2章
2章 1部
Re:吸血姫幼女と送る、愉しい軟禁生活①
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……退屈だ。俺は思わずそんな呟きを漏らしていた。
太陽が真上に登った真っ昼間の時間帯。俺は自分の寝床となったあのベッドの上で寝転びながら、ぼーっと天井を見上げていた。
「暇だなぁ……」
続けてそんな言葉が自然と口から出てくる。けど、その言葉に応える相手は誰もいない。だって、この部屋にいるのは俺だけだからだ。
さて、俺が何をしているかといえば……ご覧の通り、暇を持て余している。何もすることが無く、ただただ寝転んでいる。そんな状態だ。
本当なら今頃、会社で激務に追われつつ、枯渇していたエネルギーを満たす為、カフェインを補給しているはずだ。……はずだったのだが。
というのも俺は今現在、無職だから。つまり、ニートということだ。昔風に言えば自宅警備員。もしくは子供部屋おじさん―――いや、それは別に働いている場合もあるから、ニートとは少し違うか。
「まぁ、実際には無職じゃなくて、暫定無職。そして絶賛無断欠勤中なんだけどね」
誰に言うでもなく、そう独り言ちる。だって、事実だもん。仕方が無いじゃん。会社に籍が残ってしまっている以上、そういう扱いになってしまう。でも、いつかは消えるかもね☆
なんていうか、その……俺はあの日、エリザに連れ去られてから一度も自宅に帰れていない。ていうか、エリザの住処から出られず、ほぼほぼ軟禁状態みたいなものだ。
そんな日々が既に1週間が経過してしまっている。俺が寝ていた期間も合わせれば、10日。その間、職場に連絡の一つも入れていない。てか、入れられないんだよ。
つまり、今の俺の状況を明確に表すのであれば、行方不明といった方が正しいだろう。唐突に失踪し、そのまま音信不通となってしまった。そんな感じだ。
ということは、これは……
ちなみに言っておくと、今の俺には連絡手段というのは持ち合わせていない。もっと言えば、所持品はゼロ。スマホやら財布やらといった物は、全て失っている。
だって、あの時は自殺するつもりだったから……そういった物は自分のデスクの上に放置したままだ。持っていったところで、死ぬから意味無いし……だからこそ、手元には何も残っていないのである。
あと、ついでに言っておくと……エリザの家にはテレビが無いし、本はあるけど全て洋書といった感じのラインナップ。俺のリージョン、日本版しか対応してないんだが。
という訳で、この家は俺にとっての娯楽というものが完全に欠落している。まさに寝るだけの為に用意してあるようなものだ。……あれ? 俺が住んでた
いや、せめてスマホがあれば暇を潰せたけど、それもないからなー。なので、こうして退屈しているのだ。
「あー、でも。こんなに余裕がたっぷりあるのは、久しぶりかも。いつ以来なんだろうなぁ……」
元々、俺は多忙過ぎて精神的に参っていたからな。まぁ、社畜ぶりを極めた結果、過労死ラインすれすれまで働いていたわけだし。
そう考えると、こうやってゆっくりできる時間ができたのはありがたい限りだ。久しぶりに何も考えずにゆっくりと過ごす時間も悪くはない。
「けど、流石にそろそろ外に出たいんだけどな」
このままここでの生活を続けていたら、いずれは身体が鈍ってしまいそうで怖いんだよな。主に筋肉とか体力面で。暇つぶしに筋トレでも始めようかしら。
「……とりあえず、手ごろな暇つぶしでもするか」
俺はベッドから起き上がると、軽く伸びをしてから無駄に広いだけの自室から出て行く。監禁じゃなくて軟禁だからこそ、こうして部屋の移動はなんとか許されてはいる。
そして自室を出た俺は、ある部屋に向かって行く。そこがどこかと問われれば、それは……エリザの部屋だ。
「……おはようございます(小声)」
寝起きドッキリのような感じに声を絞りつつ、俺は彼女の部屋に侵入する。別にこんなことをする意味は無いのだけど……まぁ、なんというかノリと勢いというやつですよ。
そして俺の部屋とは違って、立派な調度品などが並べられている豪華な部屋を、抜き足差し足忍び足で歩きつつ、エリザのベッドを目指していく。
ゆっくりと時間をかけて、俺はようやく目的地に辿り着く。そこにはすやすやと気持ち良さそうに眠っているエリザの姿があった。
「……今日もよく寝てるなぁ」
彼女の寝顔を見ながら、俺はふとそんな言葉を口にしてしまう。それほどまでに、ぐっすりと眠っているのだ。すぅすぅと小さく寝息を立てながら眠る姿は、完璧に幼女である。
そんな姿を一目見ただけでは、彼女が吸血鬼だとは思わないだろうな。実際、俺も最初に見た時は分からなかったし。証拠を見せてもらわない限り、分かんないって、あれは。
「ふむ……相変わらず可愛い顔して寝ているな」
そう言いつつ、俺は彼女のほっぺたを軽く指でつんつんしてみる。すると、ぷっくりとした柔らかい感触が指先に伝わってくる。マシュマロみたいな触り心地の良い肌質をしていた。
しかもすべすべしてるから、触っていて気持ち良いんだよなぁ……ずっと触っていたいくらい。そんなことを考えつつ、俺はしばらくの間、彼女の頬を堪能することにした。
えっ? こんなことをしてたらエリザが起きるんじゃないかって? 大丈夫。安心して欲しい。この子は寝たらそう簡単に起きない、寝つきが良い子なんです。だからこそ、継続が出来るのだ。
というのも、吸血鬼の性質なのかどうかは分からないけど……彼女の生活は完全に夜行性なのだ。日が昇っている間は基本寝て過ごしている。その代わり、夜になると元気いっぱいに活動する訳だ。
あれかな? 吸血鬼が日の光を浴びると灰になっちゃう的なやつなのかな? じゃあ、今のエリザを外に連れていけば、消滅しちゃうのかな? まぁ、やらないけども。
といった感じで、今の時間帯はエリザにいたずらし放題、やりたい放題なわけですよ。睡眠中の無防備な姿を見ていると、俺のいたずら心がくすぐられるってもんですよね。
「ふっ、こんな理不尽な環境に押し込まれている以上、見返りが無いとやってられないからな。だからこそ、今のうちにたっぷりと楽しまなければ……」
そう呟いた後で、俺は彼女に向けてそっと手を伸ばす。その手が向かう先は……口元だ。寝ている彼女の口元を目指して、そっと手を近づけていく。
ちょんっ、と人差し指で唇に触れてみると、ふにゅっとした柔らかい感覚が伝わってきた。ぷるんとした弾力のある瑞々しい唇が、なんとも魅力的に見える。
「んんっ……」
不意に漏れた吐息が俺の指先をかすめてくる。くすぐったかったのか、それとも単なる反射行動によるものなのだろうか。どちらにしても、悪くない感覚だ。むしろ最高だね。
「というか、こんなことをしていても、まったく起きないもんな。どうすれば起きるんだろうね」
まぁ、こうした彼女の口元に触れるというのは、以前に試したことはあるからこそ、セーフラインだというのは分かっている。なので、これについては安全だ。
……だが、それで満足をする俺では無い。俺はなにせ極上の暇つぶしを求めている。だからこそ、退かぬ媚びぬ顧みぬといった聖帝な精神で突き進む所存なのである。
という訳で、本日はエリザのセーフラインがどこまでなのか。我々はその謎を解き明かすべく、好奇心という名のジャングルの奥地へと向かうのだ。
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