ! 認めてくれなきゃやだ!! ってな感じでな。いい歳した26歳の成人男性が、見苦しく駄々をこねるという、情けない姿を見せつけてやるぜ。
「えーっと……どうすればいいのかなぁ……」
対するエリザは未だに悩んでいる様子だった。顎に手を当てて考え込んでいる様子である。まぁ、エリザからすれば九十九に丸投げしていた問題だからな。それを俺が九十九を飛び越してエリザに直接頼んでいるという構図なのだから、どうすればいいのか悩むのも当然だよね。
「……うん、わかった。ヤシロにとって、それが必要だって言うなら、そうした方がいいのかもね」
「マジかっ!」
ここでようやく結論が出たのか、エリザはそう言って頷いてくれた。思わずガッツポーズを決めてしまう俺。無理かもと思っていた勝訴を勝ち取った瞬間である。
やはり、九十九にばかり文句を言うのではなくて、エリザに直談判をするという俺の考えは間違いじゃなかった。流石、俺のネゴシエイション能力。撃墜された味方ユニットの修理費をゼロにするぐらいには優秀だぜ。……それは言い過ぎだね、うん。
「ありがとう、エリザ。そう言ってくれて、俺は本当に嬉しいよ。感謝しても足りないくらいだ」
俺は本心からの言葉を彼女へ告げる。これでようやく、ちゃんとしたものが食べられるようになるんだ。こんな嬉しいことはないよ。そう思うと自然と表情が緩んでくるのがわかる。俺の心の中にいる天パ頭の男の子も、これにはにっこり顔だぜ。
「そこまで言われると、なんか照れちゃうなぁ。えへへ」
すると、エリザは微笑ましい笑みを浮かべながら、口元を押さえて照れくさそうに言った。うんうん、可愛いなぁ。やっぱり天使だよ、この子は。大天使エリザエルだ。これから毎日、彼女を拝もうぜ?
「じゃあ、ヤシロが言ってくれたその提案なんだけど……さっそくチヅルに相談して、どうするか考えてみるね」
「…………へ?」
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